闇落ち
地味~~に更新。
「闇に飲まれかけていた?……私が?」
「そう。幸い完全に闇に染まっていなかったからこうして普通に話せるようになった訳だけど。実際に今ならカイルを見ても倒そうなんて思わないだろう?」
「あ……うん」
魔物の少年が話しているのは所謂「闇落ち」と呼ばれるものだ。この世界に存在している様々な『魔力の源』のうち、『闇のマナ』に取り込まれてしまう現象が稀に存在する。すると、知らず知らずにそれは精神を蝕み、破壊や殺戮を好むようになり、やがてはひたすらに血を求める狂戦士や異形の怪物へと変化すると言われている。
それに自分が陥っていた━━?
ライムは思わず自分の身体を強く抱きしめていた。まさに背筋が凍る思いとはこの事だろう。
「━━ライム?おい、ライム!」
肩を揺すられて、ライムは我に返った。気がつけば真剣な目でこちらを見ている少年の顔が目の前にあった。
「━━━━あ……」
「お前さんはもう大丈夫だよ。だからそんな顔をしなくてもいいんだ」
そこから一転して優しい声を掛けられ、ライムはようやく身体の強張りが解けた。
「そうか……」
と、安堵したところへ。
「何しろ俺が昨夜しっかり叩き出してやったからね」
「ぶふぉぉぉ━━っ!!」
落ち着こうと口に含んだお茶をライムは盛大に吹いた。
「わ、汚ないなおい」
「な・な・な…………にゃにおぅ?」
真っ赤になって口許を袖で拭うライムに少年はしれっと言った。
「いやだから、昨夜の百叩き━━」
「にぎゃ━━っ!!」
ライムのそれなりに生きてきた人生でもワースト3に入る思い出したくない部類の出来事を蒸し返され、彼女は吠えた。
「どうした?まさかまた闇に━━」
「違うわ!」
「だよねぇ」
とりあえず、万が一にも再び闇に取り込まれたならば、真っ先にこの少年をぶち殺そう━━と、ライムは心に固く誓った。