本の女王
知識とは
人を幸福に導くもの。あるいは人を不幸にするもの
都内某所の高級マンションの一室に彼女は住んでいるという。
優しかった先輩警部はある日私に話したおかしな話。
「自分の功績はすべて彼女のおかげである。」
その話はとても信じられないモノだった。
「彼女は空にある魔窟に住んでいて訪れたモノの幸福を奪う代わりに自分に欲しい知識を与えてくれる。」
その時は飲みの席での作り話だと思った。
次の日先輩は忽然と姿を消した。周りは有りもしない作り話をして先輩の失踪を全く気にしなかった。でも、私は認めたくなかった。来る日も仕事の合間を使って先輩に関する情報をかき集めた。だが、真実にたどり着けそうなものは何一つ上がらず私は途方に暮れる。
そんな時スマートフォンが鳴った。
「もしもし」
『・・・・声紋判定完了。宮口明華であることが確認できました・・・・』
その電子音に驚き私は画面を見る。そこには“落散ル姫”の文字が表記されていた。
『君の事は視亡垢冬くんから聞いているよ。』
スマートフォンから聞こえる幼い少女の声に私は先輩のあの話を思い出した。
『君は今現在から私の“幸福”になってもらう。逆らうのであれば君には最大の不幸を味わうことになる』
「貴方は先輩の居場所を知っているの?」
『これから2時間以内に君のスマートフォンの背景に表示される場所に来るように』
それだけ言うと電話は一方的に切られてホーム画面に戻ると背景がある場所を示した地図になっていた。
そして現在に至る
指定された部屋の前にはメイドが一人立っていた。
「宮口様。お待ちしておりました。私はバルゴと言います。」
そう言うと彼女は深くお辞儀をして部屋のドアを開ける。
「どうぞ中へお進みください。お嬢様がお待ちでございます。」
進められるままに部屋に入ると入り口はゆっくり締り鍵がかかった。
部屋はお世辞じゃなくても綺麗の“き”も言えそうもない。だがごみ屋敷と言うわけではない。几帳面に本が隙間なく置いてあった。さながら本の城。その奥に本の女王が鎮座していた。
「思っていたよりも1953秒も遅かった。君の冊子を書き直す必要がありそうだ」
そういうと少女は自分の頭を二度ほどつつき目をつぶりぼそぼそと独り言を始める。
十秒ほどで彼女は目を開けてこちらを見つめる。
「さて本題に入ろう」
少女は椅子に座したままゆっくりと語りだした。
「私はある理由から白骨になるまでこの部屋を出られない。だからお前から幸福を貪る。その代りに私は城内の知識を貸してやろう。」
「外の情報って・・・・」
「ありとあらゆる情報だ。お前が私とあっていない時のすべての情報。朝起きて眠り夜見る夢すらすべてを私に捧げなさい。」
そう言いキラキラと私の方を見る幼き本の女王の眼には力があり私はため息を一つ。ここ数日であった事を語りだした。
「・・・と言うことで君に会いに来たんだ。」
一通り話し終えると彼女は手を合わせて「ごちそうさま」と小声でつぶやいた。
すると不気味にニヤ付き彼女は口を開いた。
「では私からは鍵を与えよう」
本とは
アナログ式で知識を伝達する手段で最も用いられる媒体。