8話 「粛正!揺れるアーデルハイド」
病棟にはいったキースはマイルズに撤退を具申する。
「こちらキース! マイルズ大佐! 応答願います。」
いくらか待って見たが応答がない。中では傷病兵が横たわっていた。また、周りには大隊直轄部隊が病棟内に残っていた。
「おい。大隊長はどこ行った」
キースは近くの直轄部隊の兵に尋ねた。
「大隊長なら先ほど北口の方に向かわれましたが」
「北口? じゃあ今本部には誰がいるんだ」
キースは言った。
「アーデルハイド少佐が臨時で指揮をとっておりましたが、少佐もすぐに戻ると言って先ほどでてゆきました」
「揃いも揃って......。くそ! とりあえず、第三小隊がここから近いから合流するしかない...か」
大隊長マイルズは高地をぬけ、6名の参謀達とともに平地へ向け逃走していた。
「まさか師団大隊と第一中隊が全滅するとは、くそ!」
確かに師団大隊と第一中隊との交信が途絶えたことは、マイルズにとっても予想外であった。あの部隊が全滅しなければ、高地を守り抜くことができたはずだ。そうすればマイルズは晴れて同盟本部高級将校として出世街道を歩む道だったのだが、こんなところでつまづいてしまった。しかし、仕方がなかった。命には変えられないのだから。
そう車を進めているうちに、一人の人影が見える。
「こんばんは、マイルズ大佐」
前にたっていたのは、アーデルハイドとその部下、モリトールであった。
「お、おおアーデルハイド少佐ではないか。君も乗りたまえ。大丈夫だ。敵前逃亡とはならん。私の父は同盟議員だ。もみけしてくれる!」
「あなた、あたしを少佐にしてくださいましたね。まさかとはおもいましたが体目的だったとはね。結局肉欲のはけ口として私をおそばにおきたかったのですか?私、まだ18ですよ?」
アーデルハイドは淡々と問いつめる。
「いやそういうわけではない!そしていまはそんな口論をしている場合ではない!早く乗りたまえ!」
「では幕舎でのあの行為は何なのでしょうか。」
「いや、だからそれは!今する議論ではないだろう!」
「まぁ、それはまだいいですよ。男なんてそんなもんですからね。ですが」
「敵前逃亡とは何事でしょうか。私や私達の部下を見捨てて。それも、お父上がもみ消してくれるとでも?」
「あ、当たり前だ!私の父はあの同盟議会の…...」
「ご安心を。お父上の前に私の力でその罪をもみ消して差し上げましょう。名誉ある戦死として」
「なに!?」
「死ねよ。豚が」
マイルズの乗っていた装甲車はアーデルハイドの念力でぺしゃんこになった。ぺしゃんこになったスクラップの隙間から、赤い液体が滴り落ちていた。
「お嬢様、死ねなどといってはなりませんよ。お嬢様はアーデルハイド家の息女なのですから」
とモリトールはいった。
「あら、ごめんあそばせ」
とアーデルハイドは手を口に手を当てていった。
「それはそれで可笑しいですな」
「あたりまえよ! バカ! モリトールここは頼んだわ! マイルズ大佐は残念ながら戦死したって処理しときなさい」
そういうと、陣地に向け駆け抜けていった。
「かしこまりました」
指揮系統のない残された第一第二第三小隊と師団大隊の残党は依然、病院にて守備についていた。
「第一のキースだ。レンツ少尉!」
第三小隊に合流したキースは問う。
「レンツです。その格好は。まさか」
「師団大隊全滅、独念中隊全滅、第一小隊全滅。ここにいるのは残党兵五十一名」
キースはぼろぼろな格好で言った。
「ファインマン中隊長は?」
レンツは問う。
「今一人で中央口を食い止めてる......はずです」
「マイルズ大佐の指示を仰ぎたいですが、応答がない」
レンツは言った。
「無駄だ。大隊本部はもぬけの殻。幹部達は遁走した」
唇をかみながらキースは言う。
「まさか。見捨てられたのか」
レンツ言うと、キースは頷いた。
「ではとりあえず基地の連隊に連絡を」
レンツはどうにかしてカテーナ基地の連隊本部に入れようとした。
「無線はつながらないぜ」
キースは言った。
その瞬間、何かが放物線を描いてとんでくることにキースは気がついた。
「よけろ!!!」
速度はない。というよりもボールほどの大きさの者だ。コロンという音をしながら、レンツとキースの前に転がり込んだ。
首。ファインマン中隊長の首である。しかし、目がなく、口が裂けている。
「う!」
キースは驚愕する。投げた方向を見ると、多くの人影と、ゴスロリのコスプレをした女性が確認できた。
「く、敵襲! 正面!」
レンツは身構え命令する。
「だめだ! 戦うな! 病棟内に逃げろ! 北口から脱出だ」
キースが言う。
「なんで?!」
レンツが叫ぶ!
「一級のファインマン中隊長を殺したやつだ。皆殺しにされる。ここは俺がいくから、さっさと逃げろ!」
とキース。
「わかったよ。だけど、死なないで」
「おい! コスプレ野郎! 俺が相手だ!」
病棟に入ったレンツたち残存兵を逃がし、
一人立ち向かうキース。
「あ、イケメン君! あなたが今度の相手かしら?」
ゴスロリが腰のフリルをひらひらさせながら近づいてくる。
「ファインマン中隊長の敵だ」
「ああー、あのおっさんね~。あはは! ごめんね殺しちゃって! あ、そうだ! 最期の言葉聞きたい?」
ゴスロリは不適な笑みを浮かべている。
「そんなもんは聞かなくていい!......なんでもいいからかかってこい!」
「あのおっさんたら、最後は『許してください。何でもしますから。もうやめてください。』とかいっちゃってさ~! 笑っちゃうよね~。ちょっといじめただけなのに~。それで最後は自殺しちゃったよ。」
とゴスロリは顔に笑みを浮かべながら言った。
キースの表情はわずかにひしゃげた。
「......いいから......こいよ! 変態女!」
また、にまぁーと笑みを浮かべゴスロリは言った。
「動揺してる? じゃあ、行くよ」
ゴスロリは地面の石を浮かせ、とばしてきた。
やはり、性懲りも無く石か。返り討ちにしてやる、そう考えながらキースは前に念力を込める。
しかし、石は止まらない。
「なに!?」
石はさらに加速し、頬をかすった。
俺は一級だ。なのに、減速すらできないなんて。
「え~なんで強い俺の念力が微塵も効いてないんだ!? って顔だね~。あのおっさんと同じだぁ」
「てめぇ、なにもんだ。なにもんなんだ!!」
小学校を卒業したあたりから、キースは周りを怖がらせていた。キースは当時4級程度であったが、それでも三百人に一人いるかいないかの神童であった。
キースはその力を歳を重ねるごとに大きくしていった。しかし、大きくなりすぎた力を一般社会は受け入れてくれるはずもなく、選択肢は大学院で研究するか、軍にはいるしかなかった。頭はさほど良くないため、曹候補生として軍に入る。しかしローゼとは二個下でありながら一級という才能を買われ、半年前少尉にまで上り詰めていた。
「きみ、自分強いと思ってるタイプ~?。」
「......別にそんなん思ってねえよ」
「嘘ばっかし! でもまぁ、結局あたしにとっては、一級なんてゴミ同然なんだよねー」
一気に距離を詰め寄られる。
「くっ!」
キースは念力では敵わないと考え銃を取り出す。
「今更銃器に頼るの? イケメン君!」
女から衝撃波が発生し、銃弾諸共、キースを壁にたたきつける。
「ぐは!」
「まぁ、おっさんよりは持ったわよ。よく頑張りました。では動けなくなったところで、拷問の始まり始まり~! ところでねえみてみて!さっきのおじさんの足の裏、すね、太股、手の甲、手の骨、それにそれにほら、男の人の大事なところまで」
ニヤニヤしながら、ゴスロリの女は持っていた小さなカバンの中から肉片を取り出し、一直線に並べた。
「ほらほらー! こわくないの~」
「鬼畜かお前はっ!!」
「鬼畜! いい響きね」
「......一つ死ぬ前に聞かせてくれ。お前等の今回の目的は何なんだ。まさかこんなゴミクズ同然の高地奪回のためにお前らほどの念力者が来た訳じゃないだろう」
「うーん。まぁ、教えてあげてもいいかな!どうせ殺すし。目的はある二人の誘拐よ」
誘拐。だれだ?
キースは疑問に思った。
「もういいかしら。あなたの声を聞かせて。」
そういってゴスロリは包丁を取り出す。
ーーもうすこし、もう少しだ。
キースは機会を伺う。
ゴスロリの女の後ろには、ナイフが浮いていた。
「フェメル少佐!後ろ!」
ゴスロリの部下が叫ぶ。
「え?!キャ!」
ナイフは約五センチほどの浅い切り傷をつけた。とっさに彼女がよけたせいで、致命傷は与えられなかった。
「キャアアアア!!! あたしの顔!!!!!! 傷が!!!!!」
「ちっ! はずしたか......!」
としたうちするキース。
「てめえええええええ」
ゴスロリは叫ぶと、
いきなりキースの足に大きな包丁をあて、切断し始めた。
「ぐあああああああ!!!!!!」
キースが悲鳴を上げる。
そのとき、耳の無線に連絡が入る。
″こちら大隊副官アーデルハイド少佐です!誠に残念ながら、マイルズ大佐以下大隊本部幹部は戦死なされたため、私が指揮をとります。キース少尉。まってなさい。いまいくわ″
「ぐぐぐ...中隊...長?」
キースはかすかな声で答えた。
すると突如アーデルハイドは空から降ってきて、しっかりと着地した。
「待たせたわね。ごめんなさい。本部をあけたことは私のミスです。詳しいことは後で話すわ。もう病棟内の兵も撤退させました。残るはあなただけよ。よくがんばってくれたわ」
キースは安堵からか、気絶してしまった。
「あら、ターゲットさんじゃない。そっちから来ちゃったわ」
とゴスロリがいう。
「誰あなた」
とアーデルハイドはにらみつける。
「名乗る必要はなくてよ」
不適に笑う。
「ああ、ごめんなさい。また今度やりましょう。今日は疲れたわ」
アーデルハイドはそういってキースを念力で浮かせると、空を飛んでいった。
「ま、待ちなさい!」
と身構えるゴスロリ。
「......まぁいいわ。また今度にしましょう。化粧が崩れてしまったし」
ゴスロリはそういって兵を引き連れ、また森に消えていった。




