7話 「決闘!高地夜襲戦」
中央口の第一小隊からは、隣の森のなかへヘリから降下する人の影が見えた。
第一小隊長キース少尉は人数に驚愕し、マイルズに通信する。
「こちらキース。敵が上陸開始多すぎる! 何人いるかわからない。念力部隊第一中隊と師団の奴らを前に回してください! この数は無理だ! ましてや前は森で狙い撃ちにすらできない!」
前方の森の暗闇が、キースをより一層不安にさせた。
″了解。師団の大隊と第一中隊をすべて中央口に回す″
マイルズから通信が入る。
「了解......。感謝します!」
まさか再奪回しにくるとは。キースは緊張の中、一つの疑問が浮かび上がった。
ここの高地にどんなメリットがあるのか。
連邦にとってはこの高地を取られたところで、そこまで痛手ではないはずであった。
森が、揺れている。
どこまで近づいているのか、この長い針葉樹林のおかげで見えない。おまけに夜である。不安と緊張が兵を襲う。
沈黙が二分ほど続き、その沈黙を破ったのは第一小隊に編入した第五小隊の生き残りであるヘッダー上等兵であった。
「キース隊長! あそこに小隊規模の人影を発見! し、しかも先頭を歩いてるやつ、ゲッベルス中尉を惨殺した奴です!」
小声でキースに耳打ちする。指を指した先には、小柄な人影が見え隠れしていた。
「......なに?」
「まちがいありません。あれを念力で飛ばしてくるんです」
ヘッダーが言い切ったと同時にあの石がとんできて第一線の兵を貫いた。
「ぐあ!」
兵士が倒れる。
「くそ! 位置がばれてやがる! 各自応戦!」
キースは叫んだ。
タタタタタと乾いた音が森の木をえぐる。 暗闇夜に包まれる廃病院中央口前では、既に怒号とサブマシンガンの乱射音が混ざり合っていた。
ピュンピュンという弾丸を念力で弾きながら応戦する。しかし念力が非力な者は銃弾の餌食になっていた。
しかし、飛んでくるのは弾丸だけではない。
驚いたことに飛んできたのは、森の『樹木』であった。敵は針葉樹を引き抜き、こちらで投げてくる。
木を引き抜いてくるということは、質量の関係からおそらく四級以上がごまんといることが推察できた。
次々に飛んでくる木々をかわしつつキースも攻撃を真似る。一級のキースは三本まとめて引き抜き、敵に向かって投げつけた。
「たく。念力ってのはワンパターンな使い方しかできなくて困るね」
キースはそう言うと、どんどん投げていった。
しかし、途中キースの投げた樹木はことごとく途中で跳ね返された。
「なに?」
キースが押し負けるということは、特一級レベルがいることを意味していた。
「くそ、特一級クラスがいるのか? こちらキース。本部応答してくれ!」
キースは即座に無線を取り出し本部に連絡する。
"こちら作戦本部。状況は"
マイルズは応答した。
「特一級レベルの能力者がいます。アーデルハイド少佐をこちらへ派遣してください」
"アーデルハイドか。残念だがそれはできない。少佐は今後本作戦参謀としてここで指揮を取る予定だ"
「あの人がいなきゃあ、俺たちは全滅ですよ!特一級能力者を作戦本部においてどうするんですか」
唯一の特一級であるアーデルハイドが来れないとなると特一級クラスに立ち向かうのは非常に厳しくなる。あと一日襲撃が早ければ念力特務隊が対応できたが、既にユーラシア中央本部に帰還していた。そのため、特一級能力者はアーデルハイドのみとなってしまっていた。
"これは我々の決定だ。君はファインマン中隊長と協力して敵を撃破せよ。二人の念力を持ってすれば十分戦えるはずだ。健闘を祈る"
そう言うと無線は切れた。
「くそっ!! 特一級クラスが複数人いたらどうすんだよ! 死ねってか!」
確かに念力はベクトルであるから、合成も可能だ。二人の力を持ってすれば特一級にも対抗できなくは無いが、もし特一級能力者が二人現れた場合、敗北は必須であった。
キースは今度はファインマンに連絡を取る
「こちら第二中隊第一小隊です。ファインマン大尉もうこちらについてますか?」
"ああ! だがこちらも忙しい! こっちにもいやがるんだ! 要件なら手短に頼む!"
無線越しに銃弾が飛び交う音が聞こえる。あちらも随分とて暑い攻撃を受けているようだった。
「実はこちらで我々を上回る能力者が現れました。おそらく特一級! 至急援護に来れませんか!」
"行きたいところだができかねる! 私たちがそちらへ向かえばこちらにいる師団兵は全滅だ。見殺しになる"
「くそ!じゃあ私達がそちらへ向かいます!ここのエリアは放棄して中央口付近のみの防衛に終始しましょう」
"了解した。"
ファインマンのその言葉を聞くと、キースは無線を切り命令した。
「第一小隊撤退! 百メートル後退して中央口近辺の防衛に徹する!」
キースは残りの師団兵と小隊を連れて中央口に向かった。
中央口を守っていたファインマン達と師団兵も猛攻にさらされていた。銃弾もそうなのだが、飛んで来る石や木に、兵はバタバタと死んでいった。
「くそ! 念力兵の数が違いすぎる!このままじゃ突破は時間の問題ですよ!」
ファインマンの部下であるクライスラー小隊長は言った。
クライスラーの言う通りである。とりあえず敵は一人一人の能力が高いように思えた。師団兵が銃弾を撃っても効かないことから、少なくとも六級以上の念力者のみで構成されていることが予想できた。
「こんな奴ら初めてだ。これほどの高能力、そしてこの数の兵で編成された部隊など......」
そう思っていると、何か石のようなものが飛んできた。それはかなりの速度でクライスラーへと突っ込んでいった。
クライスラーは跳ね返そうとするが、減速すらせず石はクライスラーを射抜いた。
「クライスラー!!」
ファインマンは叫ぶと同時に思い出した。
この石は、まさか。廃病院のゲッベルスを殺した......魔の石か。
石は自由自在に動き回り一気に周りの兵を貫いた。
物陰に隠れようとしてもそれを迂回して。
逃げようとしても追尾して。
どうやっても逃げられない死の石に兵はバタバタと死んでいった。
キースが到着する頃にはほとんどファインマン達は全滅に近い状態であった。ファインマン自身も肩に傷を負っていた。
「な! ファインマン大尉なにがあったんですか!」
キースは叫ぶ。
「石だ!あの廃病院の飛び回る石だ!まだそこらにいるぞ!」
ファインマンが言う。
するとキース達を背後から
「そろそろ終わりにしましょうか」
と言う声を聞いた。
出てきたのはへんてこなスーツを着た若い少年である。
それとファインマンの正面からもゴスロリの格好をした女が一人歩いてきた。
「なんだ、おまえら」
とキースが警戒する。
「僕たちはねぇ、別に君たちを殺しに来た訳じゃないんだよ」
少年は言う。
「おまえら、俺らの仲間大勢殺してんじゃねえか。バカにしてんじゃねえ」
とキース。
「キース君。このままでは本当に全滅だ。私と君で相手しよう」
と第一中隊長ファインマン大尉はいった。
すでに味方は相当数減っている。師団大隊の大隊長も戦死している。
「わかりました」
キースはいった。
「あら、一騎打ち? それでもいいわよ。でも、あたし、あのイケメン君ね! おっさんの相手なんて嫌だわ! あなた達手を出さないでね!」
とゴスロリが森の中にいる部下に言う。
「よし、わかったよ。じゃ僕は最初におじさんの相手をするよ。いいね?」
少年はゴスロリに同意を求める。ゴスロリは頷くと、少年は前にでた。
「こい! 少年!」
ファインマンは挑発する。
「ふふ、ほら!」
石をとばす。かわすファインマン。
しかし石は方向を反転してファインマンの肩をかすめた。
「うっ!」
ファインマンは顔をしかめる。だが、かすっただけだ。
「あはは! おしいなぁ」
「くっ、むん!」
ファインマンは真似をするかのように地面の石を少年にとばす。しかし、弾き飛ばされた。
「無駄無駄! 馬鹿の一つ覚えみたいに!」
そう少年がいった刹那、ファインマンは靴に念力をかけ加速する。
「なに......!」
驚く少年が言うときには、すでに拳が少年を吹き飛ばしていた。
「がはっ!」
地面に倒れると、頭を強く打ったのか、気絶した。
「やだ! だっさーい! こんなゴミみたいなおっさんに瞬殺でまけるなんて!! だからあんたは弱いのよ! やっぱあたしが相手するわ!」
「いや、お前は俺が!」
キースが間髪入れずにいった。
「いやキース君!君は残った部下を連れてマイルズ大佐に撤退を打診してくれ。ここは私が引き受ける!」
「あんた。死ぬ気か」
キースは言った。
「ただでは死なんよ」
とファインマンはほほえむ。
「…健闘を祈ります。撤退!病院まで撤退!」
「あら、逃げるの? まっ、いっか。」
と軽そうにゴスロリはいった。
「そういえばおじさん、さっきタダでは死なないって言ってたわよねえ。」
とゴスロリは続ける。
「御託はいいからこい!」
とファインマン
「あなたは、ただで死ぬのよ」




