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6話 「不穏!立ち込める戦雲」

 同盟本部国会に、第六師団長ファウスト中将が召還されたのは葬儀の一週間後のことであった。

「さてさて、我々は兵の損害の為だけに、君を呼んだのではない。わかっているな。」と議長が問う。

「は。あの廃病院に現れた、連邦の特一級の念力者についてご報告させていただきます。彼は、我ら師団小隊二つを即座に全員を殺害、また、通信があった十七時四十分から約五分後には、一階フロアにいた残り四百名前後の将兵を瞬時に殺戮したものであります。また、独念第五小隊以下百余名と交戦。八名をのぞいて、全滅したものであります。また、残存兵によりますと、上級能力者であるゲッベルス中尉をいとも簡単に倒し、その間際、旧時代の念力者と発言していたこともわかっております。」

 議長はメガネを外し背もたれにもたれかかり息をついた。

「もはや虐殺だな。もう少し被害は押さえられなかったものかね?世間は君の批判で一杯だ。」

「は。全く未知数でした。事前にそのような情報があれば......」

「......まぁいい。この度はご苦労。ところで君は、旧時代の念力者という言葉に対しどう思うかね」

と議長が質問する。

「は! 見当がつきませんが、新しい戦争が始まるような、今までの念力戦ではなく新しい念力戦に変わるであろうと考える者からみた、現代の念力戦への批評なのではないか、と私は考えております」

「......そうか。ありがとう。わざわざこれだけの報告の為に本部まできてもらいすまない。君の責任については追って通達する。さがってくれたまえ」

「失礼いたします」

出て行くファウストを見つめながら、議長はつぶやいた。

「予定通りだな」





 ファウストはおそらく責任問題を免れないことは理解していた。

 おそらく近いうち更迭される。そんなことに考えを割きつつ、廊下を渡る。

 門の入り口には、民衆が押し寄せていた。

「ファウスト!息子を殺しやがって!返せ!」

民衆の怒号がなる。

「この度は申し訳ありません。全ては私が無能なばっかりに。」

ファウストは謝ることしかできなかった。

 民衆が投げた石が軍服にあたり、少し土がついたのがわかった。ガードマンにガードされながら車にはいったファウストは大きくため息をついた。

「新しい、念力戦…か。」

ファウストはそう言うと電話を手に取り、誰かに電話をかけた。

「もしもし、私だが准将はいるか?」





「では、これにて大隊士官会議を終了する。解散!」

ローゼとレンツは大隊会議に呼び出されていた。

「ふぅ~。戦力穴埋めのめどは無し、各自待機か。暇になるね」

とローゼが言う。高地攻略後、付近の要塞を攻める予定だったが、予想外の念力兵の損耗にカテーナ基地の上層部は攻撃を一時中断を決定した。

 また、ユーラシア中央作戦本部からしばらくはカテーナ基地には増援は送らないという決定を受け、師団長ファウストは増援が来るまで攻撃を中断することにした。

「暇でいいじゃん。僕は戦いたくないな。いまのほうがずっといい」

「軍人ともあろうものが戦いたくないとは、臆病な!!......なーんてね」

ローゼが茶化す。

「あたしだって戦いたくないよ。そりゃ」

ふふっと笑うローゼ。

「それにしても......ローゼといるとなんか落ち着くよ」

レンツはいう。

「あたしは隊長といると、なんかやらかすんじゃないかって落ち着かなくなりますけどね。」

ローゼは言った。レンツは少し微笑んだ。

「さ、もう遅いですし戻りましょう。とりあえず休めるときに休んでおかないと!」

ローゼはレンツに言うと宿舎へ駆けていった。





 夜十時を回った頃、アーデルハイドは大隊のマイルズの元に来る人事書類を片付けていた。

「ふー。終わらないわね。大体ハンコを押すのなんて機械にやらせればいいのに。五百年前からこの作業はなぜ進化しないのかしら...」

愚痴を垂れていると部屋に大隊長が戻ってきた。

「やぁ、まだやってくれていたのか」

「ええ。仕事ですから。後これだけですし、早いところ片付けてしまいますわ」

アーデルは言った。

「そうか。ところで少佐。君はなぜ副官を受け入れたんだ?君の性格からして事務仕事なんぞは似合わんと思うが」

「浅ましい女と思われるかもしれませんが、出世ですよ」

「いやいや浅ましいなんて思わんよ。ただね君がなぜ出世を狙うのか一応理由を聞いてみたい。」

「私は今の念力者の待遇に疑問を持っているんです。だからそれを改善したいんですよ。出世すれば議題を議会に提出できるでしょう?」

アーデルハイドは適当な理由をつけて答えた。

「ふふ、君はそんな理由があったのか。幸いだったな。私はこれでも議員の息子だ。私をバックにつける気は無いかね?あと三、四年もしたら大佐まで昇進させてやることもできる」

「私はついこの前少佐に昇進したばかりですよ。ましてや、私はまだ18歳です。今回の昇進でも異例なのに、大佐なんて。馬鹿げてます」

「歳は関係ないよ。要は才能だよ。君」

とマイルズ。

「私はつい先の戦闘で二個小隊を失っていますよ。才能があると言われても、皮肉のように聞こえますが」

「それについては前も話しただろう。それは思わぬ事態があったからだ。仕方がない」

マイルズはアーデルハイドの肩をたたく。

「…」

アーデルハイドは押し黙った。

「君、昇進したくはないかね?私の最側近として使えれば…悪いようにはしない。私自身、いや、私の父が念力者の待遇改善案提出をしてやっても良い」

そういうとマイルズはアーデルハイドの膨らんだ胸に手を重ねる。

「なにを! マイルズ大佐!」

「ふふふ。どうだ。悪くは無いだろう」

そういいながら、マイルズは右手でアーデルハイドの陰部に手を伸ばした。

「大佐! あなたこんなことして!」

「逆らったら、どうなるかわかってるね?昇進させることもできるということは逆もまた然りってことだ。南極基地なんかに飛ばされたくは無いだろ?」

ーー逆らえない。こいつには。こいつの父は同盟の議員だ。さからえない。

こいつに逆らったら......私は真実に近づけない。議会の闇に。

「や、やめなさ......い」

普段ならセクハラでぶっ飛ばすところだが…。そう考えている時、幸か不幸か、一つの警報が鳴り響いた。

「飛行物体関知!コードGKD21-5  上陸ヘリ(ファラッド)です!」

大隊長幕舎に通信がはいった。

「くそ!こんなときに!」

マイルズはいらつきながら、幕舎をでていった。アーデルハイドはその場で座り込んでしまった。





 作戦指揮所についたマイルズは即座にいった。

「状況は!」

「ヘリ70機!距離10000まで接近中!」

「70だと?強行偵察じゃあないな…総員戦闘配置!対空戦闘発令!それと、平地にいる独立念力連隊長に念力部隊の応援を要請してくれ。」

連隊通信兵は直ちに通信を送った。

 一方レンツ達もいきなりの夜襲にどたばたしていた。

「小隊集合!各自点呼!報告!」

レンツが呼びかける。各分隊点呼終了後、大隊本部からの命令を仰ぐ。

「こちら第三小隊準備完了」

″敵のヘリ70機がそちら向かっている。貴官らは廃病院南口付近を固めろ!装甲車で移動し、装甲車のミサイルでヘリを撃墜。スタンダードデータ諸入力後、各自発射! ″

マイルズから通信がはいった。

「了解!」

とレンツは手短に応答すると、レーダーを見る。明らかに尋常では無い数の光点が、丸いレーダーには固まってこちらに向かって来ているのがわかった。

「ヘリ70機って。尋常じゃねえな。装甲車18台でどうやって全部撃墜するんだか。」

ノイマンは呆れながら言った。

今回ローゼ隊から指揮をとるレンツは装甲車に乗り込んだ。

「今回は前とは違う。何か嫌な予感がする」

とレンツは言った。

「奇遇ね。私もよ」

ローゼはかすかに笑みを浮かべて言った。

 レンツ達が南口に向かった同時刻、マイルズの元に一つの通信が入った。

″こちら第一小隊。スタンダード全弾発射。すべて迎撃されました″

先頭に配置されていたキース小隊から、ミサイル全弾迎撃されたと言う知らせが入った。廃病院六階の医院長室を大隊本部をおいて、そこで指揮をとっているマイルズは、驚きを隠せなかった。

ヘリは本来ならミサイルを迎撃する手段としては機銃しか無い。しかも上陸用であれば貧弱な機銃しかついていないため、全弾迎撃は考えられない。すると残る可能性は一つであった。

「全弾迎撃、だと? まさか、念力部隊か?」

マイルズの顔には少し、恐怖と焦りが見え隠れしていた。

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