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3話 「初陣!高地攻略戦」

 次の日早朝、「士官!下士官集合!!」と

大きな声で集合がかかる。ブザーの呼び出し音から察するにどうやら戦闘命令のようだった。レンツはすぐさま中隊作戦会議室に向かった。

 隊幕舎に入るとすでに他の小隊の士官たちはすでに集まっていた。

「やば、おそかったかな」

レンツは言った。

「大丈夫。肝心の中隊長がまだきてないので」

ふと席を見てみると中央の中隊長席だけまだ空席であった。

 少し待たせて彼女は現れた。それにしてもあの端正な顔立ちと華奢な体には軍服は似合わない。もはやコスプレだ。

「これから作戦会議を始めます。モリトール!」

アーデルハイドは手短な挨拶を済ませると、すべて雑務要員のモリトールに丸投げした。

面倒臭がりなのか合理主義者なのか、かなり手短に終わらせたいという気が伝わってくる。

 モリトールは説明を始めた。

「では、恐縮ですが私の方からご説明させていただきます。」






 小一時間べらべらと語られた作戦は、高地占領である。現在のここカテーナ基地から三十キロほど離れた高地には、連邦兵が立てこもっていた。

 高地獲得自体にそれほど戦略的意味はなく、モンゴル一体を制圧するためにはとりあえず落としておくか程度である。

「出発は午前十二時よ。食事は事前に済ませて来なさい。以上!解散!」

そういうとそそくさと彼女は宿舎を出て行った。他の士官たちも退室していく。

 レンツの元にローゼ准尉たち第三小隊下士官が寄ってきた。

「隊長。今回は私の分隊ではなく、ホフマンの隊で行動してください。」

ローゼは言った。

「ああ、その話かぁ」

「お恥ずかしながら、私は念力五級です。ホフマンは三級です。力量がちがいます。ホフマンの隊にいた方が安全でしょう」

とローゼ。

「まぁ、十級の僕が言うのもなんだけど、級が高ければ戦闘能力が高いって訳でもないとおもうんだけどなぁ」

レンツがあどけない顔で喋る。

 後ろで、ホフマンが顔をゆがめたのが確認できた。十級が吠えるんじゃねえ。とでもいいたげな顔だ。ローゼはそれに気づいていたがとりあえず話を続けた。

「まぁ、そうかもしれませんが、とりあえずホフマン隊で御願いします。やはりいきなりの実戦ですから。隊長を見くびってるわけではありませんが、やはり慣れない部分もあると思うので」

「お世辞はいいよ。とりあえず......わかった。君に従おう。じゃあホフマン軍曹。頼む」

「......了解」

ホフマンは不満げにレンツをみるが、レンツは気づいていないようだった。

「よし、では準備にかかろう! 僕はとりあえず隊内編成報告をしてくるから、ローゼさんたちは先に戻ってて」

そう言うとレンツは部屋を出て行った。

 出て行くレンツの背中を見ながらホフマンはローゼに言った。

「ローゼ准尉。俺あのガキ嫌いだわ」

クスリとローゼは笑った。

「大丈夫よ。そんくらいで頭に来るってことはあんたも十分ガキだからさ」






 第二中隊262名、第六師団兵745名が、それぞれの車両に乗り込む。乗っている装甲車(AGM25)は対地ミサイル用迎撃システムが搭載されている。

 本来艦船用のものを応用した自動機銃(CIWS)から、スタンダードミサイルまであるその風貌は下手すると戦車よりもごついかもしれない。

「出発!」

 本作戦総指揮官の師団大隊長アッドデニー中佐の合図とともに基地ゲートが開かれ、3列に車両が進む。霧もなく遠くまでよく見渡せるほどの晴天は残念なことに絶好の戦争日和であった。

 念力中隊20台が出発し、その後ろにアッドデニー達第六師団兵が続々と続いた。

出発するとすぐに上空をミサイルが何発も通り抜けている。おそらくすでにミサイルでの電子戦がすでに始まっていることがわかった。遠くでドンドンと花火のような音が聞こえいる。

 アーデルハイドに第六師団大隊長アッドデニー中佐から通信が入る。

″こちらアッドデニー。本部の迎撃から、手動マニュアルに切り替える。ミサイル及び念力ですべて迎撃しろ。あっちはおそらく自動迎撃オートマティックシステムだ。変な攻撃は来ないだろうから、落ち着いて撃ち落とせ″

 ある距離になると、カテーナ基地本部からの迎撃は距離の関係上間に合わなくなる。そのため、装甲車からの直接的な手動迎撃に切り替える必要があった。

「了解」

 アーデルハイドは短く返事をすると、早速さっそくレーダーに点がうつるのを見て、各小隊長に指示する。

「言ってるそばから来たわね...ミサイル(SSM)六発つっこんでくるわ。各隊対ミサイル戦闘用意! まず迎撃スタンダードでできるだけ落とします! 各隊散開!」

念力部隊の20台はそれぞれ第六師団大隊を守るように取り囲んだ。

「各隊へ。初弾六発は私たちが撃ち落とします。迎撃開始ファイヤ!」

 アーデルハイドの乗っている装甲車両AGM25から10発ほどのミサイルが発射された。

爆音とともに発射振動が直に伝わり、アーデルハイドは少しよろけた。

「モリトール! 迎撃状況確認!」

アーデルハイドは叫ぶ。

「五発迎撃! 一発目標外れ! つっこんできます!」

レーダー管制を担当しているモリトールはSSMの一発が、残り5kmに迫っていることを確認した。

「迎撃ミサイルは間に合わないわね。自動機銃(CIWS)の迎撃に任せます! 迎撃開始!着弾まで後15秒!」

バラーーー!という音とともに毎分600発の自動機銃(CIWS)が唸る。

 薬莢が装甲車(AGM25)の上にぱらぱらと降り注いだ。車両からは黄色い弾幕が、空へ線を描いていた。

 走行音に紛れてドオンという音が聞こえた。どうやらミサイルは撃墜したようだ。

「初弾撃墜を確認! 次弾くるわよ! 各隊迎撃!」

戦闘が始まった。各車両からミサイル発射音と機銃音がこだまする。

 最初の六発を皮切りに、ミサイルレーダーにはかなりの数のプロットが映し出されていた。次々に飛んで来る。

 二時方向約五十キロの地点に連邦の要塞があるからか、右舷からの攻撃が激しい。アーデルハイドは命令した。

「......第四小隊は右舷に回りなさい! 第五だけでは無理よ!」

 左舷を警戒していた第四小隊は第五小隊の援護に回る。すると了解、という第四小隊長の返事を聞くと同時か少しだけ遅れて、ミサイル管制のモリトールから報告が入る。

自動機銃(CIWS)残弾残りわずかです!」

 自動機銃(CIWS)は毎分六百発の早さから、打ち続けると五十秒で残弾0(エンプティ)となる。際限なく降り注ぐミサイルに、自動機銃(CIWS)はすぐにうち尽くしてしまった。

 装甲車の自動機銃(CIWS)のエンプティコールが鳴る。同時に一本のミサイルが車両めがけて飛翔してくる。

「ちっ! 間が悪いわね。念力兵だってこんな早い段階で敵に知られてしまうけど.....

仕方ない。念力で撃ち落とすわ!」

そういうとアーデルハイドは手を前にかざした。

ちなさい!!」






 第三小隊(レンツ達)は左のやや中央よりに位置していた。カンカンと言う音がホフマン分隊の車両を打っている。

 高地にそびえ立つ唯一の建物である廃病院と、その周りを取り囲む鉄の陣地からすでにスナイパーによる銃弾がとんできているのだ。

 ピュンピュンという高い音が、装甲車(AGM25)の外壁に突き刺さった。防弾でコーティングされた装甲は完璧だ。しかし一つ弱点がある。それは......運転席。運転席も防弾ガラスで補強されてあるが強度はやはり弱い。サブマシンガンは防げても、スナイパーライフル弾は防げない。

 第三小隊ホフマン分隊装甲車の運転手ホランド上等兵が廃病院から小さな光を確認した刹那、銃弾が正面のガラスを貫通し彼の右頭部を破砕した。

 後方の防護壁にホランドの頭が被弾の振動で叩きつけられ、ぶちゃっというケチャップのような音を壁越しにレンツたちに伝えた。となりの副運転手が隣を見た時には、ホランドは既に絶命していた。

「うわっ! スナイパーだ! 運転手戦死!」

 左隣に座っていたグラマー伍長はホランドの血が目にはいったらしいのか、左目をつむりながら言った。

「副運転手! 運転代われ!」

ホフマンが命ずる。

 グラマー伍長はアクセルだけを踏み続けているホランドの死体を座席から剥がして運転席についた。

 血と白いなにかが、運転手席との隙間から足下にも流れてきていた。

「なに......これ......」

レンツはいう。

 足で触れて見るととても柔らかい。

「脳じゃないですかね」

ホフマンは冷静に言った。

 レンツは冷や汗と激しい鼓動が脈打った。

レンツはこの時人も機械も同じようなものな気がした。壊れた人の姿を見て、自分も戦闘兵器と何らかわりがないことに気がついてしまっていた。使い捨ての消耗品。兵なんて換えはいくらでもいる。

 思いにふけっていたレンツに突然アーデルハイドから連絡が入る。

"こちら中隊本部! 第五小隊車両二台被弾炎上! 第三小隊は右方に周り第四小隊を援護!"

「りょ、了解!」

レンツは答える。

「各分隊に通達! これより右方の第四小隊の援護に回ります!」

 レンツは小隊に命令する。運転手は右に急なハンドルを切り、遠心力でレンツたちはよろけた。

「それにしても炎上って。被弾したの?」

レンツは手すりに捕まりながらホフマンに訪ねる。

「さあね。でも今はそんなことより右に行きましょう。あの数のミサイルを六台だけでは打ち落とせない!」

ホフマンは答えた。

「こちら第三小隊! 合流完了! 直ちに迎撃します」

 そう言うと自動機銃(CIWS)のスイッチを入れた。バラーっという音と薬莢の落ちる音が混ざり合った。

「そろそろですーーー!! 隊長ーーー!」

 ホフマンが叫ぶ。迎撃音がうるさくて何も聞こえない。

「なんかいったーーー?! 聞こえないよーー!!」

「そろそろ高地から300m地点です!!」

ホフマンは叫んだ。

 かろうじて聞き取ったレンツは応答した。

「了解!!!」

 三百メートルまで近づいたところで敵のミサイルはようやく止んだ。どうやらシステム上連邦エリアに入ると同士討ちを避けるためにミサイル攻撃はストップするようだ。レンツたちは高地をトラックで駆け上る。半分を駆け上がった頃、運転手のグラマーから怒声が聞こえた。

「RPG接近!!!!」

ミサイルは止んだが、どうやら高地からの攻撃のお出ましだ。

「どけ!!!」

ホフマンはグラマーをどかすと、前方に手をかざす。

「ふん!!!」

念力をこめ、RPGを爆砕させた。

 爆発の振動が車両を襲った。すでに眼前に迫る高地の鉄のバリケードの隙間からは、自動小銃を持った連邦兵が見えていた。

第四小隊長から連絡が入る

″つっこみます! レンツ少尉″

「了解! こちらも突っ込む!」

レンツは応答する。

「第三小隊バリケード強行突破! つっこめ!!」

三十五トンの重装甲車が次々と鉄バリケードにつっこんだ。けたたましい音を立てて鉄のバリケードを突破する。衝撃で車は大きく揺れた。

「降りてこの場所を確保しろ! ローゼとブラームス隊は右の守りを固めて! ノイマンは僕についてこい!」

レンツは無線で即座に命令した。

 車両を降りると、チュンチュンという音が頭をかすめる。

「一般兵かな? 銃器攻撃だけだ」

レンツは言った。

「さぁ。ただここはそこまで兵はいないと思います。いたとしても上級念力兵はいないでしょう」

ホフマンは言った。

「とりあえず隊長は俺の後ろにいてください。銃弾、十級じゃはねかせないでしょ?」

「まぁそうだねよろしく頼むよ」






 レンツ達はノイマン分隊と合流した後しばらく左に向かった。少し進んで近くに立っていた小屋の前に来ると前方に敵影を発見した。

 小隊規模だ。

「なんだあの数! 一個小隊!? ちゃ、着剣! 対念力戦闘!」

 レンツ達は近くの岩陰や木々に隠れた。

「隊長! かなり多い。一応中隊長に報告しよう。一般兵ならなんてことはないが、念力兵なら少々厄介だ」

先ほど合流したノイマンがいった。

「いや、俺が行く。俺が行って人数を減らして来てやるよ」

レンツが制止する間も無くホフマンは飛び出した。

「な! おい! 戻れバカ!」

ノイマンが叫んだ。

 しかし、ホフマンにはもう聞こえていない。敵が応射する音にかき消されていた。ホフマンは向かってくる弾のベクトルを全て念力でそらしている。

「あたるかよ! こんなへなちょこ弾!」

 





 ホフマンが生まれたところは貧しいスラム街であった。親の名前は知らない。物心ついた時にはすでに野良犬とともに泥水をすすっていた。

 ホフマンと同じような境遇の子供はたくさんいたが、すぐに死んでいった。貧しさのあまりに殺し合いが起こることが多々あったからだ。

 その戦いは、食べ物を奪う戦いではない。相手を殺して食べるための戦いである。カニバリズムで満ち溢れたその死の町は、もはや、人間とは言えぬ者達の集落であった。

 そんな中、ホフマンは生き残ってきた。数ある同胞達を殺めて食らった彼には、類稀なる才能が一つあった。


ーーそれは、念力。


 彼はその念力を頼りにスラムで生き残り、またその念力の強さの噂を聞き駆けつけた同盟軍に入った後も、戦場を己の力で切り抜けてきた。言うなれば、彼にとって念力こそがプライドであり、アイデンティティでもあった。

 ホフマンは敵小隊の銃弾を跳ね返しつつ、およそ五十メートルまで接近した。その時、前から岩が飛んできた。

「くそ!念力者か?!」

ホフマンはとっさに念力を込めた。岩は少し威力は弱まったが直進する。

「ちっ!俺より上の能力者か」

そう呟いたホフマンは右に身体を交わす。その時ホフマンは目を見開いた。直進すると思われた岩は、ホフマンを追尾するように追ってきたからだ。

ーーバカな。途中で起動が変わるなんて、まさか......そんな。

 岩はホフマンの上半身をえぐりとるには十分な運動量を持っていた。鈍重な岩はしっかりと対象を捉えホフマンの上半身を奪った。

 残った下半身はてくてくと何歩か歩くと、その場に倒れこんだ。

「ホフマン軍曹!!!!」

レンツが叫ぶ。

「こちらレンツ隊!ホフマン分隊長が戦死(KIA)!!!!」

レンツは各分隊に報告する。

"なんだって? 了解......状況は?"

ローゼから通信が入る。ホフマンの死にはいささか動揺したように見えた。

「上級能力者......少なくとも二級以上はいる」

"第一小隊を招集しますか。本中隊の念力特化小隊です"

ローゼは言った。

「頼む。できれば分隊じゃなく小隊で寄越してくれ。数が多すぎるんだ」

"了解"

ローゼはそう言うと通信を切った。

 ノイマンがレンツに具申する。

「くそ! まずいぞ隊長! ありゃ二級か一級レベルだ。早くしないと俺らじゃ嬲り殺しにされる。」

「わかってる! いまから救援が来るから持ちこたえるぞ」

「持ちこたえるっていったって、力量が違う! こっちはホフマンが死んだんだ! 太刀打ちできる奴はいない! 虐殺されるぞ!! 撤退だ!」

そういう間に大きな岩が飛んで来る。一メートルほどもある巨岩が、第三小隊に襲いかかろうとしていた。

レンツは目を見開く。

「まさか、この変則的な動き......!やっぱり!」

そういうとレンツは手をかざした。

「おい! なにやってんだ! 十級がどうにかできるわけねぇの知ってんだろ! 潰されちまうぞ!!! 退避しろ! 隊長!」

ノイマンが叫んだ。


「黙っててくれ!!! 集中できない!」

レンツは念力を込める。すると驚くことに岩は徐々に威力を落とし、静止した後地面に墜ちた。

「止まった...!?」

ノイマンは目を丸くしていた。十級が。三級の止められなかった岩を止めた。その事実にノイマンは驚きを隠せなかった。

レンツは顔をしかめ、敵の方を見つめている。

「この軌道......」

レンツは敵のいる方向を見つめていた。

「どうかしたのか隊長?」

ノイマンは尋ねた。

「あ、なんでもない! それより増援は?」

「もう来てるよ。ほら! あっちみてみろ!」

遠くにはすでに第一小隊が見えていた。






 到着した第一小隊によって敵兵は掃討された。第一小隊長キースはホフマンのさらに上を行く一級能力者である。

「レンツ、だっけ。お前の隊のホフマンが戦死したらしいな」

戦場の後始末をしていると、キースが話しかけてきた。

「......」

レンツは黙り込む。

「気にするな。戦場はそういうものだし、今回は奴の軽率と力の過信が己の死を招いたんだ」

「そんな言い方は......!」

「やめろ......ってか。でもな。現場ではまずは原因を探るもんだぞ。弔いは一番最後でいいんだよ」

「僕はそんな冷静に分析できないな」

「...分析できなきゃ進歩はしねえよ。そこで進化は止まったまんまだ。分析しろ。できなきゃ墓場行きさ」

冷静なキースに対しレンツは少し嫌悪感を抱いた。

「あ、それと一ついっておくと、この中には一級とか二級とかの能力者はいねえ。最高級が五級のこいつだ。俺の予想だとこいつは二級ぐらいのやつだと思ったんだが」

キースは死体を持ち、襟の裏に書いてある念力級を確認した。

五級と書かれた念力級の下にFと書かれた文字があることに気づいてレンツは言った。

「やっぱりか」

「おいおいやっぱりって。どういうことだ。何か思い当たる点でもあるのか?」

「ちょっと......ね」






 戦闘開始から三十分後、高地戦闘に終演の兆しが見えてきた。すでに敵の抵抗もほとんど見受けられない。

 アーデルハイドは高地廃病院での戦闘終了を宣言した。

 一方、念力第四第五小隊、第六師団大隊は奥地にある廃病院への制圧へ向かっていた。

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