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14話 「真実!レンツの能力」

「レンツ少尉!」

 アーデルハイドがレンツに強く問いかける。二十秒かそこらの沈黙であった。

 びくっと体を震わせたレンツは、元の世界に引き戻された。

「いきなり黙り込んじゃって。どうしたのよ」

アーデルハイドがレンツの顔を覗く。

「あ、いや。少し考え事を」

レンツは昔のことを思い出していた。

「話して頂戴。あなたがなぜここにいるのか」

「わかりました」

レンツは短く答えると、つらつらと語り始めた。

「僕がいた研究所。それは念力を新たなる段階へ発展させる機関であり、今から30年ほど前に建てられました」

「ちょっと待っていきなりで悪いんだけど、新たなる段階って。どういうこと?」

アーデルハイドは問う。

「念力はアーデルハイド支隊長やみんなもご存知の通り、ある位置にめがけて念ずれば、このように物体は動きますよね」

レンツは机に置いてあった鉛筆を少し動かした。

「そうだな」

キースが短く答える。

「研究所における新たなる念力の着地点は、物体を自由に動かすことができること。すなわち20世紀初頭で言う、「サイコキネシス」みたいなものの完成です。現在の念力では、瞬間的に力を加えることしかできなかった」

「そんなんどうやってやるのよ。確かに、頑張れば途中で向きは変えることぐらいは私にも出来るけどさ」

アーデルハイドは問う。

「初期段階では念力研究所も、ベクトルを高速で連続して念ずることによって、自在な動きを可能にしようとしました。しかしそれではうまくいかない。人間の脳の処理が追いつかないんです。最終的に出した答えは、意識を念ずるのではなく、式を念ずることです」

「式を念ずる?」

ローゼが首を傾げる。

「例えばこの鉛筆を例に取りましょう。この念力を用いるためには、まず、座標系を決めます。簡単に机の上ですから、立体的な座標系は取らずに机と平行な面に対して直交座標系をこのようにとりましょうか。これを頭の中でイメージします」

レンツはそう言うと鉛筆を手に取り、その鉛筆で机に、xy座標軸と、原点を表すOriginの点を書いた。

「そして、次にこの鉛筆をどうやって動かすか決めます。今回はじゃあ、ぐるぐる回る運動にしましょう」

「最後は、その運動から逆算して、運動方程式を導き出して、その運動方程式を意識して対象物に込めてやればいいのです。そうすれば...」

「ははっ。おもしれえな」

キース言った。机の上で鉛筆はぐるぐると回っている。

「これの優れているところは二つ。一つ、好きな方向のベクトルを一人で好きな数だけ加えることができること。二つ目が、加える力自体が何かの関数になっていても構わないということ」

「なによそれ......」

「級は僕にとってはただの加速度合に過ぎません。逆に言えば、光の速度までだったらいくらでも加速できちゃうんです。級が低い方が時間はかかりますが......」

「だからホフマン軍曹が返せなかった岩を返せたってこと?」

「そういうことになります」

「ということはもしかして俺や支隊長より能力は高いのか?」

「最高速度は負けません。ただ、一級レベルまで加速させるには時間がいります。それに比べキースや支隊長は瞬時に加速できる。そこが僕の持つ念力との違いでしょうか。即ち、僕は加速度を与え、普通の念力は初速を与えているということになります」

「へえ。そんなのあたしに隠してたんだ。隊長」

ローゼが言った。

「ごめんねいい出せなくて」

「もしかしてゲッベルスをやった奴らって......そいつら?」

アーデルハイドは言った。

「多分......そうだと思います。石の動きが不自然過ぎ......」

「なぜ早く言わなかったの!? もし早くいってたら、彼らは助かってたかもしれないわ!」

「......すいません。でもこのことはあまり公表したくなかったんです。したらまた、僕見たいな被験体が、今度は同盟からもたくさん生まれちゃうと思って」

「エゴだわ。そんなの!それで助かった人たちは大勢いたはずなのに!」

「......」

「......ごめんなさい。いい過ぎたわ。話はここで終わりよ。とにかく、ここに来る前に約束した以上、上には報告しないわ。キースやローゼも内密でお願い」

「......はい」

「それと、あなたたち。近々作戦があるわ。戦う覚悟はしといてね」

「どんな作戦なんですか?」

ローゼが言った。

「......後でわかるわ。この後の幹部会で会いましょう。帰っていいわ。ごめんね。付き合わせちゃって」

「......失礼します」

レンツ達が帰った後、支隊長室に一本の電話が入った。

"アーデルハイド少佐。私だ"

女性と思われるやや高い声が受話器から聞こえた。


「准将閣下でしたか。彼を入れたのはあなただと聞いた時は驚きました。まさかとは思いますが、あなたも彼と同じ...念力使いなのですか?」

アーデルハイドは笑いながら答えた。

″内緒にしておくよ…それはそうと、すまない。明日の戦い、再三中止するよう本部に掛け合ってみたが、やはり私一人では止められなかった。旧ファウスト中将派の将校も反対してはいるが肝心の中央方面軍の本部は聞く耳持たずでカーチスの命令に従い突撃させろの一点張りだ。私ではどうにもならない″


「そうでしたか…。こうなった以上、明日、全力を尽くします。それよりもレンツ少尉にお会いにならなくても良いのですか?なんなら彼だけ撤退させることも可能ですが」


″今将校クラスが内地に撤退なんて兵に知れたら示しがつかないだろう。最後にいっておくが今回の作戦はかなりきな臭いんだ。気をつけてくれ″

そういうと電話が切れた。そのとき時計の針はすでに16時を回っていた。





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