12話 「過去!連邦念力研究所」
十六年前、ドイツ南部に位置している連邦念力研究所は、周りに生息する動物達に対して確かな存在感を示していた。
山奥にひっそりと潜む四角形の巨大な建物は、その周りにある森に守られているように錯覚された
連邦念力研究所ヒュットナー主任研究員は、被検体の作成のため、精子バンク室に向かう。堅いゲートを開けると、数々の名前のラベルが張ってあるケースが何列にも連なっている。
ヒュットナーはそこの四列の二個目に位置するケースを取り出す。
『アルベルト・アインシュタイン』
ケースにはそう書かれていた。
「アインシュタインの脳から取り出した遺伝子を用いて作ったこの精子ならば…」
そういうと、静かに部屋を後にした。
一年後、レンツは誕生した。
レンツは三年の養育期間を経て、三歳の時に初めての実験の場に連れ出された。
そこには、たくさんの幼い子供達が研究員の前で、念力測定をしている。
学校の体育館ほどの大きな部屋に五百人ほどの子供たちが集まっていた。
「さあ、動かしてごらん? 手で動かしちゃだめだよ?」
お子様言葉を使い、研究員は子供に促す。
研究員は顔は笑ってはいるが、目は笑っていない。
二つ前の子がおもりを念力で動かしている。
「すごーい! よくできました! じゃあ、あっちでまっててね!」
そう研究員は指示すると、小さな張り紙で「合格者」と書かれた扉の中へ誘導する。
子供は明るい返事をすると、駆け足でその扉の中に入っていった。
「じゃあ次の子! これ、さっきの子みたいに動かしてごらん?」
またおもりを台におき、念力で動かすよう促す。
しかしその子は動かせなかった。
「こんなのできないよぉ」
そういうと、ぐすりと泣き出してしまった。
一瞬研究員は顔をしかめたが、また顔に笑みを浮かべ、明るい口調で言った。
「そうだよね?難しかったよね?」
やはり、目は笑っていない。多感な子供だったレンツは後ろに並びながら、なんか怖いなという印象を彼に抱いた。
「じゃあ君はあっちのお部屋で待っててね」
研究員はそう言うと、今度はまた別の部屋。
「不合格者」とかかれてあった部屋へ誘導する。
「えーっと次はレンツ君か!じゃあやってみよう!」
明るい口調で行ってはいたが、レンツは何と無く危険を感じ取り、本能的に緊張が駆け巡った。
「うん」
短く答えると、レンツは重りにめがけて何と無く念じた。才能か偶然かわからないが、無事重りは五センチほど右に移動した。
ニヤッと研究員が笑い言った。
「よくできました!あっちでまっててね!」
レンツは誘導されるがまま、合格者のみが入ることのできる質素な扉へと入っていった。
一時間ほどがたち、研究員が合格者のあつまる部屋へ入ってきた。
「さて、君たちはすごーい才能ある子供達です!」
合格者があつまる合格室で研究員は言った。
「ねえねえ! ライン君やアイル君達はどこいっちゃったの?」
一人の子が、不合格となった他の子がどうなったのか訪ねる。
「えーっと君はライプニッツちゃんだね? それはこれからお話しよう!」
そういうと、モニターを見せる。
五メートルはあるかというモニターに、鮮明に「不合格」だった子供の末路が映し出された。
「彼らは役にたちませんから、このように、殺してしまいます。まぁ、一部の女の子や、男の子は、次世代の子供達を作るための母体としてたまーに命を免れる子もいますが、ふつうはこうやってローラーで粉々にします。」
そこには恐るべき光景が目に映っていた。高速に回転されるベルトコンベアにながされ、最後は奥のローラーで次々と子供達がぺしゃんこにされている。ローラーには、薄っぺらくなった死体がこべりついていた。その光景に、泣き出す子供、「殺すってなあに?」と問いかける子供、笑う子供。様々いたが、レンツはそのどれにも属さず、無表情でしにゆく彼らを見守っていた。
「かわいそう」
まだレンツも死について理解に至ったわけではなかったが、レンツは彼らに哀れみにも似た感情を抱いていた。
数分もすると研究員が大声を上げる。
「でも君たちは、あの子達と違います!そう、選ばれた子供達なのです!」
研究員の顔には不気味な笑みが浮かんでいた。




