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11話 「軌跡!レンツとキース」 要塞戦前夜2

 昼頃になると既に雨は止んでいた。

地面に水溜まりができている。キースは顔を上げて空を見上げると、あまり速く走れないその足で、幕舎の方に駆けていく。幕舎に入ると、中の私物箱の中から一つの写真を取り出した。

 両親と妹のエリーが亡くなったのは、十年前。まだ高校生だったキースは、連邦と同盟がアメリカを戦地として争っていることから疎開先としてオーストラリア大陸にわたっている最中であった。民間船でわたっていた時、連邦のイージス艦から発射された対艦ミサイルで沈められた。

 その時、キースは向かってくるミサイルの衝撃波を念力で受け止め、家族を守ろうとするが、そのときキースは念力四級であり、すべて受け止められるほどの能力はなかった。

 結局、衝撃波から身を守れたのは、自分とエリーの下半身、それと父親の右手のみだけであった。残った家族の『部品』のみを残し、家族の肉体は霧散してしまった。

 それから生き甲斐を失ったキースは、意気消沈し、しばらく無気力な生活が続いた。その生活の中で『自分ら人間はなんのために生きているのだろう』と疑問について、毎日のように自問自答し、答えを探した。だが、未だに答えを出せていない。立ち直ったあと、また軍にはいった後も、いつも周りへ接する気さくな態度とは裏腹に、キースは一人だけの時、いつもこの答え探しをしてしまうのであった。

「おれは戦ってるよ。おれの家族を殺した連邦を相手にな」

キースは呟くとアーデルハイドの元へ向かった。




 レンツが支隊幕舎に入ると、アーデルハイドが支隊長の席に座り、ローゼとキースが部屋の長椅子に座っていた。

「レンツ少尉。みんな揃っているわ」

レンツはアーデルハイドの挨拶に、なにも言わずに敬礼する。

いすを回転させながらアーデルハイドは言った。

「あなたには驚きだわ。まさか十級なのに、念力隊に配属されるなんて。」

レンツはまだ押し黙っている。

アーデルハイドは何か返答をまっていたが、レンツが何も喋らないのを見て、話を一方的に続ける。

「何かあると思って調べさせてもらったの。これ見てちょうだい」

書類をレンツに渡す。

『レンツ=アインシュタイン 年齢十六歳 生まれは精子バンクによる連邦念力研究所内。九歳までそこで育つも、途中数人の仲間と脱走。連邦から追われるが、同盟領土のイタリアまで逃げおおせる。その後は中学高校を飛び級で卒業。十三歳でパトリシアン大学理学部物理学科に入学。飛び級二年で卒業し、十五歳で、旧ロシアモスクワ幹部候補生学校に入隊。十六歳 旧モンゴル領内カテーナ基地に念力士官として少尉任官』

「面白い経歴ね」

アーデルハイドは言った。

「別におもしろくないですよ」

「いや、面白いわ。特にこの連邦念力研究所。ここで何をしていたの?」

「実験ですよ。でも僕はただの被検体ですから、何の実験かはよく知りません。」

「どんな実験?」

アーデルハイドはさらに深く質問する。

少し間をおいてレンツは答えた

「…どうしても言わなきゃいけないですか?」

「上官命令よ」

「たとえば、脳をいじくり回されたり、あとは念力の練習だとか。変な薬のまされたり、いろいろやりました。あんまり覚えていません」

アーデルハイドはレンツのあまり喋りたくなさそうな様子をくみ取り、それ以上は深くつっこまないことにした。

「そう。よくある映画の人体実験みたいね」

アーデルハイドは書類をデスクにおいた。アーデルハイドは続ける

「あなたがなぜここに配属されたかも調べさせてもらったわ」

「あなたは当初は念力士官ではなかったものの特例で認めてもらったらしいじゃない」

「そうですね。なんか、入れてって言ったら入れてもらえました」

「馬鹿!そんな軽いノリで入れるほど部隊人事は甘くないわよ。裏には何かあると思って調べさせてもらったわ。」

「裏なんてあったんですか?知らなかったです」

「白々しい。あなたの念力部隊の入隊にはある本部将官の口添えが絡んでたわ」

「いや、本当にそれは知らないんです。別に僕、無理なら一般所属でもいいと思ってましたから」

「......まあいいわ。まだ質問はあるからね。あなたはなぜここを志望したのか?最前線で人気ワーストスリーに入るカテーナを!」

「そして最大の謎は、この前の高地攻略戦。ホフマン軍曹が押し負けた攻撃にあなたは十級なのに競り勝っている!!」


「......話しなさい。全て。別に支隊のキースやローゼにくらい、真実を話しておいてもいいでしょう?」


「......わかりました」

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