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4 生死

「あ、いやごめんなさい!!」


その手に気づいたのが先か、彼女が手をどけたのが先か

反射的に置かれた手は反射的に引っ込んでいった。


「や、大丈夫。」


なんか言わなかったら気まずい雰囲気だった、だからとくになんでもないような返事を返した。


「あなたが悪いんですよ、そんな身体で起き上がったりするから――。」


そうか、忘れていた。僕そういえば怪我してたんだっけ…………

待て待て、怪我じゃないよ。僕は今なんの世界にいるのかっていう根本的問題を忘れていた。

怪我云々、死んでるんだから関係ないじゃないか。


考えるべきことを思い出した僕へと彼女は言葉を続ける。


「お願いですから、じっとしていてくださいな。私がさせてしまった怪我、悪化でもして死に至るようなことがあれば私は……どうしたらいいか…………」


そうか、これは怪我なのか。

確かに痛い。すっごく痛い。死んじゃうんじゃないかと思うけど、


「あの、僕もう、死んでますよ?」


若干顔を赤らめながら悩んでいた彼女は僕の一言に目を丸くする。


「え?」


目を覚まして最初の頃は後世にでもやって来たか、と浮かれていたがよくよく考えてみれば僕自身の記憶があった。だから後世じゃない。だって僕は僕の前世を、覚えていないから。

だったらここがどこか、答えはひとつ。


「だってここ、死後の世界でしょ?」


地獄でも天国でもなさそうなやんわりとしたこの空間は生前想像するものなどいない異世界である。

今日から僕はこの空間で生きていくんだ。


「清々しい顔をして、何を言っているのですか……」


肩を震わせながら彼女は言葉を絞り出してきた。


「あなたは……あなたは、生きているんです!」


か細い叫びはしばらく続いた。


「私はあなたを敵だと思いました。私を抹消しに来たのだと。だから戦おうと思いました。でもあなたはなにもせずただ呟くだけの人形でした。だから試しに一度、軽く攻撃したら……あなたは倒れました。」


段階を踏んで説明されてるんだろうけど、わからないぞ僕には……


「倒れたあなたに近づいたら、あなたの腕から、全身から、赤い血が……流れてました。」


その言葉の直後、彼女はその場に座り込み頭を下げた。そして――


「ごめんなさい……!あんなところに赤い血を持った人間がいるなんて思わなかったんです……!ごめんなさい、ごめんなさい!!」


耳を塞ぎながら、泣きながら。

僕の前で彼女は泣き続けた。

僕はどうしたらいいかわからない。

だって、彼女のいっていることがわからないんだ。





しばらくするとと、彼女は落ち着いた。


「あのう……」


何か話しかけようとしたがもたついていたためか、僕の台詞は彼女に遮られる。


「薬を作りました。切り傷に効く薬です。きっとよくなります。よくなったら、境の向こうにお連れします。だから、今はここで、安静に。」


そういうと、鍋だ小鉢だを並べて準備を始め僕の前に座る。


「聞きたいこと、きいてもいいですか?」


頭がこんがらかって何から聞くつもりなのか僕は。


「どうぞ。」


言いながらするすると腕の包帯をはずしていく彼女に僕は聞いた。


「僕、生きてるんですか?」


とりあえず、根本的なとこから。


「はい。危うく、私が殺すところでしたが。」


「僕は、なぜここにいるのですか?」


死んでないとしたら、ここはどこなのか。


「私があなたを攻撃したとき、初めてあなたが罪のない赤い血を持った人間であることを知りました。まだ息もしていたので助かるのではと思い、家にお連れしました。」


聞いても理解できないのは僕だけか。




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