3 初対面
――強い薬の臭いが、僕の鼻を刺激した。
あれからどれくらい眠っていたのだろう。目が覚めたということは、もう次に生きることが決まったのだろうか。
僕はゆっくりと目を開く――。
「家……?」
そこには木造の天井が見えた。
身体の上には程よい重みがある。ふかふかした結構な布団が僕にはかけられていた。
「痛っ……」
起き上がろうとした僕はまた痛みに襲われた。
恐る恐る腕を見ると、
そこには真っ白な包帯が巻かれていた。
「なんで……?ここどこさっ!」
慌てて叫んだ僕の声に
「ここ?ここは私のおうちです!」
まさかの答えが返ってきた。
いや、ここが彼女のおうちなことが"まさか"な訳じゃなくて、返事が返ってきたのが"まさか"なんだよ?!って――
「人ぉ?!しししし、しかも女?!」
あぁ神様ありがとうございます。
僕の生まれ変わりは彼女のいる男性なんですね、いやはや、ありがたや。
「ちょっと、何を拝んでいるんですか?」
あ……
思わず手を合わせ木造の天井を仰いだ自分に気づく。
「い、いや。なんでもない。」
慌てて答えたはいいけど丁度良い言い訳が見当たらない、
彼女がいるのは僕がいる部屋からつながる台所らしき所。
ほっそりとした後ろ姿はまさに背中美人。
…………ん?背中?
僕はまだ彼女の顔を見ていない。
僕から見えているのは彼女の後ろ姿。
つまり、彼女はこちらを見ていない。
どうして僕が天井に手を合わせているのが、見えたのだろう。
「あのう……」
もしかしたらここはまだ死後の世界の続きか?
だとしたら、この背中美人は僕の彼女じゃなくて
"化け物ですか?"
いやいや、そんなこと聞けるわけないだろう。
普通の女の子だったらめちゃめちゃ傷つけてしまうだろうし、
万が一化け物だったら、正体がバレたそいつは僕に襲い掛かってくるかもしれない。
こんな身体だ。化け物に襲われたら確実に殺される――。
ん……?
「なんで殺される心配してるの、僕(笑)」
だって、僕もう死んでるんだし。
そうとわかるとなんだか笑えてきた。
「もしもーし。」
「うわぁ?!」
頭上から降ってきた台詞で我に返る。
お腹を抱えて笑うのを堪えていたら、いつの間にか彼女は近くに来ていたのだ。
「あ、えっと……。」
瞬間、言葉を失った。
彼女と目があった。
化け物なんて疑ったことを深く反省するよ、
彼女は……美しかった。今まで見たなかで誰よりも。
「どうしたの?」
見られてる。僕、今彼女に目を見られてる。
「おーい?」
綺麗な目。いったい何を見てきたらこんな透き通った瞳になるのだろう。
醜い争いも、憎しみも悲しみも、哀れな者たちを
この瞳は見たことがないのだろう。
「綺麗だね。」
自分の声が聞こえてはっとする。また僕は何を口走って……
「あ、や違うんだ、いや、違くない。えっと、君が綺麗なのは、違わない。事実だよ、でも、僕は――。」
弁解しようとした僕から彼女は急に離れていく。今の僕から見えるのは、また後ろ姿だけになる。
「……なんか、ごめん。」
こういうとき、慣れた男なら何を言うのかな。女の子となんかあまり接してこなかった僕にはなにも浮かばない。異性と接したのなんか、お姉ちゃんが最後だった気がする。
とにかく立ち上がろうと身体を起こす
痛い……でも…………
「大丈夫?」
なんて言ったらいいかわからない。でも、なんか言わなきゃいけないと思ったんだ。
でも、僕が身体を起こしたことに気づいた彼女は――
「だめっっっっ」
今までで一番大きい声で叫んで僕を止めた
ううん、止めたのは声だけじゃない
僕の肩に彼女は手をおいていた。