【第9セクション】
(M:マモル、A:明、Q:クア)
※いよいよ、最終セクションです。
・・・
M「ふうん。でも、俺の説だと、どうして、不思議が不思議じゃなくなるの?」
A「別に俺は、お前の説全てを、そのままに受け取ったわけじゃないが…コンピュータの中とか、そんな閉じた考え方をしないにしても…何らかの方法で、ある一つの世界を、電子的にも、物質的にも忠実に再現できる技術があったとして…その中に暮らす俺たちは…そこが、再現された世界だと気づくことは…できないだろう」
M「え?…コンピュータ上の仮想の世界…じゃなくって…物質それ自体も再現しちゃう世界なんて…あるの?」
A「あるかどうかは知らん。あり得るという話だ。…そもそも、『物質』と簡単に言うが…『物質』とは何か…なんて定義は…これまた…今までの議論と同じかそれ以上の議論をしないといけない概念だぞ?」
M「わぁ。ごめんなさい。もう勘弁してください」
A「俺だって、いまから『物質』論を展開しようなんて気力はないよ。だがな…空気も水も土も火も…風も雷も金も…」
M「あれ?実は…兄貴はファンタジー好き?」
A「うるさい。そういった基本元素っぽいものも…分子やら原子やら…素粒子やら…光やら量子やら…なんやらかんやら…そういうミクロの基本粒子…そして惑星やら衛星やら…恒星やら銀河やら…大宇宙を考えるマクロの現象も………俺たちは…そのもの自体を、その物として理解できているわけでは…何一つとして無いんだぞ?」
・・・
M「あぅあぅ」
Q「お兄様の迫力が恐いほどに膨れあがってきてますのにゃん!」
A「す。すまない。怖がらせる気はないんだが…」
M「ど…どういうこと?」
A「俺たちは、それを観測し、計測し…結局は、それを分析した結果の数値や性質…位置や温度や密度や圧力、ベクトル、反応、ふるまい…その他のそのモノの持つ属性をもって、そのモノの姿を理解している…つもりになっている」
M「???」
A「例えば…『火』を例にとって考えてみよう」
M「燃えてて、近づくと熱くって、ボウボウでパチパチいって…」
A「それが『火』か?」
M「うぅ…」
A「多少なりとも、科学的に表現すれば…『火』とは高温のガスのある一つの状態に過ぎない」
M「高温のガス?」
A「そうだ。木でも紙でも、何でも良いが物質を燃やす。高い温度にする…と、そのモノは熱により溶け、金属など場合によっては液状になり、最終的には気化…つまりガスの状態になる。だから…火が燃えさかる直前に立ちのぼる煙…逆に火が消えた直後の煙…それらと大きく異なることはない。その煙がもし、さらに高温となりイオン化してプラズマ状態になることがあれば…それを人は炎…もっと単純に『火』と呼ぶだろう」
M「あぅ」
・・・
A「だがな。もしもだ。空間に…『火』を見た時と…いや…観測した時と全く同じ状態を自由に再現できたとしたら?」
M「ひ…『火』を再現?」
A「あぁ。そうだ。そこに、人が熱いと感じ、計測器にも高温を示し、さらにイオン化しプラズマ状態となった粒子が存在する…かのように見える…状態。それを、実際の火を燃やすという方法以外で作り出す」
M「なんか魔法みたいだね?」
A「そうだな。魔法とはそういうものかもしれない」
M「じゃぁ…異世界…って、みんな…あるモデルとなる世界を忠実に再現したもの?…ってこと?」
A「忠実である必要はない。物理法則が破綻して、世界が世界としての姿を保てなくなるような改変でなければ…いろいろなアレンジをすることもできるだろう?」
M「ねぇ。ねぇ。…兄貴の言うことは、なんとなく理解出来るけど…それってさ、兄貴が嫌いな考え方なんじゃないの?」
A「…あぁ。あぁ。そうだな。この考え方は…一つの可能性を覗き、俺たちのこの世界自体が、何者かによって、別の世界をまねて創られた世界…ということになる」
M「一つの可能性?」
A「俺たちの世界が…オリジナルなら。なんの問題もない」
M「…あぁぁあ」
・・・
A「…とにかく。この考え方なら…異世界と我々の世界が似ている理由が明確に説明できる」
Q「………あの?…よくわからないんですけど…ということは、私は誰に創られたんでしょうかにゃん?」
A「はぅ!」
M「…あ。そうだよ。兄貴理論だと、この世界はオリジナルだけど…クアさんたちの世界は多少のアレンジがあっても、誰かに創られた模倣世界ってことになっちゃうよ?」
A「あ。…いや。あの。そ。ち。違うんだ」
M「自分の世界さえオリジナルだったら…人の世界は…どうでも良いわけ?」
A「あぅあぅ」
Q「クスっ…面白いですぅ。やっぱりお二人はご兄弟ですにゃん。『あぅあぅ』言う姿がソックリですわん」
M「まぁ…同じ親から生まれたんだしね。似てるでしょ。そりゃ」
A「くっ。マモルなんかと…」
M「兄貴。もう、諦めなよ。親父にコンプレックスとか競争心を抱くのはいいけどさ。仮に、この世界が神様の創ったものじゃなくって、オリジナルの世界だとしても…兄貴がある意味…生物学的というか性的というか…そういう意味で、親父につくられた…って事実は消せないんだからさ」
A「うがぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
Q「にゃん!?」
M「あぁぁ。兄貴の発作が!?」
・・・
A「………はぁ。はぁはぁ。はぁ」
M「だ。大丈夫?」
A「いや。わかった」
M「分かったの?」
A「クアさんは、神様を信じますか?」
M「!?…きゅ、急に宗教の勧誘?」
Q「はい。私たちの世界は、神によりお作りになられ、私も神のご加護により因子の能力を使うことが許されているのです」
A「うん。よかった」
M「???」
A「なら…問題ない」
M「…も、問題は解決したの?」
A「あぁ。俺のこの世界は、誰にもつくられていないオリジナルだ」
M「はぁ。別に俺はそれでかまわないけど…」
A「そして、クアさんの世界は、クアさんの信ずる神様によって…オリジナルである俺の世界に似せられて創られた!」
M「おぅ。大胆な結論ね!…でも、クアさんとこに、そんな凄い神がいるなら、こっちの世界のことだって…」
A「シャラァアップ!黙れ下郎!…クアさんの神様は、クアさんの世界に常に寄り添っておられるのだ。俺の世界にはなんの関係もない」
M「そ…そ、それで兄貴の気が済むわけ?」
A「おぅ。そうだ。だから。因子の能力とやらは、クアさんの世界では使えても、俺の世界では使用制限があるのだ!」
・・・
M「うぅ~~~~ん。なんだか、加速度的に説得力が無くなっていってるよ?兄貴?」
A「うるさい」
M「別に全部の世界が同じタイミングで、同じキッカケ?によって生まれたから…違いが生じるよりは、似ているっていう結果の方になりやすい…とか考えてもいいんじゃないの?」
A「あ」
M「…それで、良いんでしょ?」
A「・・・」
Q「ご主人さま…またしても、お兄様が固まりましたわん!」
M「…はぁ。もう、何か疲れちゃったから…このまま放っておこうか?」
Q「放置プレイですにゃん?」
M「あぅ。なんかさ…クアって、こっちの言葉のボキャブラリが…偏ってないか?」
Q「そんなこと…おほほほほ…ですにゃん!」
M「ま。まぁ…いいけどね。もう。なんかお腹へったから。夕食にしようよ」
Q「かしこまりましたわん!…ご主人様のために、クアが腕によりを掛けますにゃん!」
A「あ。…待て二人とも…俺の存在を忘れるなぁ~~~~」
そんな会話が…地球世界の片隅で交わされていようとは…基盤世界の人々に思いもよらないこと。
しかし…真相はどうであれ、二つの世界は…既にそれぞれが欠かせない歯車として密接に噛み合い…複雑な動きをする大きな運命として…ゆっくりと回り始めているのだった。
・・・
マモルと明の異世界談義…今回は、これにて終了です。【了】