【第5セクション】
(M:マモル、A:明、Q:クア)
・・・
A「ところで…。ここまでの話で、次元…という言葉の意味について…少しは理解できたかな?」
M「うん。兄貴の超誘導尋問に、そのまま洗脳されました結果を発表すれば…つまり『位置』を特定するために『数値』が幾つ必要か?…ってことだね?」
A「まぁ。合格点をやらないこともない」
M「あれ。100点満点の答えだって思ったのに?…なんで?」
A「『位置』だけを特別視することが…思考の限界をもたらしている根本の原因だからだよ」
M「ん?…『位置』を特定するって考えちゃだめなの?」
A「駄目じゃ無い」
M「あぁあん!?」
A「まぁまぁ。そう憤るな。どこの恐い兄ちゃんだお前は。眉間にしわを寄せるな。年寄り臭い顔になってるぞ?」
M「だって兄貴がワケのわかんないことを言うからさ」
A「俺たちは、視覚に頼った生き物だから、どうしても世界というのは空間。つまり位置情報に支配された世界だと限定して感じがちだが…」
M「うん。だって、しょうが無いじゃん。それが世界だし、宇宙でしょ?」
A「いや。それが『俺たちが感じ取れる』世界であり宇宙だ」
M「ややこしいこと言わないで!」
A「まてまて。それでも、これは重要なコトなんだ。…難しいかもしれないが、話を1次元の世界の住人に戻そう。いや。今度は0次元から行こうかな」
M「むぅ。多少は、それなら想像しやすいかな?」
・・・
A「まぁ。所詮、俺たちは0次元や1次元の世界の住人ではないから…限界はあるが、5次元やら99次元やら…大きな次元を考えるよりは考えやすいだろう?」
M「うん」
A「…ということで、さて0次元。そこに俺は意識としている。さて、何を考える」
M「脳みそが無いから何も考えられない…」
A「あぁ…。身も蓋もないことを…。というか、それだって俺たち人間に特別な思いを寄せた主観的な結論だろう?。俺たちは本当に脳みそで物事を考えているのか?」
M「え。だってそうじゃん」
A「学校で習った…とか、本で読んだ…とかだろ?…鵜呑みにするだけの確信が、本当にお前にあるのか?」
M「えぇ?…そ、それは…」
A「例えば、脳と同じ成分で、脳と同じ見た目の物体を創ったら…それは思考を始めるのか?」
M「そんなの…分かんないよ」
A「だろ?…分からないんだよ。俺たちは、俺たちを俺たちたらしめている究極の自我であるところの思考が、実際にどこで、どう生まれて、どう働いているかなんて、知らないんだ。それこそ、異次元、異世界の存在であるかのようにな」
M「むむむ…。そう言われてみれば…」
A「とにかく。思考は、存在する。…その事実だけを認めて、話を0次元に戻そう」
M「うぅ。もやもや感が…このモヤモヤ感が…」
・・・
A「いいから。諦めて、想像しろ。俺様的解釈による0次元には、『時間』という要素しか存在しない」
M「ということは、位置…云々ってのは無いってこと?」
A「そう。俺たち3次元の空間に住む…と認識している…人間たち的な意味での位置は、考えようがない。…だって、時間というものしか存在しないんだから」
M「う。…むむ」
A「…だが、しかし。その場合…『時間』を、どのように感じるのかは…俺たちには不明だ。ひょっとしたら…その0次元の住人にとっては、1次元の住人にとっての『長さ』…つまり『自分からの距離』とまったく同じように感じられるかもしれない」
M「ひょえぇぇ!?」
A「…そんな、素っ頓狂な声で驚くなよ。これは、超重力下の世界…例えば、お前も聞いたことがあるだろう?…ブラックホールという重力の塊のような天体を。その近傍まで近づいてしまった時のコトを思考実験すると…実際に、距離と時間は、その概念において性質が逆転する…というのは、俺が考えたことじゃなくて…アインシュタイン先生やホーキング博士だって…た、たしか…仰っていることなんだぞ?」
M「ほ…本当に!?」
A「ご、ゴメン。物理学史については、ちょっと自信がなかったわ。俺。…と、とにかく、相対性理論やら宇宙論やらを考えている科学者や物理学者も、超重力の影響下についての思考実験としては、距離と時間の意味の反転現象については議論されているってことは、間違いない」
M「どういうこと?」
・・・
A「…詳しいことは本とかで後で調べろよ?…簡単に言うとな、ブラックホールに近づくと、近づくほどに重力の影響が強くなっていくだろ?…そうすると、重力の影響によって、もう自由に移動することが不可能になってしまい、俺たちが時間を未来にしか進んでいけないのと同じように…空間上の座標をブラックホールの重力の中心に向かって、ただひたすら落ちていくしか出来なくなる…ってことになる」
M「なるほど。…おれも、ビルの2階なんて低い場所からだけど…落下する最中に真横に移動…なんてできないってことは…経験上わかるよ。落ちるしかなかった。んで、顔面を強打して、すんげぇ痛かった」
A「な。なるほど。それで、そんなにアホな顔になったんだな?」
M「アホかどうかは、関係ないだろ!」
A「あぁ。すまんすまん。でな。そうやって空間が時間としての性質に近づくと、今度は、そういう世界で時間を考えた時に、俺たちが住むこの通常の空間とは違って、時間が同じ速度で前にしか進まない…という縛りを気にする必要が無くなるんだ」
M「はぁ?」
A「…お前の気持ちは良く分かる。頼むから…詳しくは後で物理学や天文学の参考書を読んでくれ…。だが、俺たちが時間の流れに逆らえないのは、もし未来へ進む速度が違ったり、自由に過去に戻れたりすると、俺たちの世界の物理法則が正常に保てないからだ…と、そう考えることができるんだ」
M「どういうこと?」
A「一度、割れた皿は元には戻らない。これは、皿という物体の組成、強度だとか色々な要素を考えたら…接着剤で欠片をくっつけたとしても…完全に元の状態には戻せない。死んでしまった人間は生き返らない。ココにある物が、同時に、別の場所にあるということもない」
・・・
M「むむ。基本的には、当たり前のことばっかりじゃん?」
A「そう。何故、当たり前なのかというと、この世界は、そういう物理法則に支配された世界だからだ」
M「物理法則に支配?」
A「そう。その中で、時間を自由に行き来できてしまったら。皿が割れたら、割れた皿が割れていない時点に返って、割れていない状態の皿を持って帰ってくるなんてことができてしまう。…そうすると、同じ物体が、同時に割れた状態と割れていない状態で別々の場所に存在するなんていうおかしなことが起きてしまう」
M「うん。おかしいよね。それ」
A「だが、超重力に捕らわれて、もう落下する以外に道はない状態では、過去に戻ろうが、未来に進もうが…別に落下している物体にとって、おかしなことは何も起きない」
M「???」
A「…だから。その辺は、ブラックホールの解説本とかを読んでくれ。詳しく説明されているだろうから」
M「過去や未来に自由に行き来できても、物の位置は強制的に落ちていくだけだから?」
A「…まぁ…そんな感じか?過去に行っても、そこから自由に物を持ち帰ることは出来ない。未来にいったところでそうだ。…ま。俺にも、そんな状態に置かれた時のことを、リアルに想像することなんてできないけどな。…とにかく、これは俺が言っていることではなくて…多くの物理学者たちが認めている時間と空間の性質だ」
M「むぅ。他の物理学の先生が言うなら…そうなんだろうね」
A「ぉ。地味に…俺の言うことだけなら信じられない…と言っているようにも聞こえて、兄としては悲しいが…まぁ、そういうことだ」
・・・
M「…つまり。時間と空間の性質は入れ替わる…そういうコトもあるって言いたいんでしょ?」
A「よくできました」
M「それって…どういう…」
A「もしも…。ある世界に、物事の性質を表す要素が一つしかなかったら…。それは、俺たち3次元空間に住む…4次元時空の生物である人間からしたら、色々な別の要素に見えても…、その世界の住人にとっては、等しく同じように感じられるかもしれない…って言いたいのさ」
M「あぅ」
A「…例えば。明るさ…しかない世界」
M「時間も進まないの?」
A「う~ん。時間の変化がないと…思考についても考えにくいよな。よし、時間だけは特別に、これから先のどの1次元世界についてもあるという前提を認めよう!」
M「あぅ。…どの1次元世界?」
A「そう。俺が今から、お前に理解させようとしているのは、同じ1次元の世界でも、色々あるってこと」
M「あ。…もしかして…それが『異次元』」
A「まぁまぁ…急ぐなよ」
M「おほ。正解の時の反応だ!やったね」
A「ちっ。人の癖を読みやがって。マモルのくせに!…まぁいいや。そのとおり。例えば、時間の他には…明るさという要素しかない一次元の世界」
M「とにかく『明るいか』それとも『暗いか』だけってことだね?」
A「そう。そのとおり。明るさを一つの数字で表すことで、状態を特定できる」
M「そこの住人にとっては、直線上という意味の1次元の住人が位置の変化を感じるのと同じような感じで…明るさの変化を感じるかもしれない…ってことか?」
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【第6セクションへ…】へ続きます。
※この作品は一気に書き上げる予定ですので、次の投稿は30分から1時間後です。