【第4セクション】
(M:マモル、A:明、Q:クア)
・・・
A「0次元。これを敢えて、何も無いが、時間だけは流れている状態と仮定する。我々人間は、時間を直接、時間として観測できないから…時間だけが流れている状態に対して、変化を感じることができないだけだ」
M「そう仮定するんだね」
A「そう。そして、そこに1次元を加えてみる」
M「それが、さっきの『線』の上に存在する意識を考えてみよう…って話に戻るんだね」
A「お。おぉ。ちゃんと覚えていたな。そうだ。時間が流れているから、静止しているように見えても、ちゃんと思考することはできる…さて、その意識は、自分の行動範囲について、どのように感じるかな?」
M「凄い遠回りだったような気が…。あ。クアが立ったまま寝てる」
A「可哀想だから、そのまま寝かせておいてやれ」
M「線の中の意識の行動範囲かぁ………。前か後ろにしか動けないね。まぁ横向きの状態なら右か左…だけど…どっちにしても二者択一だね?」
A「…その表現の仕方だと2元論のように聞こえるな。それだと1次元という言葉との相性が悪いから、こう考える方が良い。線の中の1点…一つの位置を原点として、そこからの距離だけで位置を特定することができる…と。そうすると距離すなわち『長さ』という一つの要素だけを持つ1次元という世界が見えてくる」
M「うぬぬ。少し難しいぞ。でも、平面上だって、ある場所からの距離で、大体の場所を示せるよ?」
A「だから特定できるかどうか…だって言ってるだろ?…平面上で同じ距離の場所は1カ所に特定できない。円を描けてしまうからな」
M「あ。あぁ、そうか。360度。どっちの方向なのかが分からないね」
・・・
A「そう。だが、1次元の世界なら…正と負の数値の両方を許せば…つまり実数を使って表現すれば…一つの数字(つまり1次元)で位置を特定できるということになる」
M「…わ。わかったような…難しいような…。じゃ、じゃぁ2次元は?」
A「すぐに人に答えさせようとせず、自分でも考えてみたらどうだ?」
M「う~ん。2次元は『平面』だから、その中にある意識は、前にも後ろにも、左右にも…自由に動けるよね。…でも、上下は無理か。…無いんだからね厚みが」
A「ほう。今度は『斜め』とか言い出さなかったな」
M「同じ失敗はしません」
A「だが、『斜め』は必ずしも失敗ではないぞ?…なぜ、お前は『斜め』は駄目だと思うんだ?」
M「むむ。何だか意地悪な質問だな。…だ、だって『斜め』は、前に進みながら横にも進めば…斜めに進んだことになるから…じゃないの?」
A「…ふむ。間違ってはいない」
M「やったね!」
A「だが…喜ぶようなことでもないぞ。お前は斜めに進む時に、いつも、前に進んで、それから横に進んで…何て言うジグザグな面倒臭い歩き方をするのか?」
M「しないよ!…だけど…俺は2次元の住人じゃないもん」
A「ふむ。正論だな。まぁ…意地悪せずに評価すれば、確かに縦横とか前後・左右という2つの実数により位置を特定できるという意味で、平面世界は2次元の世界というふうに説明をすることができる」
M「XYの座標だね」
・・・
A「だが…さっき、お前が円の話をした時に、360度…どっちの方向か…という表現をしたな?」
M「うん。した」
A「高校の時に、習わなかったか?…XYという2軸の考えではなくて、原点からの方向と距離という2つの要素でも、同様に平面上の1点の位置を特定できると」
M「うぅ。そんなのちゃんと覚えていたら、今頃は予備校じゃなくて大学に行けてるよぉ…」
A「…すまん」
M「謝られると、余計に惨めだよ!」
A「ま。とにかく、2次元というのをXYの2軸だという考えに限定する必要はない…ということを言いたいんだ。俺は」
M「…そっか。XYじゃなくても、角度と距離っていう2つの数字で位置を特定できるっていう意味では、やっぱり2次元なんだね?」
A「そうだ。…ところで、地球は丸い…というのは聞いたことがあるか?」
M「…馬鹿にしてるでしょ?」
A「悪気はない。睨むな。この地球の上を歩く俺たち人間を例にとることで、もっとも考えやすいのが3次元だ」
M「縦、横、高さ。部屋の中を想像するとわかりやすいよね。床のどの位置に物を置くか…が縦横の2つの数字で決まるけど…天井からぶら下がっている照明器具の位置は、高さっていう3つ目の数字が無いと…床の上に直に置いてあるのか、それとも上の方にぶら下がっているのか…わからないもんね」
A「そうだな。…しかし、地図の上の位置で考えると、我々は、緯度と経度の2つの情報で位置を示したりもする。広い視野に立つと2次元の移動をしているようにも見える」
M「でも、飛行機に乗ったり、高い山やビルに登れば、3つ目の高さの情報がいるから、やっぱり3次元だよ」
A「うむ。分かってきたじゃないか。マモルにしては上出来だ」
M「えへへへ」
・・・
A「だが、『平面』でなくても、『球面』という世界を考えた場合は2次元で足りるということも理解しておけよ。平面と言っても必ずしも平らである必要はない」
M「あぁ。えっと…それ何だったっけ?…ユークリッド?」
A「そうだ。ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学だな」
M「なんか…想像できる限界を超えつつあるけど…『球』というのは間違いなく3次元空間に存在する物体だけど…でも、その表面だけを考えたら…その表面上の位置の特定は2次元で足りる?…ってそういうことを言いたいんだよね?」
A「そうだ」
M「それって、異次元や異世界を考える上で、何かヒントになるようなコトなの?」
A「おぉ。偉いなマモル。ちゃんと、今、そもそも何を考えているのかを忘れていなかったようだな」
M「もう。馬鹿にして」
A「すまんすまん。…しかしな。位置の特定という視点で次元を考えると、俺たちは、科学的という言葉を…とても客観的な考え方であると錯覚している…ということに気が付くんだよ」
M「どういうこと?」
A「つまり、今までの議論は、人間の能力やら考え方、物の見方という、極めて主観に影響された議論だということだよ」
M「えっと…」
・・・
A「例えばな。そうだな。『球面』の話だが…球の表面だけに限定しなくても、人間の思考能力というか表現力が、今とは別の形で優れた感覚表現が可能なら…球の内部や球面の上空に至るまで、俺たちが3つの数字、すなわち3次元としてでなければ位置を特定できないと思っている場所についても、2つの数字で表現できるかもしれないんだぞ?」
M「あうぅ」
A「うんうん。お前の『あうぅ』の気持ちは、よく分かる。正直俺にも無理だからな。しかし…感覚的には理解し難いし、実数で表現することは難しいけれど…たとえば…『角度』という要素を考えてみよう」
M「角度?」
A「そう。俺たちは、平面上での360度までしか角度を想像することができないが…もし、全天球を仰ぎ見た時、360よりももっと大きな数字までを使って…あるいは…実数ではなくて虚数まで持ち出して…東の空の30度の仰角の位置と、西の空の30度の仰角の位置を、1つの数字を使った角度で表現できたらどうだろう?」
M「想像力が限界です!」
A「うん。無理もない。だから、聞くだけでいい。例えばだ。自分を中心に地面の上のでの360度が一般的な角度だな」
M「うん。それなら同意できる」
・・・
A「では、その地面から仰角にして1度分だけ上にある円盤の360度を…361度から720度として表現したらどうだろう?…そのようにして仰ぎ見る角度を少しずつ増やすにつれて角度の数字を、螺旋を描くようにどんどん増やしていくんだ」
M「むむむ。なるほど」
A「そうすれば、例えば、仰角×360+平面上の角度という算式の答えとして、球面上の全ての位置を一つの角度情報で指さすことができる」
M「そうか。もし、5620度…とか、適当に言ったら…」
A「適当に言うなよ。暗算が面倒くさいだろう?…5620度だったら仰角で15度の高さの220度の方向だな」
M「本当だ。特定できた!…じゃぁ、星の位置とか…天球上の位置は、1つの数字で表せるから1次元だね!」
A「まぁ…見た目上はな。だが…お前、距離のことを忘れるなよ?」
M「あぁ。そうか。同じ方向にあっても、距離が違えば位置は異なるね。…それでも、3次元だと思っていた宇宙の場所が、自分を中心に2つの数字で表せるようになったよ!…これって3次元を2次元にしちゃったってことだよね?」
A「まぁ…わざわざ計算して、3次元に戻してやらないと理解できない時点で無理があるんだけどな。…ただ、もし、そのような計算を不要として感覚的に全球上の方向を1つの数字として理解できる知的生命体がいたら、宇宙空間は3次元的な空間ではなく2次元的に表現されるものなのかもしれない…という思考実験だ。トンデモ科学とか呼ばれそうだが…まぁ、理解のための仮モデルだ。虚数を使うっていう方の説明は…」
M「え、遠慮します。もう、勘弁してください」
A「あぁ。俺も、言葉で説明するのは無理だから、虚数の方はやめておくつもりだよ。安心しろ」
M「ふぅ。助かった」
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【第5セクションへ…】へ続きます。
※この作品は一気に書き上げる予定ですので、次の投稿は30分から1時間後です。