表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/27

初秋の初夜

「スーミーカーちゃん」

 隣の友達を呼ぶ小学生のような声だ、葉子は自分でそう思った。

 夕食の後、スミカの部屋を訪れた。

 水色のドアをノックすると「どうぞ」と中から声がしたので、ノブを回して中へ入った。

 以前とは違う香水の匂いがした。

 この人は男が変わる度に香水の匂いが変わる。この匂いは対健人用か。

「何かあった?」

 いつものようにカーペットに脚を投げ出して座り、スミカはベッドに腰掛け華奢な脚を伸ばした。

「あのさぁ、セックスってどう?」

 いきなりの質問にブワッと笑ってしまったスミカだが、葉子があまりにも真面目な顔をしていたので、咳払いを一つした。

「どうって言われても――何、晴人とするの?」

 ストレートな物言いはお互い様で、葉子はさっと頬を赤らめた。

「するかどうかは分からないけど、どうしたらいいのかなーって。何か、特別に私がしなきゃいけない事ってあるの?」

 顎をこぶしに乗せて「うーん」と唸ったスミカが「何もない」と答えた。

「あんなの、男に任せておけばいい。痛いなら痛い、気持ちがいいなら気持ちがいい、素直にやっときゃどうにでもなるって」

 ほほー、と頷く葉子が生真面目で可笑しい。

「健ちゃんとスミカもそうやってやってるんだね」

「何か生々しいからそういう事言わないでくれる?」

 嫌悪感丸出しの顔でそう言われ「すみません」と葉子は謝った。

 スミカは窓が開いていない事を再度確認した。こんな話、健人には聞かれたくなかった。

「お邪魔しました。今日のハンバーグ、美味しかったよ」

 そう言い残して、葉子はスミカの部屋を後にした。

 葉子はとうとう、操を捨てるんだな。スミカはチョットだけ親のような気持ちになった。


 窓を閉めている葉子の部屋には、煙草の煙は届かない。

 もう秋だ。冷えはじめた秋の夜でも、晴人は外で煙草を吸う。少しだけ可哀想に思う。

 ベランダを見遣ると、いつもの様に蛍みたいな煙草の光りが、強くなったり弱くなったりを繰り返していた。

 葉子はパジャマの上にカーディガンを引っ掛けてベランダに出た。

「おっす」

「おう、寒くない?」

 カーディガンを握って見せた。大丈夫、と。

「冬になってもこうやってベランダで、煙草吸うの?」

 冷たい風に顔を顰めながら晴人は「そうだね」と言う。

「煙草は値上がりするし、喫煙所は減る一方だし、喫煙者には厳しい世の中だよ」

 悲観するような顔付きで灰皿に灰を落とすので「やめたらいいじゃん」と言うと、「そんなに簡単にやめられないの」と返ってくる。

「ねぇ、寒いでしょ。温めてあげるって言ったら、どうする?」

「は?」

「セックス、してもいいよ」

 葉子の顔をまじまじと見ながら、手元を見ずして灰皿に煙草を押し付けると、夜風に灰が少し舞い上がった。

「行くぞ」葉子の腕を掴み、ベランダから晴人の部屋に入り、葉子はベッドに押し倒された。頭上に置かれた灰皿からは、煙草の匂いがした。

 スミカに言われた通り、彼に全てを委ねた。

 ベッドの横に貼ってあるシドヴィシャスに、行為を見られている様で、恥ずかしかった。


 思っていたよりも単純で、簡単なものなんだと知った。

 これを好きこのんでやる世の中の恋人たちの気がしれない、そう葉子は思った。

「こんなもんで繋がりあってる人間は、猿か犬だ」

 ベッドの上でパジャマを着ながらそう呟くと、それを耳にした晴人は「またぁ?」とだるそうに項垂れた。

「仕方ないじゃん、人間てそう言う風に出来てんの。男が凸なら女は凹でさ。組み合わさる様になってるの」

「だからそれが猿や犬だって言ってんの」

 晴人は頭をゴシゴシと掻いた。葉子の頭の中では、セックスとは繁殖行為に過ぎないらしい。

「俺たちは、猿や犬とは違う。子孫を残すためにこんな事をする訳じゃないんだよ。犬も猿も、快楽の為に交尾してるわけじゃないでしょ?繁殖行為でしょ?」

 我ながら良い事を言ったと思ったが、葉子には響かなかった。

「じゃぁ晴人は、快楽の為にセックスしてる訳か」

「はぁ?!」

 もう何も言うまいと思い、黙った。この話題をストップさせた。

 丁度パジャマを着終わった葉子に、落ちていたカーディガンを優しく掛けてやった。

「変態、触らないで」

 一喝された。もう何もするまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ