兎に角、リハビリ!特急列車⑤
『ジャンプ出来たのか! でも、問題はその後だよ。まだ1500歩ぐらいが限界だからな。』
『湿布を1週間ぐらい貼っていないですし、今、調子は良いですよ。』
「無理しないことだよね。」
テミスは、背筋を伸ばして座席に座っていた。
みんなで、灰色狼特製ハンバーガーを食べている。
照り焼きの味がついたハンバーグに、トマトとレタス、そして、ポテトサラダをフランスパンに挟んだいつもとは違うご飯だ。
「美味しいね! ありがとう!」
『食べきれたな!』
テミスは、口にポテトサラダをつけてとても喜んでいた。
灰色狼もそんなテミスを見て機嫌が良い。
食べ終わると、祖母に電話をするためにテミスは、席を立った。
毎日、朝と昼に電話をしているテミスだったが、祖母から電話をかけさせるように父に口酸っぱく言われているのだった。
頭を使ってもらうためなのだ。
灰色狼曰く、『ばあばは、記憶はないよ。できものが出来たこと覚えていなかったからね。電話もかけたかどうか分からないんだ。食べ物の記憶は、凄いんだよ。美味しかったんだと思い出すからな。』
祖母は、検査はしていないが認知症の可能性が高く、誰かと一緒に住むと一気に進むのではないかと灰色狼は心配している。
出来る限り、一人暮らしを続けてもらうことが良いのだ。
買い物に行ったりテミスがリハビリの先生に会う曜日を祖母が覚えている時は、父は『なめるなよ!』とテミスや灰色狼に話すのだった。
冴えている日はあるが認知は認知だと灰色狼は、見ていて、祖母にとって重要なことはテミスも一緒に覚えているのだった。
一度聞いたことを忘れていることがあるのは、祖母だけではない。
若年性認知症もあるのだから、テミスも頭を使わなければならないのだ。
祖母と会った時、みんなで体重計に乗ったのだが、灰色狼は夏と同じだったが祖母は増えていた。
『2kgは、大きいだろ。』
自分が作っているものよりも、お菓子を食べていることがこの前分かったことで、灰色狼とテミス父は怒ったのだった。
当分は、食べない選択をしてもまた忘れるのではないかと灰色狼は懸念している。
だが、祖母が生きていく上で重要なことは忘れないと緋色の目を使ったことがあった。
自分が歯医者に行くこと、テミスがリハビリに行く曜日などである。
誰とどこに一緒に行ったか、何を食べたかなどは重要ではないため忘れるのだそうだ。
祖母が毎日元気に暮らすことを何よりも、テミス達は喜んでいる。
だからこそ、心配になって自分から電話をかけてしまうことが多々あるのだった。
「ばあば、大丈夫かな…」
そう話しながら帰って来る時は、決まって祖母が電話に出ない時だ。
『何回も連絡をする必要はない。ゆっくりさせてやってくれとお父様、話していましたよ。』
「私がこの前、すぐ電話に出ることが出来なかったんだ。ばあばに嫌われちゃったかな。」
その言葉を聞いた灰色狼が、狼の姿に変わり毛を逆立てた。
『何で、そういう風に考えるんだ!嫌われていたとして、お前に何の不都合がある!?』
テミスは、しょぼしょぼしながら灰色狼の隣の席に座った。
「だって、ばあばと私は双子だもん。」
『嫌われていると思うことは、ばあばに失礼なんだよ。好かれていようが嫌われていようがどうでもいいんだ!嫌われていて話さないとかも、どうでもいいんだ!! 』
鼻息を荒くして、テミスの上に乗ろうとしたり、隣の席に移動したり灰色狼は、不機嫌だ。
『色々考えてしまいますからね。』
アテナは、テミスの頭を優しく撫でてくれている。
灰色狼は、いつの間にか赤毛の男の姿になりカレンダーに書いたテミスの体重表を見ていた。
『夏に比べて3kg痩せているからな!月の物も来なくなるぞ!筋肉も全然ついていない! 考えろ!』
その言葉に口を尖らせているテミスだった。
灰色狼『あの人は、自分のことを分かってもらえる人が好きなんだ。テミスは、ボールペンを渡したいけど、あの人に選択してもらわないといけないんだ。受け取れないなら、今じゃないんだねでいいんだ。渡せる未来が来るかもしれない、そう思っていていいんだ。テミスが止めているかもしれないんだがね。』
アテナ『あの人のことを、もっと知りたいですね。』
灰色狼『熱い人だと分かったんだ。言っていることは真逆だからね。でも、全部が全部ではないんだ。』
アテナ『本当のことを話している時もある、ということですね。』
灰色狼『そうだ。気持ちを汲み取ることが大事なんだ。』
テミス「はい! 」
携帯の着信音が鳴る。
祖母の声を聞いた、テミスの翡翠の瞳に力が宿ったのだ。
脳に良いこと メモ
歩くこと、寝ること、よく噛むこと。




