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誓約と目覚め

「誓約を交わします」

応接セットの傍から部屋の何も家具がないスペースに移動して、クラウスの手を取りながらマリカが宣言する。

だが戸惑うように藤色の瞳を揺らした後、そのまま困惑の眼差しでクラウスを見上げた。

「あの、本当に望みは変わりませんか?」

「その確認は3度目。私は決めたと言ったよ?それともその望みではいけない?」

「いいえ、あの、叶えられないことはないのですが……」

上がっていた視線が段々と足元に下がって、それに合わせて声も小さくなっていく。

「私のモノになるのは嫌かい?」

マリカに取られていない方の手が持ち上がって、優しくマリカの頬に触れると少し硬い掌がそっと壊れ物を扱うように肌を撫でていく。

熱を移されるようにマリカの頬が熱を持って薔薇色に染まった。

そんなマリカを見てクラウスが目を細めて微笑む。

「ん、んんッ!!」

2人の世界に入りかけた横からシーリスの咳払いが響いて、2人ともがシーリスの方を振り向いた。

「陛下、それはどうしても必要なのですか」

「シーリスも3度目。私が信用できない?」

「追い返してしまえばいいのです。大昔の馬鹿げた話に陛下が付き合う義理がありますか?」

「国王がそれにそうだねと言ってしまったら、国はすぐに荒れるだろうね」

国は……特に他国との折衝などではそれがどんなに古い約束事だとしても、その約束事によって平和に成り立っていることがままあると、よく知っているシーリスが不機嫌そうに鼻の頭に皺を刻む。

約束事を変えていくにも段階が必要なのだと何度も諭されて、シーリスはむっつりと黙り込んでじっとマリカを睨み続けていた。

気まずそうに身を縮ませながらマリカも1つ咳払いをして気を取り直す。

「――私に否やはありません。では、改めて……誓約を」

マリカの声に従いマリカとクラウス2人を中心に、その足元に光で描かれる花の形の陣が一瞬で広がる。

マリカが真っ直ぐに顔を上げてクラウスを見て、藤色の瞳が力を帯びて淡く輝いているのに気づいたクラウスが意味深に目を細めた。

淡い朱色の唇から、意外に凛とした声が溢れて部屋に響く。

「吾ら花天の座は王に求める。『光』を鎮め大陸を安寧に導くことを」

マリカの請求にクラウスが頷き、あらかじめ教えられた通りに言葉を紡ぐ。

「王は花天の座の請求を受諾する。返して王は花天の座に求める。この身が朽ちるまで第二十三枝マリカに属するあらゆる全てを王に移譲することを」

今度は逆にクラウスの請求にマリカが少しはにかみながら頷き、返答の言葉を紡ぐ。

「花天の座は王の請求を受諾する。互いの受諾をもって誓約と成す」

マリカの声と共に足元に広がっていた陣がぱちんと弾けて、虚空で光の珠になるとすぅっとクラウスの胸に吸い込まれて消えた。

微かな熱を感じたもののそれも一瞬のことで、すぐに何も感じなくなる。

不思議そうに自身の胸に触れるクラウスにマリカが微笑んだ。

「誓約が王に刻まれただけです。害はありません」

「ふぅん……これで終わり?」

「はい。細かな準備はありますし、神依りの一族も見つけなければいけませんが……」

マリカが喋っている最中にぐらりと地面が軽く揺れる。

体勢を崩しかけたマリカの身体を、咄嗟に伸びたクラウスの腕が掬い取って庇うように胸に抱き寄せた。

「地震……?珍しいな」

揺れたのはごく僅かで、すぐにそれは収まった。

カナル国は山脈に囲まれてはいるものの、活火山や海底火山からは遠いので滅多に地震などは起こらない。

「さっきの誓約で光が目覚めの段階に入っただけです……あの、大丈夫ですから」

それほどガッシリしているようには見えなかったのに、意外に力強い腕に抱きしめられてマリカの顔が再び真っ赤に染まる。

それに気づいてくすくす笑いながらクラウスがその頭のてっぺんに軽く唇を触れさせた。

「王……ッ!」

「クラウス……私はクラウスだよ」

慌てるマリカを腕から開放しながらにっこりと微笑んで今更ながら名乗る。

「これからよろしく。とりあえず疲れただろう。部屋を用意させるからゆっくりと休むといいよ。何かあったら私か、そっちのシーリスに言えばいいから……シーリス、案内してあげて」

シーリスを振り返ると、不本意そうにしながらも了承を示して軽く会釈をした。

1度部屋を横切って扉を開き、外にいた衛兵に何か言いつけるとマリカの傍に戻ってくる。

「ではこちらへ」

淑女への礼として差し出されたシーリスの手にマリカが戸惑っていると、クラウスが可笑しそうに笑いながら頷いたので、恐る恐るほっそりとした手をその手に預けた。

「では陛下、失礼いたします」

シーリスが退出の辞を述べると、クラウスが鷹揚に頷いて許可を与えた。

そのままシーリスとマリカが扉の外へと消えるのを待ってから、クラウスは自分の服のボタンを外して胸板を軽くさらけ出してみる。

ちょうど心臓の真上辺りに、くっきりと紅で線を引いたように花の痣が刻まれていた。

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