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とある騎士と巫女の講義

新シリーズです。連載中の紫闇朱月と対となる、かの話の表のストーリーです。

どちらともを読まなくてもそれぞれ独立して読めますが、両方を読み比べるとより世界観が広がると思います。よろしくお願いします。

 少し前まで静かだった塔の廊下に年若い少女の高い声が響く。

「離せ離せ私は帰るんだからぁ!」

「お前の家はもうここだと言っているだろう。懲りも飽きもせずに毎回毎回抜け出すな。探さなきゃならん俺も暇じゃない」

「探してくれなくて結構!いやむしろ探すな!」

 キッチリと騎士団の制服を身に纏う青年に引きずられながら、諦め悪く暴れていた少女を青年がそのまま塔の一室に放り込む。

「座れ」

 自分も一緒に部屋に入ると扉を閉めて、広い部屋の中央に置かれたテーブルと椅子を示した。

 しばらく青年を睨んでいた少女は一端脱走を諦め、けれどいかにも私は不機嫌ですというように乱暴に示された椅子を引くとどすんと音を立てて腰掛けた。

 足を組んで机に肘を立ててその手に顎を乗せてやさぐれる姿はどこのオッサンかと思うほどふてぶてしい。

 青年は頭痛がするというように軽く頭を抑えたが、諦めの境地に達したのか何も言わずに少女と対面になるように自分も椅子に腰掛けた。

「始めるぞ。前回はカルディナ帝国のクラウス帝がまだ小国だったカナル国の王になった所までだったか」

「どうでもいいけど、なんでえらーい神殿騎士長のディオン様が教師の真似事なんてしてるわけ。忙しいんでしょ」

「それは元気が有り余っている、わが国の高貴なる巫女姫のアルティディシア様の相手は、自分には勤まらないと何人もの教師が恐縮して辞退したせいだ」

 アルティディシアの皮肉をディオンは涼しい顔で受け流し、逆に返ってきた皮肉にアルティディシアがしかめっ面をさらに顰めさせる。

「その不細工な顔を止めろ。ちょっとは感情を抑える術を学べ」

「ディオンって口うるさいお母さんみたいよね」

「…教本を開け。カルディナ帝国はわが国とも無関係じゃないし、式典に使者がやってくることもあるんだ。そうすればお前だって顔合わせする機会もある。最低限の知識くらい持っておけ。それに…」

 頭痛を堪えるような顔をしていたディオンが、ふと表情を緩めて口元に柔らかな笑みを微かに浮かべアルティディシアを見た。

「これはお前の好きそうな、恋物語だ」

 アルティディシアがその言葉に興味を引かれたようにディオンを見つめる。

 その様子に笑いを堪えながら、ディオンは手元の教本に視線を落とした。

「カナル国の第182代国王についたクラウス王は、ある日王宮の奥深くに隠された扉を見つけ出し…」

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