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異世界に転移した俺、なぜかAIも一緒に来てました。  作者: 限界まで足掻いた人生


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第9話:無知なる虜囚

「おい、歩け。さっさとしないと引きずっていくわよ」


ラナが握る麻縄がぐいと引かれ、祐二は前のめりに体勢を崩した。 後ろ手に縛られ、芋虫のように連行される姿は、9年前の新人研修で受けた屈辱を思い出すほど惨めだった。


「……あ、あの。一つ聞いていいでしょうか。ここは、なんていう国なんです? 本当に何も思い出せなくて」


「はぁ? 記憶喪失か? ……ここは『ガルデリア王国』の北端よ。こんな場所で遭難するなんて、よっぽどの馬鹿か、訳ありの犯罪者ね」


ラナは吐き捨てるように答えた。面倒そうにしながらも、彼女は祐二が転ばない程度の速度を維持している。

そして今までの杖などを持ってることから魔力のような概念があると思い質問した。


「魔導技術の体系はどうなっているの? さっきの魔道士さんの杖も、何かのエネルギー……MP的なものを使っているのか?」


「『MP』? 変な言葉。……魔力は、大気中に溶け込んだ精霊の呼吸を、術者の回路を通じて現象に変換するだけよ」


魔道士(エレン)が、歩みを止めずに淡々と補足した。


「そんなことも知らないなんて。あなた、本当に記憶喪失?それとも異界から来たのかしらね」


「……異界、ですか」


祐二がその言葉に過剰に反応すると、縄を引くラナが鼻で笑った。


「馬鹿ね、異界からの来訪者っていえば、この世界じゃ『神の使徒』よ。失われた古代魔導を操り、一国を一夜で興すような、選ばれし超人のこと。教会の聖典じゃ、彼らは光り輝く鎧を纏い、天の知恵を授ける尊い存在ってことになってるわ」


「……光り輝く鎧」


祐二は、引き裂かれ泥で汚れきった自分の安物のスーツを見下ろした。


「そうよ。この世界を救う『伝説の勇者』も、みんな異界から来るっていうのが定説だもん。……でも、見てよこのザマ」


ラナが振り返り、縄で繋がれた祐二を、頭の先から泥だらけの革靴まで、ねっとりと観察した。


「泥まみれで、這いつくばって命乞いして、挙句の果てに女の裸を見て鼻の下を伸ばす……。ねえエレン、こいつが『伝説の勇者』に見える?」


「……誤差を考慮しても、可能性は限りなくゼロに近いわね。もしこれが使徒なら、神様のセンスを疑うわ」


エレンが冷ややかに断じると、亜人の少女が尻尾を激しく振って笑い声を上げた。


「あはは! もしこれが勇者様なら、魔王に会う前にそこらのゲテモノ食いのスライムに食べられちゃうよ! 勇者どころか、ただの『迷い込んだ不審なゴミ』だね!」


情け容赦ない嘲笑の礫が、祐二の背中に突き刺さる。


「最後の質問だが、通貨は? ギルドに突き出された後、俺はどうなる?」


「通貨は『エステラ銀貨』。……あんたの処遇? 覗きの変態だもん、強制労働か、良くて居住区からの追放ね。まあ、その泥だらけの服を売ってもパンの一枚も買えないでしょうけど」


亜人の少女が、クスクスと笑いながら尻尾を揺らした。 質問を重ねるたびに、彼女たちの軽蔑は「未知の生物への興味」に少しずつ混ざり合っていく。それは会話というより、動く不燃ゴミの取扱い説明書を確認するような、乾いたやり取りだった。


『周辺の地理データ、および社会構造の断片を取得。データベースを構築中です。……マスター、彼女たちの語彙から「情けなさ」を除去すれば、非常に有益な情報と言えます』


(……お前のせいで、その情けない状況になってるんだけどな)


数時間の行軍。足の感覚が麻痺し、意識が泥の中に沈みかけたその時。 不意に、重苦しいシダの葉と、湿った森のカーテンが左右に開けた。


「……着いたわよ。あんたの終着駅」


ラナの声に顔を上げ、祐二は息を呑んだ。


そこには、森の深緑とは隔絶された、白い光の都が横たわっていた。 崖の先に広がるのは、古の巨人の骨を思わせる白い石材で築かれた円環の街。 夕刻の陽光が、街の中央を流れる運河の水面に反射し、無数の銀の鱗のように輝いている。


街を包む空気は、森の湿気とは異なり、澄み渡ったクリスタルのような静謐さを湛えていた。 空中に浮かぶ、淡い青光を放つ魔導灯の列が、夕闇の境界線を描き出している。 それは、汚れきった祐二の姿をあざ笑うかのような、あまりにも清廉で、神秘的な文明の残照だった。


「…………綺麗だ」


思わず漏れたその言葉に、ラナは一瞬だけ剣先を下げ、複雑な表情で街を見下ろした。


「……そうね。あんたみたいな不浄な男には、眩しすぎるでしょうけど」


白い都、『ルミナス・ガルデリア』。 その光の中に、縄で繋がれた社畜が、第一歩を刻もうとしていた。

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