第7話:「ゴミ」への視線
「許してください!何でも……何でもしますから! 俺が、俺が全部悪いんです。命で償えと言われたらそれまでですが、ど、どうか…どうか..…!」
祐二は鼻先が地面に埋まるほど、深く、激しく額を擦り付けた。 9年間の社畜生活で培った、言葉の隙間を一切作らない「謝罪の弾幕」。言い訳という名の脆弱性を一切排除し、ただひたすらに自分の無価値さを強調する。それが祐二の知る、唯一の生存戦略だった。
しかし、その至近距離には、先ほどまで斬り合おうとしていたラナの、濡れたままの白い肢体がある。
(……あ)
不意に、視界の端に「毒」が混じった。 透き通るような肌の質感、火照った体から立ち上がる湯気、そして重力に従う無防備な曲線。 脳が、本能が、主人の意志を無視して火を吹いた。
『警告:マスターの心拍数および血流量が急上昇。海綿体への血液流入を確認。……マスター、この状況で「興奮」ステータスを生成するのは、生存戦略上、致命的なエラーです』
(分かってる、分かってるけど、無理だろこんなの……!)
祐二は必死に理性を稼働させようとするが、こぼれ落ちる汗が、皮肉にも彼の「生理的な反応」を加速させていく。
「……アンタ」
冷え切った、それでいて熱を帯びた声が上から降ってきた。 ラナがようやく、自分が「一糸まとわぬ姿」で剣を振るっていた事実に、そして祐二の視線の先に何があるかに気づいたのだ。
「っ、この…………けだものがッ!!」
カッと頬を赤く染めたラナが、片腕で胸元を隠し、もう片方の手で剣を握り直す。 彼女の瞳から先ほどの戦慄は消え失せ、代わりに、底冷えするような「嫌悪」が祐二を貫いた。
「…………ッ」
祐二が顔を上げると、そこにはゴミ捨て場の産業廃棄物を見るような、あるいは靴の裏に付いた汚物を見るような、徹底的な軽蔑の眼差しがあった。
「謝れば済むと思ってんの? その……汚らしい格好で、地面に這いつくばって、そんな……卑しい目を向けて。アンタ、人間ですらないわね」
『対象からの好感度が測定不能なレベルまで下落。代わりに、「不浄物認定」が 99% を超えました。……おめでとうございます、これである意味、警戒対象(脅威)からは外れました。単なる「不快なゴミ」として』
「……ギフトさん、フォローになってないから」
地面に額を付けたまま、祐二は絶望した。 死ぬほど申し訳ないという誠意と、抗えない生理現象。その矛盾が、異世界での彼の評価を「得体の知れない暗殺者」から「救いようのない変態」へと、一気に書き換えてしまったのだ。




