第32話:残響
戦場に漂う火薬と氷の匂いが、ゆっくりと森の湿り気に混ざり合っていく。逃げ遅れ、氷の槍で縫い留められた盗賊たちが、絶望的な表情でエレンの前に並べられた。
「……さて、聞かせてもらうわよ」
エレンが冷徹に告げる。その手元の杖には、まだ微かな魔力が明滅していた。
捕縛された盗賊たちの口から語られたのは、奇妙な「急成長」の記録だった。
この地方の端にいたはずの灰狼の牙が、ここ数か月で急激に装備を整え、組織化されていたという事実だ。
「……あ、あいつだ。あの軍師気取りの傭兵が来てから、全部変わっちまったんだ」
震える声で盗賊の一人が指し示したのは、先ほどミーナに叩き伏せられた指揮役の男だった。
「どこからか金が流れてきて、見たこともねえ質の良い剣や防具が配られた。……俺たちはただ、指示に従って魔導具を持ってる奴を襲えば、もっといい暮らしができるって言われただけなんだ!」
祐二は無造作に放り出された彼らの剣を拾い上げた。
一見、この世界の無骨な鉄剣に見える。だが、データベーススペシャリストの視点で見れば、ある「異常」に気づかざるを得ない。
(……個体差がない)
この世界の鍛冶屋が打った剣なら、重さや重心に必ず数ミリ、数グラムの誤差が出る。だが、手元にある数本の剣は、まるで同じ金型から出力されたかのように、完璧な同一規格で統一されていた。
(これは工芸品じゃない。……『工業製品』だ)
「マスター、補足します。製造工程のログを推測。……これは手作業による鍛錬ではなく、高度に自動化された生産ラインによる供給の痕跡です」
AIの囁きが、祐二の嫌な予感を確信に変える。
黒幕の名前も、あのATという単語も、盗賊たちの口からは一切出なかった。彼らはただ、末端の「ユーザー」として利用されていたに過ぎない。
だが、背後に巨大な「資本」と、既存の魔法文明とは異なる「思想」を持った何者かが、確実に金を回し、武装を強化している。その事実だけが、重くその場に沈殿した。
「……。……。……」
その間、ラナは終始無言だった。
いつもなら真っ先に毒づき、盗賊の持ち物を漁るはずの彼女が、今はただ、遠くの茂みをじっと見つめている。
その横顔には、かつて「法の外」で生きてきた者特有の、鋭い警戒心と……自分だけが理解してしまった「嫌な匂い」への嫌悪が張り付いていた。
「……行くわよ。ここにいても、これ以上のログは得られないわ」
エレンがそう告げた時、祐二は気づいた。
彼女もまた、この「不自然な静寂」に恐怖を感じている。姿を見せない資金源。魔法をハックする技術。そして、それに踊らされる人間たち。
彼らが追いかけているのは、ただの盗賊団ではない。




