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異世界に転移した俺、なぜかAIも一緒に来てました。  作者: 限界まで足掻いた人生


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第3話:生存の工程表

崖の下に転がる銀狼の死体は、岩に叩きつけられた衝撃で無惨な姿になっていた。だが、今の俺にとってこれは凄惨な光景ではなく、生き延びるための貴重な資材の山だ。


「……指示が具体的すぎて、逆に引くよ。お前、本当に女神が言ってた『恩恵』のガイドなのか?」


『生存のための最適解を提示しているに過ぎません。作業を開始してください。まずはその懐中電灯の筒の部分を、銀狼の牙を固定するための柄として加工します。次に腱を抜き出し、紐として確保してください』


無機質な声の指示は、まるで事務連絡のように淡々としている。女神本人の適当な性格とは正反対だが、この際背に腹は変えられない。俺は泥を噛むような思いで、ひしゃげた懐中電灯の残骸を岩で叩き割り、銀狼の最も鋭い牙を差し込んで固定した。即席の短刀だ。


さらに、指示に従って狼の死体から腱を慎重に引き抜く。驚くほど頑丈なその繊維は、強力な紐として役立ちそうだった。剥き取った皮は、血を川の水で洗い流し、防寒具兼、荷物を包む布として活用する。作業を終えた頃には、俺のスーツはもはや元の色が分からないほどに汚れ、手は脂と血でベタついていた。


上流への選択

「さて……これからどうする。このまま森を彷徨うのは論理的じゃない」


『周辺の音響データを解析。南西方向に流水音を確認しました。まずは水場へ向かってください』


指示通りに茂みを掻き分け進むと、岩の間を流れる澄んだ川に出た。俺が思わず水を飲もうと駆け寄ると、脳内の声が制止をかける。


『待機してください。そのまま飲めば感染症のリスクがあります。また、これより川を上流に向かって辿ることを推奨します』


「上流? 普通、川を下れば人里に出るんじゃないのか?」


『この地形データを予測するに、下流は広大な湿地帯となっており、大型の魔獣が密集している確率が極めて高い。逆に上流は地形こそ険しいですが、水源の確保と防衛の観点から、人間が拠点を築いている可能性が高い。また、高所に移動することで周囲を確認できるメリットもあります』


「……なるほど。下って巨大なワニに食われるよりは、登って村を探す方がマシってわけか」


『その通りです。サバイバルにおいて楽な道は往々にして死への最短ルートです。田所祐二、あなたは効率を重視する人間のはずです』


「効率、ね。SEやってた頃は、それが一番の美徳だったよ」


泥臭い行進

川を遡る旅は、想像を絶する重労働だった。滑りやすい岩場に足を取られ、泥にまみれ、何度も斜面を這い上がる。


「……くそっ、工藤部長の説教を立って聞いてる方が、まだ肉体的には楽だったかもな……」


『比較対象が不適切です。あちらは精神的な摩耗を伴いますが、こちらは生存のための投資です』


「言うね。……でも、確かにそうだ」


俺は即席の牙の短刀を杖代わりにして、一歩ずつ地面を噛みしめる。日本では、自分の人生なんて誰にでも代わりが効く、価値のないものだと思っていた。でも今、俺は自分の足で、自分の命を守るために必死に動いている。


女神が適当に名付けた聖なる導きの杖(懐中電灯)は折れ、万能の預言書スマホはただの重りになった。だが、その残骸を工夫して使い、ガイドの導きに従って進むこの工程だけは、紛れもなく俺自身の仕事だ。


数時間後、傾斜がさらにきつくなった場所で、声が響いた。


『微かな燃焼反応を検知。薪を燃やした匂いです。この先に、人工的な構造物が存在する確率が上昇しました』


「……本当か」


俺は顔を上げ、険しい岩壁の先を見据えた。泥だらけの社畜が、異世界で初めて希望という名のデータを観測した瞬間だった。

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