第28話:逆探知
「エレン、そのまま座標を固定してくれ。俺が『道』を逆送する」
祐二の瞳は、もはや現実の森を見ていなかった。ネットワークスペシャリストの視座が捉えるのは、虚空から自分たちへと伸びる不可視の通信経路。彼は脳内のシステムを介し、その経路の起点に向けて、意識的な「信号」を送り込んだ。
それは、現代社会でいうところの逆ポートスキャンに近い挙動だった。
(隠れているなら、ノックしてやる。応答を返せ……!)
祐二の思考が、仮想化されたレイヤーを高速で駆け抜ける。マナのパケットを辿り、その送信元の「ポート」を無理やりこじ開けようとしたその瞬間――。
拒絶のフィードバック
不意に、祐二の脳を突き刺すような激痛が走った。
「ぐっ、あぁぁ……!!」
「ユウジ!? 何が起きたの!」
膝をつく祐二に、ラナが駆け寄る。
言葉ではない。しかし、祐二の脳内コンソールには、明確な「意志」を伴った拒絶反応が叩きつけられていた。
それは、真っ黒な壁が目の前に突如として現れたような圧倒的な閉塞感。
「お前のような下位存在が触れる領域ではない」と、システムそのものに突き放されたかのような冷徹な拒絶。
「マスター、精神防壁を強制起動。逆探知、失敗しました」
AIの音声が、ノイズ混じりに告げる。
「対象からの強力なパケットフィルタリング、およびカウンター・アクセスを確認。……先ほどの拒絶反応は、我々のプロトコルに対する明確なファイアウォールの動作です」
「……あいつ、俺のアクセスを『分かって』弾きやがったのか」
荒い息を吐きながら、祐二は冷や汗を拭った。魔法の衝突ではない。情報の主導権を巡る、目に見えない次元での殴り合い。
「警告を更新します。これ以上の直接干渉は推奨しません」
AIの声は、かつてないほど重く、断定的だった。
「これまでの挙動から推測される対象の属性を定義します。これは魔法生態系に属するものではありません。――AT。……Anti Technology」
「AT……? なんだ、それは」
祐二の問いに、AIは答えなかった。
ただ、その単語が告げられた瞬間、森の木々が不自然にざわめき、エレンが必死に維持していた索敵魔法の幾何学模様が、ガラスが割れるような音を立てて粉々に砕け散った。




