第25話:魔力収束の限界
エレンの横顔には、これまでの余裕が完全に消え失せていた。
広域索敵が通用しないのなら、対象を絞り込むしかない。彼女は杖を構え、魔力を一点に凝縮させる「魔力収束」を開始した。
「逃がさない……。座標固定、一点集中、絶対零度の檻――強制凍結!」
エレンが指し示した空間の「点」が、凄まじい密度の魔力によって強制的に凍結される。虚空に突如として現れた巨大な氷の結晶は、周囲の熱を奪い、そこに潜むあらゆる「不純物」を閉じ込めるはずだった。
だが、異変はその直後に起きた。
パキッ、という小さな音が響いたかと思うと、氷の結晶の内部から無数の亀裂が走り始めた。外側からの衝撃ではない。まるで、氷の分子構造そのものが内側からバラバラに解体されていくような、不自然な崩壊だった。
「……えっ? 私の氷が……崩れる?」
エレンが驚愕に目を見開く。彼女が編み上げたはずの魔法式が、霧散するよりも早く、全く別の形へと変質させられていく。
「マスター、警告。魔法式のランタイム・エラーを確認」
脳内のAIが、冷徹な解析結果を告げた。
「凍結プロセスの途中で外部からの介入を検知。エレン氏の実行していた魔法コードが、何者かによって『上書き』されています。現在、氷の崩壊プロセスが強制実行されています」
「上書き……!? 人の魔法を、途中で書き換えるなんて、そんな芸当……」
祐二は震える声で呟いた。それは情報技術でいうところの「コード・インジェクション」そのものだった。
敵は魔法を無効化するだけでなく、エレンが放った魔力そのものを「利用」して、自分たちに有利な現象へと再構築しているのだ。
「まずい、これ……『検査』が終わって、あいつら『デバッグ』を始めたんだ」
「何を言ってるのよ、ユウジ! 難しい言葉はいいから、どうにかしなさい!」
ラナが叫ぶが、祐二の脳内メモリにはさらなる絶望が蓄積されていく。
AIのログには、崩壊する氷の破片が、特定の幾何学模様を描きながら消えていく様子が記録されていた。
「警告。対象は我々の戦闘データを学習し、魔力プロトコルの脆弱性を完全に特定しました。……次のフェーズへの移行を確認。物理的な『駆除プログラム』の起動が予測されます」




