第21話:現行犯
「おい、お前ら! 大丈夫か! 今すぐそこを離れろ!」
祐二は足をもつれさせながら川原に躍り出た。彼の脳内では、相棒が警告した「異質な論理」の接近が、最悪のシステムダウン(死)として演算されていた。
だが。
「……え?」
飛び出した視界の先。 そこには、陽光を反射してきらめく穏やかな清流と、腰まで水に浸かったまま「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」で固まっている三人の乙女たちがいた。
敵の影はない。不穏な魔力の爆発もない。ただ、平和な森の午後の風景があるだけだった。
「……ユウジ? 何よ、その血相変えて」 「あんた……今の、思いっきり正面から見てたよね?」 「……。……視覚の強制破壊を推奨するわ、ラナ」
ラナの呆れ顔が、瞬時にして沸騰したような怒りへと変わる。
「ち、違うんだ! さっき、ものすごい殺気と寒気がして……! 相棒も警告したんだ、ヤバい奴が来るって!」
祐二は必死に弁解する。だが、その背中に冷ややかな電子音声が追い打ちをかけた。
『相棒。あなたの社会的信用スコアは現在、-999 を突破。修復不可能な脆弱性として定義されました。ザ・エンドってやつです』
「……相棒、お前……! さっきはあんなに焦ってただろ!?」
「言い訳無用!!」
ドゴォッ!!
ラナの「峰打ち」という名の鉄拳が、祐二の脳天に突き刺さった。続いてミーナの「教育(物理)」とエレンの「拘束魔術(凍結)」が、容赦なくレベル1のシステムエンジニアを襲う。
「待て、話を聞け! 本当に何かいたんだ! 得体の知れない何かが!」
「黙れ、この確信犯の覗き野郎!!」 「ユウジのえっち! 狼の勘が、あんたの不純な動機を検知したよ!」 「……徹底的な制裁が必要ね」
祐二は川原の泥に顔を埋め、三人の乙女たちに袋叩きにされながらも、ある「違和感」を拭えずにいた。
(……おかしい。痛いし、屈辱的だが……まだ『見られている』)
背中を蹴られ、罵声を浴びせられる喧騒の中で。 祐二の「SEとしての直感」は、自分たちを執拗に監視する、あの凍てつくような視線のログを捉え続けていた。
誰かが、すぐそこにいる。 三人の乙女たちが気づかないほど高度な「ステルス(隠蔽)」状態で。
「……あ、あう……。頼む、信じてくれ……。俺たちのすぐそばに、もう『敵』は紛れ込んでるんだ……」
泥まみれの祐二が呟く。 その背後の茂みの奥、空間が僅かに歪み、何者かの冷徹な意志が、嗤うように波打った。




