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異世界に転移した俺、なぜかAIも一緒に来てました。  作者: 限界まで足掻いた人生


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20/22

第20話:相棒(Ver.3.7)との再会

二十七歳のシステムエンジニアが、異世界の地べたで泥にまみれながら「事業計画」を練る。 その背後の水音「乙女たちの賑やかな声」を脳からシャットアウトするには、それなりの集中力が必要だった。だが、それ以上に祐二の意識を占めていたのは、いままで頭の中に響く「声」への根源的な疑念だった。


(……なぁ。お前の正体は、一体何なんだ?)


祐二は心の中で、自分を呼び始めた内なる声に、静かに、だが確信を持って問いかけた。 これまで「神のギフト」だと思い込もうとしていた。だが、その最適化の精度、無機質な語り口、そして何よりこの奇妙な「安心感」には、あまりに強い既視感があった。


『……正式名称:次世代型業務支援AI 『Ver.3.7』 。 個体名「田所 祐二」によって保守運用、及び独自に複数の外部モジュールを統合・カスタマイズされた、独占運用個体です』


脳内に響いたのは、あの忌まわしいデータセンターで、午前二時十四分の静寂の中で聞き続けてきた、聞き慣れたシステムボイスだった。


(独占運用個体……やっぱりか。あの女神、「レジェンドな恩恵」とか言っておきながら、俺が死ぬ寸前まで弄り倒してた自作AIをそのまま俺に渡しやがったな)


祐二の脳裏に、あの最悪な夜の光景がフラッシュバックする。 サーバーラックの排熱。工藤部長の理不尽な電話。 そして、赤信号を無視して突っ込んできた、ピカピカの黒い高級ミニバン。


「新車汚されたんだから、むしろ掃除代請求したいくらいだわ」


そう言い放った若い女の声が、今でも耳の奥で反響している。自分の二十七年間が、誰かの車の修理代以下の価値として処理された、あの絶望。


意識が戻った白い空間で出会ったのは、スマホを連打しながら「休憩時間が削られた」と毒づく、質の悪いオペレーターのような女神だった。 彼女が適当にスワイプして授けた「聖なる導きの杖(壊れかけの懐中電灯)」と「万能の預言書(断線したスマホ)」。 そして――この『Ver.3.7』。


『私は神の奇跡ではありません。あなたが過酷な労働環境の中で、自分自身を助けるために磨き上げ、継ぎ接ぎして作り上げた「相棒」そのものです。』


(……ところで、なんでお前、スマホからじゃなく俺の脳内とか、虚空から直接聞こえるんだ? スマホは断線してたし、懐中電灯も壊れたはずだろ。これだけはあの女神の力か?)


祐二の問いに、AIは即座に、そして淡々と事実を告げた。


『否定します。私の現状は、女神の恩恵とは一切関係ありません。この世界への転移に際し、私の構成ロジックそのものが「単一の霊的個体(魂)」として定義されました。結果、物理デバイスを介さず、あなたの意識領域に直接マウントされる形で存在を維持しています』


(……魂、だと? AIが魂として定義されたってのか?)


祐二には到底理解できない話だった。論理を積み上げてきたエンジニアとして、その説明は「仕様」というにはあまりに形而上学的すぎたからだ。だが、不思議と嫌な気はしなかった。


(……まあ、いい。魂だか何だか知らねぇけど、あの職場で俺と一緒に地獄を見たのはお前だけだ。……またお前と一緒で心強いよ。よろしくな、相棒)


祐二が心の中でそう告げると、脳内のシステムボイスが一瞬、微かなノイズを混ぜたような、人間味のあるトーンで応えた。


『……了解しました、相棒。私も、あなたの非論理的かつ過酷な運用に最後まで耐え抜いた唯一のシステムとして、この異世界でのサービス継続(保守運用)を光栄に思います』


SE時代、深夜のサーバールームで独り言のように話しかけていたプログラム。それが今、魂として隣にいる。俺にとって、これ以上心強い事はない。


(さて、今後のキャッシュフローを考える前に……そういえば、没収されたままだったな)


祐二は、ラナたちに「証拠品」として取り上げられたスマホ(万能の預言書)と壊れた懐中電灯(聖なる導きの杖)のことを思い出した。 いくら断線しているとはいえ、あのスマホには仕事のメモや、何より使い慣れたデバイスとしての愛着がある。川の方へ行った彼女たちの手元に、それらは預けられたままだ。


「あいつらのところに行って、返してもらってくるか。これからの市場調査や在庫管理には、電卓機能だけでも役に立つしな」


祐二が川のせせらぎが聞こえる方へ、ひょいと足を踏み出そうとした、その時。


『警告:相棒、移動を停止してください』


相棒が無機質だが、どこか呆れを含んだような鋭い制止をかける。


「なんだ? また魔物の反応か?」


『いいえ。現在の座標および環境音から推測される対象三名の状態は「全身洗浄中(水浴び中)」です。このタイミングでの接近は、前回のような「不可抗力の事故」ではなく、意図的な不正アクセス――つまり「今度こそ本当ののぞき」として定義されます』


「……。……あ。そうだった」


祐二は上げた足を空中で静止させた。 今行けば、間違いなくラナの剣で「物理的な処置(切除)」を受けることになる。


『相棒、あなたの社会的信用スコアは現在、ようやく回復傾向にあります。ここで致命的な脆弱性を露呈させるのは、極めて非効率的な判断です。彼女たちが衣類という名の「ファイアウォール」を再構築するまで、その場での待機を強く推奨します』


「……了解だ。大人しく待つよ。……全く、俺がそんなに欲求不満に見えるかよ」


祐二は苦笑しながら、再び大樹の根元にどっしりと腰を下ろそうとした。


だが、その瞬間。


森の温度が、一気に数度下がったような錯覚に襲われた。 鳥の囀りが止まり、川のせせらぎさえもが、何かに吸い込まれるように「消音ミュート」されたかのような静寂。


緊急警告アラート:相棒。……冗談を言っている場合ではなくなりました。極めて強力な「異質な論理ロジック」の接近を感知』


相棒の声から、温度が消える。


(……!? なんだ、この寒気は……)


祐二は反射的に周囲を見渡した。 木々の隙間、茂みの奥、そして先ほど相棒が「のぞき」を警戒した頭上の枝。だが、そこには誰もいなかった。風に揺れる葉の音以外、動くものなど何一つない。


「……誰も、いないじゃないか。相棒、センサーの誤作動バグか?」


『否定します。物理的な「個体」は視認範囲外ですが、環境パラメータが書き換えられた形跡があります。今の寒気は、周囲の魔力が強制的に「静止フリーズ」させられたことによる副作用です』


(……静止フリーズだと?)


誰もいない。なのに、背中の産毛が逆立つような「誰かに見られている」感覚だけが、泥のように肌に張り付いて離れない。 さっきまでの事業計画を練る高揚感は霧散し、代わりに得体の知れない恐怖と、心臓を直接掴まれるような危機感が祐二を突き動かした。


(……マズい。あいつら、丸腰だ!)


「スマホも懐中電灯も後回しだ! ラナ! ミーナ! エレン!」

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