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異世界に転移した俺、なぜかAIも一緒に来てました。  作者: 限界まで足掻いた人生


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第19話:デッドロック

「……よし、これで『清冽な滴草』は規定数に達した。次は少し戻って、あの岩場の陰にある魔石を回収して帰還……というルートが最短だ」


祐二は背中の荷物の重みに耐えながら、完璧な「帰還アルゴリズム」を提示する。二十七歳のシステムエンジニアにとって、納期(帰還時間)を守るための進捗管理は、もはや本能に近い。


「……本当におじさん先生、あんたは何者なのよ。私たちの『勘』より正確なんて、気味が悪いくらいだわ」


リーダーのラナが、呆れと感心が混ざった溜息をつく。だが、祐二はその呼称にだけは、どうしても我慢がならなかった。


「……いいか、頼むからその『おじさん』って呼び方はやめてくれ。何度も言うが、俺は二十七だ。リーダーとは二歳、ミーナとは六歳しか変わらない。日本なら普通に同世代だぞ」


切実な訴えだった。レベルが上がらないことよりも、精神的な尊厳を削られる方が今の祐二には堪える。


「えぇー? でもレベル1だし、なんだか醸し出してる雰囲気が疲れたおじさんそのものなんだもん」


ミーナが尻尾を揺らしながら、不満そうに口を尖らせる。


「じゃあ、なんて呼べばいいのよ? 『オス人間くん』? それとも『歩く鑑定石』?」


「……普通に『祐二』でいい。呼び捨てで構わないから」


「ふーん、ユウジねぇ。……ま、成果は出してるし、特別に許可してあげるよ、ユウジ!」


二十一歳の狼人族に「許可」されたことに複雑な思いを抱きつつも、ようやく「おじさん」のデッドロックから解放されたことに、祐二は微かな安堵を覚えた。


一通りの採集を終える頃には、祐二の背負い袋は文字通りはち切れんばかりの戦利品で満たされていた。


「……よし、今日のノルマは完全にオーバー達成ね」


リーダーのラナが、満足げに周囲の安全を確認しながら告げる。二十七歳のシステムエンジニアが提示した「最短最適ルート」のおかげで、予定の半分以下の時間で作業は完了した。


「さあ、帰る前にあそこの川に寄るわよ。戦利品を綺麗に洗うわ」


ラナが指差したのは、森の木々の隙間からきらきらと光る清流だった。


「洗う? そのままギルドに持っていけばいいだろ。時間の無駄じゃないか?」


膝の笑いが止まらない祐二が、疲労困憊の声を出す。だが、ラナは「これだから素人は」と言わんばかりに肩をすくめた。


「素材の鑑定額は『純度』と『外観』で決まるのよ。泥がついたままの魔石や、萎れた薬草は二束三文。丁寧に洗って鮮度を保てば、売値は二割は跳ね上がるわ。これは冒険者の常識よ」


「……なるほど、バリューアップの工程か。分かったよ、好きにしてくれ」


祐二は興味なさげに答える。今の彼にとっては、金貨の枚数よりも一刻も早くこの三十五キロの負荷から解放されることの方が重要だった。


「……あと、ついでに私たちも水浴びさせてもらうわ。返り血と汗でベタベタだもの」


「ああ。俺はこっちで素材の在庫リストでも作っておく。ゆっくりしてろ」


投げやりな祐二の態度。だが、その言葉を聞いた瞬間、三人の乙女たちの視線がナイフのような鋭さを帯びた。


「……ユウジ。言っておくけど、また『偶然』なんて言い訳は通用しないからね」 「……視覚情報の再取得のぞきを試みた場合、今度は物理的な処置(切除)を検討するわ」 「おじさん……じゃなくてユウジ! 絶対の絶対の絶対に、こっち見ちゃダメだからね! 狼の鼻をなめないでよ!」


「分かってるって。……そもそも、今の俺にそんな元気があるように見えるか?」


祐二は川に背を向け、大樹の根元にどっしりと腰を下ろした。


『お疲れ様です。肉体的負荷は限界に近いですが、資産形成は極めて順調です。彼女たちが洗浄を行っている間に、今後の円滑な取引のため「異世界での商法・流通ロジック」を整理しておきましょう。』


「……そうだな。この『手伝い』っていう名の労役が終われば、俺は一文無しの自由身だ。元の世界に戻るコネクションも今のところ見当たらない以上、この世界で生きていくためのキャッシュフローを構築しなきゃいけない」


祐二は大樹の根元に深く背を預け、虚空を見つめた。レベル1、戦闘能力皆無、ギフトあり。そんな27歳のエンジニアが剣と魔法のファンタジーで生き残るには、腕力ではなく「仕組み」で勝つしかない。



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