第17話:「氷」と火種
門番の衛兵は、北門の詰め所から動かずにいた。彼は先ほど森へ消えていった「おじさん」こと祐二の安否を、未だに気に掛けている。
「……いつまであっちを見てるんすか」
隣に立つ若い門兵が、暇そうに槍を弄びながら話し掛けてくる。
「お前は最近入ってきたから知らないもんな。あの一行……『氷の処刑人』は、実力こそ折り紙付きだが、問題児の集まりなんだよ」
「問題児? あの美貌のリーダー、ラナさんのパーティーがですか?」
「ああ。特に、つい最近抜けたメンバーだ。人族のフリをずっとしてた……ほら、あの――」
衛兵がその名を口にしようとした瞬間、街の中心部で凄まじい衝撃音が轟いた。
――ドォォォォォン!!
「なんだ、何があった!?」
焦る門兵。詰め所の窓が震え、黒煙が空へと昇る。 場面は、その爆発が起こる三十分前へと遡る。
冒険者ギルドの前に、深々とフードを被った一人の女が立っていた。 そのフードの隅には、この世界の住人には判読不能な、地球の文字で『AT』というロゴが刻まれている。
女は無言でギルドの扉を潜り、受付へと歩み寄った。
「……真実の鑑定石の簿記表。それがあるはずだ。見せろ」
冷徹な声が響く。受付嬢は困惑した顔で首を振った。
「鑑定石の記録はギルドの機密事項です。関係者以外の方にお見せすることはできません」
女は無言のまま、ずっしりと重い金貨の詰まった袋を受付に叩きつけた。カウンターに鈍い音が響く。
「……それでも、規則ですので。そもそも、冒険者の証をお持ちではないのですか?」
舌打ちが一つ。フードの奥から出されたのは、銀色のプレートだった。 受付嬢がそのプレートを手に取り、記載内容を確認する。
そこに刻まれていた種族欄は、確かに『人族』と記されたままである。だが、その名前と、かつて所属していたパーティー名を見た瞬間、受付嬢の指先がガタガタと震え始めた。
「……っ!? あなた、あの時の……『氷の処刑人』の……!」
名前と経歴が、目の前の女の正体を雄弁に物語っていた。受付嬢は顔を引き攣らせ、喉の奥で喘ぐように呟く。
「ひっ……ま、魔族―――」
「……静かに」
言葉が終わるより早く、女の袖口から特殊な形状のナイフが滑り落ちる。 鋭利な刃が受付嬢の喉元を寸分の狂いなく捉えていた。周囲からは見えない絶妙な角度での制圧。
「今すぐ、その表を出せ。さもなければ、この街のデータベースを根こそぎ灰にする」




