第11話:報酬の重み
「おい、ぐずぐずするな。まずはギルドで今回の報酬を受け取るわよ。あんたの処遇はその次だ」
ラナが縄を強く引く。祐二の体はもはや自分の意志とは無関係に、社会の歯車に噛み合わされた部品のように引きずられていく。
白き都の広場に面した巨大な石造りの建物――そこが冒険者ギルドだ。扉を開けると、そこは荒事と熱気が渦巻く別世界だった。酒の匂い、獣の血の残り香、そして無数の冒険者たちの喧騒が祐二の五感を叩く。
ラナは受付のカウンターへ歩み寄り、ゴブリンの耳が詰まった汚れた袋を無造作に放り投げた。
「ゴブリン20匹と、はぐれオーク1体の討伐確認をお願い。……ついでに、この『ゴミ』の引き渡し手続きもだ」
受付の女性が手際よく袋の中身を確認し、カウンターに銀貨を並べる。しかし、その枚数は以前よりも明らかに少なかった。
「はい、確かに。討伐報酬……差し引きまして、銀貨9枚です」
「……は? ちょっと待ちなさいよ。前までは12枚だったはずでしょ。3枚も足りないじゃない」
ラナが鋭い視線を受付嬢に向ける。エルフのエレンも、不審そうに眉を寄せた。
「申し訳ありません。本日付で、王国の『魔導防衛特例税』がさらに引き上げられまして……冒険者報酬の源泉徴収率が、以前の15%から40%まで跳ね上がったんです。これでも、ギルド側が手数料を削って調整した結果なのですが」
「40%!? 冒険ついでにゴブリンを狩る手間もバカにならないのに、これじゃ食い扶持も怪しくなるわよ……。どこまでむしり取る気なのよ、あの国王は」
ラナが忌々しそうに銀貨を掴む。異世界の経済もまた、現場の労働者に優しくはなかった。
「……ふん。これじゃ、私の故郷にずいぶん近づいてきましたね」
犬耳を持つ亜人の少女が、自嘲気味に鼻を鳴らす。かつて彼女が「亜人の居住区は税金が人間の倍だ」とこぼしていた、あの過酷な搾取の記憶が重なったのだろう。
「まだ、私の故郷よりはマシですね。あそこは美しさの維持という名目で、呼吸をするだけで金貨を毟り取られるような場所ですから」
エルフのエレンも、冷ややかな視線を天井に向けた。 どこへ行っても、上層部が現場から搾り取る構造は変わらない。そんな異世界の「仕様」に、祐二は前世の工藤部長の顔を思い出し、吐き気を覚えた。
『状況はさらに悪化しました。増税により、彼女たちの精神的リソース(余裕)が著しく低下しています。現在のあなたは「腹いせに処分しても惜しくないゴミ」へと、その存在価値がデフレ(下落)しました。』
「……おい、ギフトさん。つまり、彼女たちの機嫌が最悪ってことか?」
『肯定。現在の彼女たちのストレス係数は通常時の 180%を超えました。不用意な発言は、物理的な死を招くリスクがあります』
「……何も言わないのが正解だな」
ラナが少ない銀貨を懐に収め、怒りの矛先を探すように祐二を睨みつけた。




