第10話:白の守衛
夕闇に沈む森を抜け、一行は白い都『ルミナス・ガルデリア』へと続く巨大な石橋に差し掛かった。 幾千もの歳月に磨かれた滑らかな石の感触が、縄で引かれる祐二のボロボロの革靴越しに伝わってくる。橋の下を流れる運河の轟音は、まるで罪人を裁く怒号のようだった。
都の正門には、白銀の甲冑に身を包んだ屈強な守衛たちが槍を携えて立っていた。その一人が、縄に繋がれた泥だらけの男と、殺気を放つ三人の女性冒険者を見て、怪訝そうに眉を寄せた。
「おい、ラナ。……また厄介事を連れてきたのか? そいつは何だ」
「見ての通りよ。遭難者のふりをして、私たちの野営地を覗き見していた不審者。ギルドに突き出して、正式な罰を与えてもらうわ」
ラナが冷たく吐き捨てると、守衛は「ああ……」と深く、同情を隠しきれない溜息をついた。
「覗き、か。……よりによって、お前たちの、な」
守衛は、縄でがんじがらめにされ、顔中泥と痣だらけになった祐二の前に歩み寄った。彼は祐二の死んだような魚の目を見つめ、そっとその肩に手を置いた。
「……いいか男。お前、一番やっちゃいけない連中に一番やっちゃいけないことをしたな」
「……え?」
「こいつらは街でも有名な『氷の処刑人』パーティーだ。特にラナは、無礼を働いた山賊の指を一本ずつ……おっと、これ以上は言わん。とにかく、お前さんのこれからの人生に、せめて神の慈悲があることを祈ってやるよ」
守衛の言葉には、敵意ではなく、処刑台へ向かう仔羊を見るような、純粋で深い「憐憫」が籠もっていた。
『状況を報告します。周囲の個体による反応から推測するに、あなたの失策は、この地の社会通念上『生存が奇跡』と言われるレベルの致命的な問題であったようです。守衛の視線は、あなたの誠意ではなく、あなたの「あまりの不運」に向けられています。』
「……おい、ギフトさん。その情報は、あまりにも救えないんだが」
「何ブツブツ言ってんのよ。行くわよ」
ラナが縄を強く引く。祐二は守衛の哀れみの視線を背中に浴びながら、白き都の門をくぐった。 石造りの壮麗な街並みが広がるが、今の祐二にとってそれは、豪華な装飾が施された「巨大な牢獄」の入り口に見えた。
「……これからギルドに向かう。逃げようとしても無駄よ、この街の門番は全員、あんたの不潔な顔を覚えたから」




