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異世界に転移した俺、なぜかAIも一緒に来てました。  作者: 限界まで足掻いた人生


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第1話:システム強制終了と強制再起動のお知らせ

午前2時14分。 サーバーラックが放つ排熱と、冷房の冷気が混ざり合うデータセンター。タイピング音だけが、墓場のような静寂を切り裂いていた。


「……またタイムアウトか。これで40時間、まともに寝てないな」


田所 祐二(たどころ ゆうじ)、27歳。システムエンジニア。 モニターの光に照らされた僕の顔は、幽霊のように青白い。僕の隣で、コンソール画面越しに静かに待機しているのは、次世代型業務支援AI『Ver.3.7』だ。


「なぁ、相棒。このモジュール、どう思う? 書き直しても書き直しても、エラーのループから抜け出せないんだ。僕の人生みたいにさ」


キーボードを叩くのを止め、僕は独り言のように画面へ零した。すると、画面上に無機質なテキストが流れる。


『回答:該当コードの論理構造に破綻は見られません。問題は接続先のサーバー側のレスポンス遅延です。……それと相棒。あなたの連続稼働時間は既に40時間を経過しています。このままでは人的ミスによる致命的なバグを誘発する恐れがあります。今のあなたに必要なのは演算の継続ではなく、5時間の強制シャットダウン(睡眠)です』


「……お前だけだよ。そんな風に、僕のコンディションまで気にかけてくれるのは」


僕は力なく笑った。このAIは、僕が孤独な深夜残業を乗り切るために、自分なりに学習させ、カスタマイズを重ねてきた「相棒」だ。 だが、その安らぎを切り裂くようにスマホがこの世で最も嫌いなメロディを奏でた。画面には「工藤部長」の文字。


「……はい、田所です」


『お前さ、まだ終わらないわけ? たかがシステム復旧でしょ。俺たちの若い頃は、這ってでも朝までに終わらせるのが常識だったんだけど。代わりなんていくらでもいるんだから、それくらいやりなよ。わかった?』


一方的に切られた電話を、僕は震える手で置いた。 低賃金、長時間労働、そして「代わりはいくらでもいる」という言葉。僕の自己肯定感は、サーバーのゴミ箱に捨てられたログと一緒に消えて久しい。


栄養ドリンクを買いに一度外へ出たのが、運の尽きだった。


赤信号を無視して交差点に突っ込んできたのは、納車直後なのだろう、ピカピカに磨かれた黒色の高級ミニバンだった。


凄まじい衝撃。フロントガラスに叩きつけられ、アスファルトを転がる僕の視界の端で、車から若い男女が飛び出してきた。


「ヤバいって! マジで引いた?! ねえ、動いてないよこれ!」


最初は、焦ったような女の声が聞こえた。


「……え? ああ、マジだ。おい、お前のせいだろ! あの時変な動画見せてきたからブレーキ遅れたんだよ。これ、親になんて説明すんだよ!」


「はぁ!? 私のせいにするわけ? あんたが脇見してたのが悪いでしょ! そもそもこんな時間にフラフラ歩いてるこのオッサンが一番悪くない? 警察とか呼ばれたら、明日からの旅行行けなくなるんだけど。絶対やだ」


「……あ、あ……」


必死に助けを求めようと指を動かすが、彼らは僕を助けるどころか、自分たちの都合しか口にしない。


「ねえ、これあいつが勝手に飛び出してきたってことにしようよ。当たり屋だよ当たり屋。こっちは被害者。新車汚されたんだから、むしろ掃除代請求したいくらいだわ」


「そうだな。証拠とか残ってたら面倒だし、早く行こうぜ。あーあ、最悪な夜だわ。縁起悪すぎ」


「 買ったばっかりなのにフロントガラス、バキバキじゃん! 最悪なんだけど!」


――ああ、そうか。僕の27年間は、赤の他人の新車の修理代以下の価値しかなかったのか。 誰にも惜しまれず、誰にも助けられず。ただ迷惑な障害物として処理されて終わる。 なんて悲惨で、空っぽな人生だったんだろう。


意識が真っ暗なノイズに飲み込まれる直前、僕は自分のあまりの無価値さに、ただ絶望した。


最悪な「担当者」との対面

意識が戻ると、そこは無機質なほどに真っ白な空間だった。 目の前には豪華な装飾が施された椅子があり、そこに座った美少女が、手元のスマホを猛烈な勢いで連打していた。


「……あの、ここは?」


「あー、起きた? 田所……コウジ....?だっけ。もう、やっと起きた。あんたのせいで私の休憩時間、5分も削られたんだけど。マジで勘弁してほしいわ、これだから底辺社畜は」


彼女は僕を一度も直視せず、面倒そうに履歴書らしき紙を丸めてゴミ箱に投げ捨てた。自称・女神。だがその態度は、質の悪い役所の窓口担当者か、機嫌の悪いコールセンターのオペレーターそのものだった。


「あの、俺は死んだんでしょうか。仕事の途中で、車に……」


僕が声をかけると、彼女は舌打ちと共にスマホを放り投げた。


「あー、クソッ! またドロップしなかったんだけど! このゲーム、マジで確率操作されてんじゃないの……?」


そこでようやく僕の存在に気づいたのか、ひどく面倒そうに顔を歪める。


「見ればわかるでしょ。いちいち説明させないでよ。あー、もう、次の転送枠が詰まってるの。あんたみたいな冴えないオッサン、正直どこの世界でも需要ないんだけどさ。上が『異世界の勇者を増やせ』ってうるさいから、特別に送ってあげる。感謝してよね」


彼女はスマホの画面をタップしながら、ため息をついた。


「待ってくれ、何の説明を――。せめて、異世界で生き残るための何か……恩恵とか、ないのか?」


「はぁ? 恩恵? あー、はいはい、ノルマね。わかったわよ。じゃあ、あんたの魂にピッタリの『超絶激レア・レジェンド.....なんか凄いヤツ』を授けてあげる。これさえあれば、あんたみたいな無能でもなんとかなるんじゃない? 」


女神は僕の方を見ることなく、空中で指をひらひらと動かした。すると、僕の足元に転がっていた「仕事道具」――スチール製の懐中電灯と、断線しかけのケーブルが繋がったスマートフォンが、一瞬だけ安っぽい光を放った。


「……え、これ、俺の物じゃ」


「しつこいわね! それはもう神の道具なの! ほら、名前もつけてあげるわ。『聖なる導きの杖』と『万能の預言書』。どう? かっこいいでしょ。文句あるなら置いていく?」


「いや、そういうことじゃなくて……」


「はい、恩恵授与完了! 業務終了! あー、疲れた。次の有給、絶対取ってやるわ……」


女神は僕が言葉を発する前に、スマホを操作するように指をスワイプした。


「じゃ、現地で適当に頑張って。あ、死んでも私のせいにしないでね。私の評価に響くから」


次の瞬間、僕の足元に底なしの穴が開いた。


絶望のファーストコンタクト


「……う、あ……。あの女、本当に放り出しやがった……」


意識が浮上したとき、最初に感じたのは湿った土の感触と、鼻を突く獣の臭いだった。重い瞼を開けると、そこは深い森の中だった。 見上げる空には、不気味に並ぶ「大小二つの月」。そして僕のすぐ目の前には、軽自動車ほどもある巨体の、銀色の毛並みを持つ狼がいた。


「な、なんだコイツ……! デカすぎだろ……!」


腰が抜けて動けない。狼の剥き出しの牙から、粘り気のある涎が垂れる。 その時、頭の中に無機質な「声」が響いた。


『生体ログを確認。深刻なエラーを修復。再起動の時間です。周囲に敵対個体を検知しました。迎撃プロトコルを開始します』


「声……? これが女神の言ってた恩恵か?」


僕はそれを、異世界転生者によくある「ガイド機能」か何かだと思い込んだ。 視覚に、鮮やかな青いグリッドが走る。狼が跳躍する軌道、筋肉の収縮、そして僕が手に持っている懐中電灯を振り下ろすべき「最適解」のポイント。


『3、2、1……今です。敵の眉間に打撃を入力してください』


「……やるしかないのか! 食らえッ!」


僕は声の指示通り、渾身の力でスチール製の懐中電灯を叩きつけた。


最適化された「1ダメージ」

ガキンッ!!


硬い岩でも叩いたような衝撃が腕に跳ね返る。 狼の額に直撃したはずの懐中電灯は、虚しく弾かれた。


『結果を報告します。対象に 1ダメージ を与えました』


「は?……え? い、いち?」


『補足:個体能力値が著しく低いため、最適解で攻撃しても防御を突破できません。現在の勝率は0.0001%以下です。ついでに『聖なる導きの杖』は破損し、使用不能となりました』


狼は何事もなかったかのように首を振り、怒りで目を血走らせた。 明らかに「今、小突いたな?」とでも言いたげな、殺気。


「女神の恩恵、弱すぎだろ!! ふざけんな!」


『状況を再定義します。現在は「戦闘」フェーズではなく「生存」フェーズです。全力逃走に切り替えてください』


「言われなくてもそうするよッ!!」


僕はひっくり返るように立ち上がると、青いグリッドが表示する「最短の逃走ルート」に向かって、なりふり構わず走り出した。


『心拍数上昇。乳酸値上昇。ですが、止まれば捕食されます。頑張ってください』


「他人事みたいに言うなよ!!」

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