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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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08.第二王女、ポーリーン=エイベラル

 ポーリーン=エイベラルは、エイベラル王国の第四子として生を受けた。

 姉が一人、兄が二人、弟が一人。

 第一子の第一王女は、しっかり者で頭が切れ、王子であったなら即座に立太子していたであろう傑物だ。淑女としても申し分ないが、それ以上に武に長けた王女だった。それ故、王宮騎士団に所属し、トップにまで上り詰めた。

 第二子の第一王子は、第一王女ほどではないにしても、これまた文句のつけようのないできた王子だ。文武両道、品行方正で、自分に厳しく他人に優しい、上に立つべき人物である。彼は成人後、王太子となった。


 ポーリーンは、彼らのことを苦手としている。

 ポーリーンは、絶世の美女と評された王妃に一番よく似ており、両親や周囲に溺愛されて育った。すぐ上の第二王子も彼女を大層可愛がっており、ポーリーンも懐いている。

 だが、第一王女と第一王子は違っていた。

 彼らは誰に対しても平等であり、ポーリーンを特別視することはない。周りがちやほやする分、厳しく諭すことも多かった。

 弟である第三王子は、上の二人のように何か言ってくるわけではないが、視線はいつも冷ややかである。なので、彼のことも好きではなかった。


 ポーリーンは、自分の容姿が優れていることを自覚している。幼い頃から可愛いだの天使だのと言われ続ければ無理もない。

 我儘を言って困らせる様も愛らしいと評され、彼女の態度はどんどん助長されていった。


「お父様とお母様に一番愛されているのは私。叶わない願いなんてない。だって、私は選ばれた存在だから!」


 欲しいものは必ず手に入れる。どんな手を使っても。

 そして、それが叶わなかったことなどない。


 ポーリーンは、美しいものが大好きだ。綺麗なものは、自分の側にあるべきだと信じている。

 繊細なレース、緻密な刺繍が施された最高級のドレス、なかなか手に入らない希少な宝石を使ったアクセサリー、そして、誰もが見惚れる容姿端麗な男。

 美しい自分には、美しいもの、美しい男が相応しい。できるだけたくさんの美しいものに囲まれていたい。

 それが「もの」なら可能である。だが、「男」なら。──婚約者なら、たった一人だけ。

 しかし、それでは物足りない。


 だから、専属の護衛騎士を美形の男で固めた。気に入った者は即座に取り立て、今や、彼女の専属騎士は両手の指に届こうとしている。


 通常はありえない。

 騎士団を統括する第一王女は、多すぎると何度も苦言を呈してきた。

 その度に、両親に泣きついた。すると、二人はポーリーンの希望を受け入れるよう、第一王女を説得する。

 現状、王と王妃に逆らえる力は彼女にはない。結局、ポーリーンの思い通りになった。


「明日の予定は……あぁ、確かジェイクが婚約者とお茶会って言っていたわね。そうだ、明日の孤児院の慰問にはジェイクについてきてもらいましょう!」


 ポーリーンは、王女という立場にもかかわらず、王都の町を視察したり、孤児院の慰問をしたりと、精力的に外に出て行く。よって、国民に顔が売れているし、親しみを持たれ、人気も高い。

 だがそれらは、国民のためなどではなかった。


「お忍びデートなんて言うより、視察って言った方がかっこいいじゃない? それに、孤児院の慰問といっても、寄付金を少しばかり渡すだけだし。ほんのちょっと施しを与えただけで敬われるのだから、おいしい話よね。それに、素敵な護衛とデート気分も味わえるのだから、一石二鳥だわ」


 国民がこれを聞いたら、きっと怒り狂うだろう。

 しかし、彼女には悪気などこれっぽっちもない。


「うふふ。ジェイクの婚約者……アシュベリー子爵令嬢だっけ? 冴えない子よね。あんな子が精悍でかっこいいジェイクの婚約者だなんて、生意気なのよ」


 そして、視察や慰問という名のお忍びデートの目的は、騎士とその婚約者との逢瀬の機会を潰すこと。

 ポーリーンが乞えば、相手は否と言えない。


「あの女、時々後をつけてくるのよね。はしたないったらないわ! でも、これみよがしにくっついたら、今にも泣きそうな顔をして逃げていくんだから、ほんとおかしいったら! まだジェイクとの関係にしがみついているようだけど、彼は私のものよ。いい加減諦めてほしいわ!」


 彼女に、婚約者同士の仲を引き裂いている自覚はない。


「素敵な男性は、みーんな私のものなんだもの!」

いつも読んでくださってありがとうございます。

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