07.さようなら
「あなたが愛しているのは私じゃない。仕事でもない。だって、あなたがやっていることは、専属護衛騎士としての仕事じゃないもの」
王女殿下のご機嫌取り。そんなものは、専属護衛騎士の仕事じゃない。
「俺の仕事を侮辱するな! 俺の仕事は国に尽くし、国のためになる神聖なものだ! お前とは違う!」
「あら、私の仕事だって国に尽くすものよ?」
「お前のは、ただの金儲けじゃないか!」
「……そう。そんな風に思っていたの」
「っ! そ、それは……」
狼狽えるフランシスを見て、ほとほと愛想が尽きた。
彼はもう、昔の彼じゃない。……私が好きだった、フランシスじゃない。
ううん、もしかしたらフランシスはもともとこうだったのかもしれない。私がただ、知らなかっただけで。
「フランシス、あなたはオマリー商会の仕事を、ただの金儲けだと蔑んでいたのね」
「いや……そんなことは……」
「ありますよね? 今、思わず本音が出たじゃないですか」
「うるさい! お前は黙っていろ!」
「黙りませんよ。ここまで姉上とうちの事業を馬鹿にされて、黙っていられるわけがありません」
エヴァンの怒りに、部屋の空気が一気に冷え込む。
口調は落ち着いているのに、彼の周りには怒りの炎が立ち上っているかのように見える。それなのに、寒気がするのだ。
そんなエヴァンに恐れおののき、フランシスの顔色が真っ青を通り越して白くなっている。額からは、ダラダラと冷や汗が流れ落ちていた。
これ以上はもう、どうにもならない。
私は、彼に結論を促した。
「どこまで行っても、私たちの気持ちは交わらないのね……。あなたは専属護衛騎士としてポーリーン殿下に尽くす。私は商会を発展させる。もうそれでいいのでは?」
「いや、違う……違うんだ! さっきのは言葉のあやで……」
「ねぇ、あなたと私、結婚する意味はある?」
「あるさ! 俺はお前……二コラをっ……」
「姉上にとって、意味はありませんよね。むしろ害悪かと」
「エヴァン! 貴様……大きな顔をしているが、お前などただの養子のくせに!」
「ただの養子でも、エヴァンは我がオマリー伯爵家にとってなくてはならない人よ。侮辱は許さないわ」
怒りをこめてフランシスをねめつける。
完全に私を怒らせてしまったとようやく気づいた彼は、何かを言いかけてはやめ、オロオロするばかりとなった。
……なんて情けないのだろう。
フランシスにとって、ポーリーン殿下は誰よりも大切。でも、結婚相手は確保しておきたい。それが、大商会の後継者である女ならなおさら。
このままいけば、好きな騎士の仕事を続けつつ、大商会をバックにつけることができる。彼にとって、これほど都合のいい話はない。
でも、これを望んだのは私だ。これが……大きな間違いだったのかもしれない。
「最初から無理な話だったのかもしれないわね。商会の一人娘と、騎士の結婚なんて。どちらかが歩み寄れたら話は違ったのかもしれないけれど、どっちも譲れなかったのだから」
「いや……だから、俺は……」
「いいの、もう。フランシス、私たち終わりにしましょう」
「二コラ!」
どうしてそんな顔をするの? どうして縋るような目で私を見るの?
あなたにとって、私は軽んじていい存在なのでしょう? 婚約者なのに、大事にしなくてもいいんでしょう?
あなたにとって一番大切なのは、ポーリーン殿下。
その思いが、忠誠心であろうと、恋情であろうと、もうどっちだって構わない。
「あなたが戻ってくるまで待つことはできないわ」
「だが! 俺との婚約を解消すれば、お前だって相手に困るだろう!」
「それでも。……いつ戻ってくるかわからない人を待つよりマシよ。帰ったら、お父様に話をするわ」
私は立ち上がり、フランシスに最後の挨拶をした。
カーテシーをした後、真っ直ぐに彼を見つめる。
「さようなら、オークウッド卿」
そして、颯爽とこの場を去る。
去り際、エヴァンがフランシスに何かを囁いていた。その言葉を聞いた瞬間、彼の表情が大きく歪む。
何を言ったのかしら?
私がその言葉を知ることになるのは、ずっと後のこと──。
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