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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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55/57

55.これからも、ずっと

本編完結。明日以降の番外編もお楽しみくださいませ♪

 正式に婚約者となったエヴァンは、とにかく甘い。

 仕事の話をしている時などは以前と変わらないけれど、そこから一歩離れると、とにかく私を甘やかそうとする。美しい、可愛いなどの賛辞を、呼吸するかのごとく口にするのだ。


「エヴァン、婚約者といっても、常に側にいる必要はないのよ? 学院の友人とか、挨拶はしなくていいの?」

「構いません。彼らとは毎日会っていますから。まぁそれも、あと少しですが……。卒業後は、挨拶くらいはしようと思います」

「……もう」


 にこにこと微笑むエヴァンに、私は少し呆れる。


 エヴァンは、あっという間に最終学年となった。宣言していたとおり、飛び級したのだ。

 商会の仕事もしながらだというのに、いつ勉強していたのやら。

 学院に通っている間は、商会の仕事はほんの少し、手伝い程度ということだったのだが、いつの間にやらがっつりになっている。だから、勉強に割ける時間は、普通の学生より相当少ないはずなのだ。なのに、あっさりと飛び級試験に合格してしまった。


 ……優秀すぎるわ。


「それに、二コラを一人にしたくないのです。隙あらば、近づこうする虫がわんさかいますので」

「そんなのいないわよ。いたとしても、仕事関係でしょう? ……わんさか寄ってこようとするのは、エヴァン目当てのご令嬢だと思うわよ?」

「はぁ……迷惑な話です。婚約者同士の間に、割り込めるはずもないのに」


 私の方はともかく、エヴァンを諦めていない令嬢はそこそこいる。

 なにせ、私は一度婚約を解消した身。私に非がなかったとはいえ、相手に心変わりされたという点は事実。

 だから、一度あることは二度ある……と、期待するのもわからないではない。


 失礼な話だけどね!


「二コラ」

「なに?」

「そんな浅はかな考えなど、捨てざるを得ないようにしましょう」

「? ……どうやって?」

「こうやって」

「っ!」


 エヴァンは私の腰を抱き、強く引き寄せる。そして、耳元で囁いた。


「誰も引き裂けない、私たちの強い絆を。こうやって、ことあるごとに見せつけてやるのです」


 そう言ってエヴァンは微笑み、そっと私の頬に口づける。

 咄嗟に頬を押さえる私の赤く染まった顔を見て、エヴァンが無邪気に笑った。


「何をしても可愛い。罪な人ですね、二コラは」

「~~~!」


 私は、口をパクパクさせるだけ。言葉は声にならない。

 周りでは、令嬢たちの悲鳴があがっている。もしかしたら、失神したお嬢様もいるかもしれない。


「心臓が……壊れそう」

「頑張ってください。まだまだ序の口です。私が抱えている想いには、まだ到底足りないのですから」

「うっ! もうわかった、わかったから……勘弁して?」


 上目遣いで見つめる私に、今度はエヴァンが小さく呻く。

 けれどすぐに立ち直り、今度はこめかみにキスを落とした。


 バタン。

 ああ、本当に誰かが倒れちゃったのね……。


「エヴァン、今は夜会で、多くの目があって……」

「これくらいは許容範囲だと思いますよ? 二コラは私のもの、私は二コラのもの、そう皆に知らしめているだから、これでいいのです」


 ああ、もう手に負えない。

 でも、一番手に負えないのは、実は私の方かもしれない。

 暴走気味だけれど、そんなエヴァンの想いが嬉しくてたまらないのだから。


 幸せだと思っていた婚約は、些細なことで壊れてしまって。

 人々の醜い悪意に晒されて。

 悔しくて怒り狂った日も、悲しくて眠れなかった日もあった。


 そんな時、あなたはずっと私の側にいてくれた。


「エヴァン、これからもずっと一緒にいてね」

「……望むところです。嫌だと言っても離れません」

「言わないわ」


 顔を見合わせ、クスッと笑う。


「ねぇ、せっかくだから踊らない?」

「そうですね。その方が、二人の世界に浸れそうです」

「もう、エヴァンったら!」


 エヴァンのエスコートで、私たちはダンスの輪に加わる。

 ちょうど、音楽が始まった。


 くるくる、くるくる、フロアを優雅に舞う。

 エヴァンの瞳には、幸せそうに微笑む私がいて。

 私の瞳は、エヴァンだけを映している。


 耳に入ってくるのは、美しい演奏と、エヴァンの優しい声。他には何も聞こえない。


 こうしていると、本当に世界には私たち二人しかいないみたい……。


 エヴァンのリードでくるりと一回転、そして、優しく引き寄せられる。

 そこで、私たちは改めて想いを確かめ合う。


「二コラ、私の最愛」

「愛しているわ、エヴァン」


 そう、これからも、ずっと──。




 了

これにて本編完結となります!最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価(☆☆☆☆☆)をいただけますととても嬉しいです。皆さまの応援が励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

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