54.結末
ポーリーンとの対峙から、およそ半年後。
テレンス王太子殿下は、正式に国王となった。
これほどの短期間で譲位できたのは、すでに彼がかなりの割合で国政に携わっていたからだそうだ。あと、脇を固める有力貴族たちとも連携が取れていた。
なので、王が代わった後の混乱などもなく、平和なものである。
前国王夫妻とポーリーン、フランシスは、離宮へ移った。
彼らは生涯ここから出られず、慎ましやかに暮らしていくことになる。
これまで派手な生活をしていた彼らだから、馴染むまでにはまだ時間がかかるだろう。
両親と同様に、ポーリーンに甘い第二王子のヨハン殿下は、すっかり意気消沈してしまった。
彼もかなり派手な人物だったけれど、今では影が薄く、王宮に引きこもっていることが多いとのこと。
ヨハン殿下は、そのうち外国へ婿入りする予定なのだという。彼が早く立ち直るためにも、きっとその方がいいだろう。
そして驚いたのは、アシュベリー子爵令嬢だ。
彼女は罪を犯してしまったけれど、情状酌量が認められ、賠償金の支払いと半年ほどの謹慎で済んだ。
問題はその後だ。
なんと彼女は、ジェイク=ムーア……いや、すでにムーア伯爵家からは籍を抜かれてしまっている、彼と結婚したのだ。
彼女のご両親や親戚はかなり反対したというが、彼女が押し切ったのだそう。
ジェイクは、散々彼女を蔑ろにしてきたにもかかわらず、アシュベリー子爵家に婿入りすることが叶った。
しかし、これが彼にとっていいこととは限らない。
ジェイクは、クララ嬢に絡めとられてしまったも同然である。この先、彼に自由はないだろう。
彼女の執着心に、身震いがした。
──そんなこんなで、今夜は、テレンス陛下が開催する初めての夜会である。
普段は王都に足を運ばない遠方に住む貴族たちも、今夜ばかりは参加していた。
国王交代後すぐに大きな夜会は開催されたが、これは他国の要人も招いてのもので、国内の貴族の参加は高位の者たちで占められていた。
けれど、今日の夜会は国内の者に限られている。改めて、国内の貴族たちに向けて挨拶、お披露目という主旨での開催なのだ。
私は、会場をぐるりと見渡す。
多くのご婦人、ご令嬢方のドレスにオマリー絹が使われている。
鮮やかな赤にピンク、黄色に青、緑……色とりどりのドレスが、まるで華々しく咲き誇る花のようだ。
「たくさんの方が、オマリー絹を身に着けてくださっているわね」
「そうですね。ようやく、国内では手に入りやすくなりましたから」
エヴァンも、感慨深げにそう言った。
大量生産が難しいオマリー絹だから、爆発的な人気となると、どうしても手に入れることは困難になる。
それなりに強気の価格設定にもかかわらず、評判が評判を呼び、飛ぶように売れていく。
それでも、できるだけたくさんの人の手に渡るよう、私もエヴァンも努力してきた。そしてようやっと、皆が手にできるようになったのだ。
ただし、これはまだエイベラル王国内に限るのだけど。
「でも、オマリー絹のドレスを一番美しく着こなしているのは、二コラ、あなたです」
「ちょっ……エヴァン!」
耳元に唇を寄せ、甘い声で囁くエヴァン。
油断も隙もあったものではない。
「ああ、そんな可愛い顔をしないでください。他の男に見せたくありません」
「~~エヴァンのせいでしょう!」
私とエヴァンは、あれからすぐに婚約した。
このことが社交界に広がった時は、驚きと落胆の声で、一時大騒ぎだったらしい。
以前の婚約は、途中から破綻していたも同然だった。それは皆の知るところで、いつ解消になるか、目を光らせていた家も多かったそうだ。
解消であれ、破棄であれ、私に瑕疵がないことは明白。そして、私は次期オマリー伯爵家とオマリー商会を継ぐ者。これほどの優良物件を逃すものかと、高位下位問わず、後釜を狙っていたのだ。
そして婚約解消後は、家に大量に釣書きが届けられた。しかし、その話は私のところに一切入ってこなかった。
……エヴァンが、お父様にそう願ったからだ。
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