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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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53.永遠にさようなら

 もう引けばいいのに、と思えど、どう止めればいいのかわからない。

 私が止めても彼女は引かないだろうし、グローリア殿下も呆れ果てて言葉を失くしている。

 ここはもう、傍観者でいるしかなさそうだ。


「姉弟揃って、なんって失礼なの! ……あぁ、あんたは養子だっけ? あんた、ずっと二コラにべったりよね。まだ姉離れできていないなんて、恥ずかしいったら! それともなに? もしかしてあんた、二コラのことが好きなの?」

「好きですよ」

「……はああああ!? 気持ち悪っ! 血は繋がってなくても姉弟なのにっ!」

「あなたに何と思われようと、痛くも痒くもありませんね。どうせ何もできないですし。もし他人を使って何かしようとしても、返り討ちにして差し上げますよ」

「きいいいいいっ!」


 ポーリーンは奇声をあげ、ドスドスと足を踏み鳴らす。


 ……完全に、癇癪を起こした子どもよね?

 それより、エヴァンを気持ち悪いだなんて! なんてこと言ってくれるのよ、この女!


 怒りがぶり返してくる。


 それにしても、これが一国の王女だったとは。

 グローリア殿下を窺うと、相当なダメージを食らっている。

 これ以上続けると、かえってグローリア殿下を攻撃してしまうことになるのでは!? と心配になる。


「二コラ!」


 突然フランシスが私の名を叫び、こちらに向かってこようとした。

 が、控えていた衛兵に止められる。


 なに? あなたまで何をしようとしてるのよ!


「二コラ! 愛しているんだ!」

「は?」


 反応したのは私ではない。エヴァンである。

 彼は汚物でも見るような目で、フランシスを見据えていた。


「気安く二コラの名を呼ぶな。お前はもう赤の他人だろうが」


 地の底を這うような低い声。

 フランシスは、悔しげに表情を歪める。

 エヴァンは彼に近づいていき、憎々しげにこう言った。


「前にも言ったはずだ。あれは、婚約解消する前の夜会だっけな? ……与えられた最高の幸運を逃したのはお前だと。もう一度言ってやろうか?」

「……っ」


 エヴァンは満面の笑みを浮かべ、嬉々としながら告げる。


「『与えられた最高の幸運を逃したね。手放してくれてありがとう。もう返さないよ』」

「くっ……」


 一転し、再び冷ややかモードになる。


「お前は、そこのクソ王女を選んだんだよ。どうぞお幸せに。あ、元・王女だっけ」


 フランシスが、ガクリと膝をついた。完全に心が折れてしまったようだ。

 その一方で、ポーリーンは怒り狂っている。


「お前っ、なんてことを言うの! 不敬だわ! 即刻こいつを牢に入れて! 処刑よ、処刑!」

「いい加減にしろ! ポーリーン!」


 グローリア殿下が一喝した。

 もう耐えられなかったのだろう。


「おね……」

「お前はもう王族ではないと、何度言えばわかるんだ! 王族としてもありえない。簡単に牢に入れろ、処刑しろなどと……。お前は、こんなことになっても反省の一つもしないのだな。……私に、こんな愚かな妹などいない!」

「!」


 ポーリーンの目が大きく見開かれる。

 グローリア殿下は彼女から目を逸らし、私に言った。


「二コラ、本当に申し訳ない。わかってはいたが、時間の無駄だったな」

「……いえ。私は、言いたいことが言えて満足です」

「そう言ってもらえるとありがたい。もう言い残したことはないか?」

「はい」

「それでは、こんな不毛な時間は終わりにしよう。おい……」


 彼らを連れて行けと、グローリア殿下が衛兵に命じようとした時だった。

 ポーリーンが狂ったように叫び出す。


「二コラ! お前が……お前が全部悪いのよ! お前のせいでこんなことになって、お前さえいなければっ……うわああああああんっ!」


 そして、フランシスと同じように膝をつき、大声で泣き崩れた。


 ……嘘でしょう?


 ドン引きである。


「行こう、二コラ、エヴァン」

「……はい」


 彼らが行かないなら、私たちが出て行くまで。

 ポーリーンは泣き喚いたまま、そしてフランシスは、恨めしそうにこちらを見ていた。


 エヴァンの言ったように、ポーリーンを選んだのはフランシス。そして、この結末を選んだのはポーリーン自身だ。


「さようなら」


 私は、二人に別れを告げる。

 これで本当にさよならだ。そう、永遠に。


 ──私の未来に、あなたたちは必要ない。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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