51.最後の対峙
気を引き締めて、テレンス殿下の言葉を待つ。
私の心臓は激しく脈を打っていた。
「これは、拒否してもらっても構わない」
「……はい」
「その上で聞いてもらいたいのだが……。ポーリーンがあなたと話したいと言っている」
「ポーリーン殿下が、ですか?」
意味がわからない。
今更何を話すというのだろう?
「助けろなどとは言わせない。姉上がともに立ち会うし、もしそんなことを言われても、姉上が止めるから心配しなくてもいい。おそらく……理不尽な言になるだろう。だから、断ってくれても構わない。だが、あなたにも言いたいことがあるだろう? この際、ぶちまけてやってはどうかと思ってね。……どうだろうか」
ポーリーン殿下に再び相まみえるのは、私にとって苦痛を伴うものだ。
けれど、グローリア殿下が一緒にいてくださるなら。
そして──言いたいことを言っていいのなら。
その時、グローリア殿下が苦笑しながら言った。
「オマリー伯爵令息、言いたいことがあるようだな。想像はつくが、言ってみろ」
エヴァンはグローリア殿下に一礼し、こう願い出る。
「恐悦至極に存じます。……私も、その場に立ち会わせてはいただけないでしょうか」
「そう言うと思っていたよ。構わない。其方がいた方が、二コラも安心できるだろう」
「ありがとうございます」
グローリア殿下は、エヴァンの行動を予測していたようだ。
でも、エヴァンも一緒なら私も心強い。
エヴァンが側にいてくれるなら、ポーリーン殿下に何を言われようと平気……なはず。
「テレンス殿下、承知いたしました。ポーリーン殿下とお話させていただきます」
「感謝する、オマリー伯爵令嬢」
最初から最後まで驚きどおしの会合だったけれど、とりあえず終わった。
私たちは心身ともにへとへとになりつつ、邸に戻ったのだった。
*
日を改めて、再び呼び出される。
今度は、私とエヴァンのみが王宮へ向かう。
お父様もお母様も心配そうな顔をしていたけれど、言いたいことは我慢しなくていいと背中を押してくれたので、遠慮はしない。
テレンス王太子殿下、いや、もうすぐ陛下となる彼のお墨付きなのだ。思う存分言ってやる!
王宮に着いて、私たちはグローリア殿下とともに、用意された一室へと案内される。
中に入ると、相変わらず派手な格好をしたポーリーン殿下がいた。なんと、フランシスまでいる。
「遅いわよ! いつまで待たせるつもりなの?」
開口一番これだ。
話がしたいと言ったのはそっちなのに。
「ポーリーン、お前はもう王族ではない。平民ではないが、貴族でもない。そのような口をきくな」
グローリア殿下に一刀両断にされ、ポーリーン殿下……いや、もう王族ではないならこの敬称は必要ない、ポーリーンは表情を歪める。
「お前の方から二コラと話をしたいと言ったのだろう? 彼女はそれに応えてくれたんだ。礼よりも先に悪態をつくとは何事か。そんな失礼な態度を取るなら、この機会はなしにするが?」
「……っ。申し訳……ございません、お姉様」
「謝るのは、私にではないだろう?」
ポーリーンは私の方を見るが、睨みつけるばかり。
けれど、グローリア殿下が私を連れて部屋を出ようとすると、ようやく観念したのか、渋々ながら私に謝罪をした。
「申し訳……なかったわ」
誠意はあまり感じられないが、別に構わない。
というか、早く終わらせたい。
グローリア殿下がどうする? というように私を見るので、コクリと頷いた。
「二コラの寛大さに感謝するのだな。……で、お前の話とはなんだ」
グローリア殿下が、フランシスを一瞥する。
こちらにも物申したいようだが、そうするとまた面倒臭そうなので放置、という感じである。
ポーリーン殿下は私を見据え、不機嫌を露わに言った。
「二コラ、あなたって本当に意地悪だわ。私とフランシスの仲に嫉妬して、新しいオマリー絹を私の手に入らないようにして。グランデ国王夫妻に献上するなら、私にも当然あるべきじゃない! むしろ、私が優先されるべきよ! 私は、エイベラル王国の王女なのよ? 私が新しいオマリー絹のドレスを纏えば、とてもいい宣伝になるじゃない。そんなこともわからないなんて、あなた、商人として失格ね。とてもオマリー商会を率いてなんていけないわよ」
「なっ……」
すぐさまエヴァンが反論しようとするが、私はそれを視線で制止する。
グローリア殿下は静観していた。
でも、本当は言い返したいのだ。それを抑えているのは、この機会を設けたのは私のため、私がこれまでの鬱憤を晴らす場だとわかっているから。
私は、淡々とした口調でポーリーンに言い返す。
「だからといって、偽物を作りますか? エイベラルの王女としても、グランデの第三王子妃としても、ありえない所業だと思いますが」
「うるさいわね! あれは……あれはっ……全部クララのせいよ! あの子が偽物を作って、こちらに寄越したから……っ!」
アシュベリー子爵令嬢がムーア卿に言われ、そうしたことはわかっている。
そして、ムーア卿にそれを強請ったのは、あなただというのに。
「仮に」
私は一呼吸置いて、ポーリーンに冷めた視線を向ける。
彼女は私の迫力に圧されたのか、一歩後退った。
これまでずっと我慢していた。
どうしようもない最低な女でも、彼女は「王女」だったから。
だから、言いたいことは胸の内に収めるしかなく、どんなに理不尽なことを言われても、どんなに貶められても、何も言い返さなかったのだ。
それを、ポーリーンはわかっていない。
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