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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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50.驚愕の後始末

 帰国後、オマリー伯爵家の全員、王宮に来るようにとお達しがあった。

 旅の途中、早馬でその知らせを聞いた時は、驚きとともに内心げっそりした。


 面倒ごとを後回しにするつもりはないけれど、少しくらいゆっくりさせてくれても……。


 なんて考えたのは、きっと私だけじゃない。


 まだ疲れの残る身体に鞭打って、私たちは王宮を訪れた。

 通されたのは会議室のような部屋で、そこにはテレンス王太子殿下にグローリア殿下、ウィリアム殿下がすでに着席していた。

 正式な挨拶は不要だというので、私たちは勧められるまま腰かける。


「帰国早々呼び立ててすまない。正式に公表するのは近日となるが、オマリー伯爵家には、直接私の口から伝えたいと思ったのだ」


 テレンス殿下は、私たちを見渡しながら話を始めた。

 彼の話は、最初から度肝を抜くもので──


「まずは、私が王位を継承したことから報告しよう」


 いきなり、とんでもない爆弾を放り込まれる。

 ここで、誰も奇声をあげなかったのは奇跡かもしれない。


 王位継承? いったいどういうこと……!?


「これは、王と王妃がポーリーンの失態の責任を取ってだ。彼女の行動は、隣国との関係に亀裂を入れるほどのものだった。幸い、そのようなことにならずに済んだが。……これまで、彼女の振舞いに対しては、方々から散々苦情が出ていたんだ。にもかかわらず、放置。それだけならまだいいが、更に助長するような言動もあった。今回のことは、それらが最悪な形で出てしまったが故のことだった」


 殿下方はもちろんだけれど、宰相をはじめとする大貴族たちをも完全に敵に回してしまった、ということか。

 今回の件は、テレンス殿下たちの企てでもあったけれど、だからこそ大事おおごとにならずに済んだのだ。


「あと、ポーリーンの護衛騎士たちについては、騎士としての資格を剥奪した。彼らは二度と騎士にはなれない。それぞれの実家が彼らをどう扱うかはわからないが、おそらく廃嫡となるだろう」


 これは、おおかた予想どおりである。

 強制的に騎士の任を解かれるなど、醜聞以外のなにものでもない。家を守るために、彼らを廃嫡にすることは十分ありうる話だ。


 気の毒だけれど、自業自得とも言える。ポーリーン殿下が強引に迫ったのだろうけど、それを退けることは可能だったからだ。

 王族には基本逆らえない。けれど、上官に相談することはできた。

 それに、グローリア殿下なら絶対になんとかしてくれた。それを彼らが知らなかったはずはない。グローリア殿下は常に彼らを気にかけ、困ったことはないかと声をかけていたのだから。


 フランシスも、騎士の道を断たれたことになる。

 彼は騎士である自分を誇りに思っていたから、さぞ落ち込んでいることだろう。


 ……正直、もうどうでもいいのだけれど。


 彼の暴挙は、どれだけ謝罪されても許せない。

 思い出すと、今でも身体が震える。あの恐怖は、たぶんずっと忘れられない。


 そんなことを考えている間にも、テレンス殿下の話は続く。


「ポーリーンは、王と王妃とともに離宮に幽閉となる。そして、最後の慈悲として、フランシス=オークウッドと添い遂げさせることにした」

「えっ!?」


 思わず声が出てしまった。


「も、申し訳ございません!」


 私は即座に謝罪する。


 ああああ、何をやっているのよ、私!


 恐縮だし、ものすごく恥ずかしいしで、冷や汗が流れてくる。

 けれど、「構わない。声をあげるほど驚くのも無理はないからな」とテレンス殿下が受け流してくださり、事なきを得た。


 ……心臓が止まるかと思ったわ。


 両親とエヴァンを窺うと、皆も戸惑っているようだ。


 それにしても、本当に驚いた。

 まさか、ポーリーン殿下とフランシスが結ばれるだなんて……。


「オマリー伯爵令嬢からすると納得できないかもしれないが、面倒ごとをまとめて片付けるいい機会だったのだ。どうか許してほしい」

「いえ、私は殿下のご判断を支持いたします」


 私の返答に、テレンス殿下は僅かに表情を緩める。


「ありがとう。……彼らのやらかしたことを考えるとありえない処分なんだが、ポーリーンが不憫だと両親がうるさいのでね。散々揉めたのだが、王位を渡して彼らも蟄居することを条件に、認めることにした」


 己の立場を投げうってでも娘を守った、ということだろうか。

 彼らの子どもは、ポーリーン殿下だけではないのに。


 私としては、なんだかもやもやする。

 しかし、殿下方は皆、晴れ晴れとした顔をしていた。

 彼らは、とうに自分たちの両親を見限っていたのだろう。


 ……切ない。


「というわけで、正式に私が王位を継ぐことが決まった。姉上、ウィリアムと協力し、この国を良い方向に導いていきたいと思っている。これはすでに、過半数の貴族たちも認めている。其方たちも……どうかよろしく頼む」

「承知いたしました。もちろん、私どもも賛同いたします」


 お父様がそう言って、深く頭を下げた。

 私たちもそれに倣い、礼をする。


 国王陛下の治世は、決して悪いものではなかったように思う。けれど、それを差し引いても余りあるほどに、第二王女の教育に失敗してしまった。


 ポーリーン殿下は特権意識のかたまりで、自由奔放で傲慢、あまりにも自分本位だった。気に入らない人間を虐げることも普通だったし、彼女のせいで壊れた婚約も少なからずあった。

 貴族の婚約は、家同士の契約。それを反故にしたのだから、その罪は決して軽くはない。


 それでも、彼らは彼女の幸せを願ったのだ。

 王族ではいられない。社交界からも追放され、彼女は二度とあの眩い光の中には戻れない。

 ならば、せめて女としての幸せくらいは、と。それが叶うなら、身を引いても構わない──。


 ポーリーン殿下が一人娘であったなら、ある意味美談になったかもしれない。

 でも、違う。

 これは美談などではない。彼女を溺愛したが故の、転落だ。


「話は以上だ。だが……実はもう一つある。これは、オマリー伯爵令嬢にだ」

「私に……? 何でしょうか」


 テレンス殿下をはじめ、グローリア殿下もウィリアム殿下も、至極申し訳なさそうな顔をする。


 ……なんだか、嫌な予感がするわ。

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