49.家族の愛情
お母様の話は続く。
「だけど、あなたとフランシスの仲は拗れていった。まぁ、フランシスがあなたに甘えすぎた結果なのだけれど」
「いえ……私も仕事にかまけて、よくなかったのかもしれません」
「だとしても、あなたは将来、オマリー商会を背負って立つ立場。それは彼もわかっていたはずよ。彼は騎士であろうと、あなたに寄り添うべきだった。でも、そうしなかった」
オマリー伯爵家という莫大な富を持つ家に婿入りすることに胡坐をかき、好き放題に振舞った。
王女の専属に選ばれて以降は、特に酷かった。
「ポーリーン殿下の命」を盾に、私を軽んじ、蔑ろにした──。
「エヴァンは怒り狂っていたわ。フランシスに姉上は渡せない、あんなのが婚約者なんて認めたくない、いつもそう言っていたの。……お父様も、実はかなりご立腹でね、婚約破棄を申し入れるって覚悟を決めていたわ」
「エヴァン……お父様……」
「でも、あなたが自分から言い出すまではと、私が止めていたの。何より大切なのは、二コラ、あなたの気持ちだから」
「お母様……」
貴族の娘は、自らの意思で婚約、婚姻を結べることなどほとんどない。家を繁栄させるために、親の意向に従うのが普通だ。
私とフランシスとの婚約は、政略ではなかった。けれど、お父様とオークウッド子爵は懇意にしていた。その縁で結ばれたのだ。
だから、ずっと我慢していた。どんなに悲しい思いをしても、彼に失望しても。よほどでない限りは不満を口にすまいと。
でも、お父様もお母様も、もちろんエヴァンも、皆が知っていた。そして、私が無理だ、嫌だ、やめたい……そう言い出すのを、ずっと待ってくれていたのだ。
「私……」
「あなたは精一杯頑張ってきたわ。お父様はね、ずっと後悔していたの。元は、自分が彼と引き合わせたのだもの。あなたを悲しませるようなことになって申し訳ないって、いつも言っていたわ」
「そんな! お父様は悪くないです!」
「ええ、そうよ。お父様は悪くないわ」
「はい。……ポーリーン殿下のことがなくても、フランシスと私は上手くいかなかったと思います。私は商会が大事で、彼は騎士であることが大事だった。……ここからもうすれ違っていたのです」
今だからわかる。私たちは、最初から目指す方向が違っていた……。
上手くやれるはずがない。結婚しても、どこかで破綻していたはずだ。
「……ポーリーン殿下に全てを壊されたと思ったこともありましたが、彼女だけのせいじゃない。むしろ、上手くいかないことを証明してくれたんですね」
こう思えるのも、今、幸せな気持ちだからなのかもしれないけれど。
「それでも、彼女は一国の王女としては失格。与えられることだけを求め、与えることをしない。そして、自分のことだけが大事なの。……人としても、どうかと思うわ」
なかなかの毒舌である。
でも、そう評されても仕方がない。実際そうだったのだから。
ポーリーン殿下は、ずっとそれを許されてきた。きてしまった。それが結局、彼女の首を絞めることになったのだ。
「エイベラルの国王陛下がどのような決断をするのかわからないけれど、甘い処断は下せないでしょう。それは、王太子殿下やグローリア殿下、ウィリアム殿下が許さないと思うわ。それに、オマリー伯爵家だって許さない」
「お母様……」
「二コラ、お父様とお母様は、いつだってあなたの味方よ」
ここでそんなことを言われると、胸がいっぱいになってしまう。
お母様の顔が、みるみるうちに滲んでいく。
「もちろん、エヴァンの味方でもあるわ。だから……大切なあなたたち二人が結ばれることを、私たちはとても喜んでいるの」
「お母様!」
もうだめだった。
あとからあとから涙が頬を伝い、止めることができない。
私はお母様に抱きつき、嗚咽する。
お母様は優しく私の背を叩き、「あらあら、幼子のようね」なんて言って、ころころと笑った。
もう一台の馬車でも、同じような話が繰り広げられているのだろう。
もしかしたら、エヴァンも泣いているかもしれない……? エヴァンに限ってそれはない?
いずれにしても、私たちはとても素敵な両親に恵まれたのだ。
この幸運を感謝せずにはいられない。
ありがとう……お父様、お母様。
このご恩は一生忘れません。
私たちは、これから先の未来をともに助け合い、慈しみあって生きていきます。
まるで婚姻の誓いのようなことを思いながら、私はしばらくの間、お母様の胸で泣きじゃくっていた。
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