41.宣告
「夫の前で不貞を働くとは、大胆不敵だね」
「シリル! どうして……」
声のした方を見ると、なんとそこにはシリル殿下が立っている。
その後ろには、グローリア殿下、それにウィリアム殿下の姿もあった。その奥には、両親の姿まで……。
ポーリーン殿下は唖然としていた。
もちろん、私もだ。
全員勢揃いじゃないの……。しゅ、修羅場だわ。
内心で冷や汗をかいていると、エヴァンが私を抱いたまま部屋の隅に移動する。
そして、シリル殿下以下、他の皆が続々と部屋の中に入ってきた。
「シ、シリル……あの、これは違うのよ。その……け、敬愛の意味なの。それでキスしただけ。他意はないのよ!」
「グローリア殿下、ウィリアム殿下にお聞きしたい。エイベラルでは、敬愛の気持ちを表す時、唇に口づけるのだろうか」
「いえ、そのようなことはございません」
「決してありえません」
シリル殿下の問いに、グローリア殿下とウィリアム殿下が揃って否と答える。
ポーリーン殿下は焦ってあれこれと言い募るけれど、それらは全く意味をなさない。
決定的瞬間を見られてしまったのだから、もう弁解のしようがないというのに、悪足搔きするところは彼女らしい。
「言い訳しなくてもいいよ。わかっていたから。君と君の護衛たちとの距離は、最初からおかしかった。調べさせると、全員と関係があるというじゃないか。さっき君は、オマリー伯爵令嬢に向かって、破廉恥だの、ふしだらだのと言っていたけれど、全部自分のことだよね」
「そんなっ……酷いわ、シリル!」
「酷いのはどちらだろう?」
ポーリーン殿下は俯き、その手はドレスをぎゅっと握り締めている。
「だって……だって、あなたは妻である私を全然構ってくれなかったじゃないの! 結婚するまではあんなに優しかったのに、結婚してからは私を避けていた。私、とても淋しかったわ。だから……その淋しさを紛らわせようとっ……!」
ポーリーン殿下が両手で顔を覆う。身体は小刻みに震えており、その姿は憐れみを誘う。
──ここだけを切り取れば、の話だが。
ここにいる皆は、彼女がどのような人物であるかを知り尽くしている。だから、誰も同情などしない。現に、シリル殿下の表情も「無」である。
「護衛たちとの距離感がおかしかったのは、最初からだと言っただろう? ……夜会の最中といい、今といい、君はつくづく騒動を起こすのが好きなようだ。だが、その後始末はきちんとつけてもらう」
「……違う。違うわ! オマリー絹は騙されて買わされたのだし、今だって、二コラがフランシスを襲っていたのよ? 私はフランシスを助けただけなの!」
いやいや、あの場面を見てそう思ったのはあなただけですから!
心の中でそうつっこんだのは、きっと私だけではない。
「一応だけれど、聞いておこう。オマリー伯爵令嬢、不快にさせて申し訳ない。ポーリーンの言うことは事実だろうか」
「いえ、偽りです。私が彼に襲われていたのです」
「嘘よ! この大嘘つき! お前がいるからうまくいかない! お前なんてこの……」
「黙れ、ポーリーン」
静かだけれど威圧感のあるその声に、ポーリーン殿下は思わず口を閉じる。
「これ以上、彼女を愚弄することは許さない。……オマリー伯爵令嬢、本当に申し訳ない」
「いえ……」
見た目は童話の中から飛び出てきたような、美しく優しげな王子様だというのに、いざという時のこの威厳と迫力が半端ない。
さすが、グランデ王国王太子殿下の右腕と言われているだけはある。
「シリル殿下、エイベラル王国を代表して、私からも謝罪させていただきたい。我が愚妹が迷惑をかけてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「私も謝罪いたします。誠に申し訳ございませんでした。心よりお詫び申し上げます」
グローリア殿下とウィリアム殿下が揃って低頭する。
姉と弟にこんな真似をさせるだなんて……。
私はポーリーン殿下をチラリと見遣ったけれど、彼女にまだ反省の色は見られない。
シリル殿下は二人の謝罪を受け取り、また自分も頭を下げた。
「私も夫の身でありながら、彼女を止めることができなかった。不甲斐ないばかりだ」
そして、彼は意を決したようにポーリーン殿下に向き直る。
「詳細はまた改めてとなるが、一つだけ確定していることがある」
ポーリーン殿下が、ビクッと肩を震わせた。
シリル殿下はゆっくりと、言い含めるように、こう告げる。
「ポーリーン、君とは離縁する」
彼女はヒッと小さな悲鳴を上げ、その場にへなへなと崩れ落ちたのだった。
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