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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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39.土壇場で自覚する

 頭がぐらぐらする。まるで靄がかかったみたいにはっきりしない。

 それでも、このままじゃいけないと、心が警鐘を鳴らす。


 動け、動け、お願いだから私の身体、ちゃんと動いて!


 強く願うと、ふっとかき消したように靄が消えた。

 少しずつ頭がはっきりとしてくる。真っ暗だった目の前が、徐々に明るくなっていく。

 そして──私はゆっくりと目を開けた。


「え……」


 気づけば、私はソファに押し倒されていた。

 両腕を拘束され、見下ろされている。


「……っ!」


 本気で恐怖を感じた時は、声なんて出せないことを知った。

 心情的には大声で叫びたいのだが、掠れた息しか出ない。


「チッ。こんな短時間で目覚めるなんて、量を間違えたのか……」

「……フランシス!」


 そう、私に覆い被さっていたのはフランシスだった。

 声が出たことがきっかけとなり、身体が動くようになる。私はできる精一杯の力で、ここから逃れようとした。


「おっと、逃がさないよ」

「……っ、放してっ」

「嫌だ」

「どうして……どうしてこんなことをするの!?」


 優しかったのは、貴族学院に入る前まで。

 それ以降は、ずっと私を蔑ろにしてきたくせに。これでもかと軽んじてきたくせに。……まだ足りないというのか。


「俺はどうかしていたんだ。ポーリーン殿下に誑かされていた。やっと、それがわかったんだよ」


 はぁ? だから?


 それこそ今更だ。

 よく考えてほしい、思い直してほしいと、何度言ったことか。

 その度に、これは仕事だの、嫉妬は見苦しいだの、淑女にあらずだの、散々文句を言ったくせに!


「目が覚めたんだ。俺が本当に愛していたのは、二コラ、君だけだよ」


 背筋が凍る。

 どこか正常ではない彼の瞳が恐ろしくてたまらない。


「わ、私はもう愛していないわ!」

「怒っているんだね。……これから君だけを愛することで、これまでのことを償っていくよ。だから、もう一度婚約しよう」


 この人はいったい何を言っているのだろう? めちゃくちゃだ。


 私たちは婚約を解消した。でも、実質はフランシス有責の婚約破棄だ。私には何の非もなかったのだから。

 解消の形をとったのは、私に瑕疵をつけないため。

 解消と破棄では、意味合いがまるで違う。

 それに、破棄となると、オークウッド子爵家はオマリー伯爵家に慰謝料を支払うことになる。うちほど裕福でないオークウッド子爵家にそれは負担となるし、これまでの付き合いに免じて解消で手打ちとした。

 それを懇々と説明され、最終的に納得したのではなかったのか。


 そもそも、あなたはポーリーン殿下に首ったけだったじゃないの!


 フランシスから逃れようと身を捩るけれど、力では到底敵わない。

 このままだと、いいようにされてしまう。

 それに、私の予想が正しければ……


「俺たちは一度婚約を解消している。だから、もう一度婚約するためには、そうしなくてはならない理由が必要だ」

「……っ」

「今から君を抱く」


 やっぱり!!!


「何を言っているの? 冗談はやめてちょうだい!」

「俺たちがもう一度結ばれるために必要なことなんだ」

「私は嫌なの! 絶対に嫌っ!」

「抵抗するな。優しくしたいんだ」


 だから! 人の話を聞けーーーーーーっ!!


 そうこうしているうちに、フランシスの顔が迫ってくる。

 もう恐怖しか感じない。片手だけで私の動きを封じてしまう彼に、震えるばかりの自分が情けない。

 唇が迫ってくる。その上、彼の左手は私のドレスをたくし上げ……


 嫌! 絶対に嫌!

 こんな人にどうこうされるくらいなら、死んだほうがマシ!

 こんな奴に汚されたら、もう生きていけない。


 頬に熱いものが流れる。

 泣くなんて癪だけれど、涙はあとからあとから零れてくる。止められない。


 あと少しで唇が触れる。

 ずっと抵抗しているけれど、どうにもできない。

 まがりなりにも騎士である彼の腕力に、私が太刀打ちできるわけがないのだ。


 ああ……こんなことなら──


 同じ部屋で寝泊まりすることになった、あの日のことが脳裏をよぎる。


『姉上、お静かに』


 私を抱き上げて、ベッドに連れていってくれた。


『姉上が眠るまで、こうしていますよ。安心しておやすみください』


 そう言って、私が眠るまでずっと頭を撫でてくれた。


 優しい声に、少し切なげな表情。

 ずっと私の側にいて、励ましてくれて、時には叱咤してくれる頼もしい存在。


 一緒にいると、楽しくて、胸が高鳴った。

 だめだと思いつつ、何かあれば頼りにしていた。

 私たちは義理だけれど姉弟だから、その関係を壊してはいけない。エヴァンがオマリー伯爵家にやって来た時からずっとそう思ってきた。

 でも、こんなことになって思い浮かぶのは、お父様でもお母様でも親しい友人たちでもない、エヴァンのことばかり。


「愛しているよ、二コラ」


 やめて! 私は愛していない!


 私はカッと目を見開き、最後の抵抗を試みる。


「エヴァン、エヴァン、エヴァンーーーーー!!」


 ありったけの声を振り絞り、想い人の名前を叫んだのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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