33.波乱の幕開け
王宮のメインホールは、熱気に包まれていた。
各国の産業振興に関わる貴族や商人たちがあちこちで輪を作り、自国の産業や商売談義に花を咲かせている。
我がオマリー伯爵家は、各国に支店を持っている。それ故、お父様とお母様は、ずっとあちこちに引っ張りだこだった。
私とエヴァンも、先ほどからいろいろな人に声をかけられている。……が、それは必ずしも商売に関わることではない。
「あの……私とお話してくださいませんか? オマリー伯爵令息様と親交を温めたいのです」
「いえ、ぜひ私と。私の家は、北のフィールランド公国にて商会を営んでおりますの!」
「私も、ぜひ!」
エヴァンの周りには、若いご令嬢方がたむろしていた。皆、あれこれとエヴァンの気を引き、二人きりで話したがっている。
予想はしていたけれど、めちゃくちゃ狙われてるわね、エヴァン……。
オマリー商会と交流を持つことだけでもメリットがあるのに、次期後継者(本当は私だけれど)の令息を篭絡することができれば、縁続きになれるのだ。
しかも、エヴァンは見目がいい。頭もいい。ご令嬢方が目の色を変えるのも、無理はなかった。
とはいえ、私も頻繁に声をかけられている。ご令息もいるけれど、私の方は専らご夫人方がメインである。
「こちらのドレスは、オマリー絹ですわね。なんて艶やかで美しいのでしょう! けれど、オマリー絹ではこのような色は出せなかったのではなくて?」
「新技術が確立されたのですよね! 私、存じておりますわ。本日、国王夫妻に献上されるのですわよね?」
新オマリー絹の情報は、こちらでも結構知れ渡っている。
エイベラル王国に親族がいる人もいるだろうし、ご夫人方というのは大抵情報察知能力に優れているものだ。特に、今回の夜会の出席者となればなおさらである。
「それにしても、華やかでありつつ優しい色味ですわね……。二コラ嬢によくお似合いですわ」
「本当に。それに、デザインも素敵。オマリー絹特有の虹色もよく映えて……。エイベラル王国でもなかなか手に入らないそうですが、他国への展開は今後どのように?」
「私も、早く手に入れたいと思っておりますのよ!」
これについては、本当に申し訳ない話である。
自国だけで精一杯の状況で、なかなか他国までは手が回らない。
大量生産できるといいのだけれど、なにせ手間暇がかかる代物なのだ。一つ一つに時間がかかる。その分、出来上がりは素晴らしいのだけれど。
ご夫人方のお相手に一段落がついたので、私は会場をぐるりと見渡す。かなりの広さがあるので、全体を見渡すのはなかなか骨が折れる。
でも、お父様にお母様、それにエイベラル王族を代表して出席しているグローリア殿下はすぐに見つけられる。
というのも、三人とも新オマリー絹を身に着けているからだ。
普通の人はわからないだろうけれど、目利きの人間ならすぐにわかる。
触れなくても布地の滑らかさは伝わってくるし、光沢も他とは違う。それに、発色も。
これらは皆、紡績職人、織物職人、染色職人たちの腕によるものだ。
そして、最高級の布は、最高の技術を持つ仕立て職人たちによって、素晴らしいドレスや礼装に生まれ変わる。
これほどの逸品を見分けられないようじゃ、次期オマリー商会を率いる資格などない。
特に、グローリア殿下は目を引く。
今回のドレスは濃紺で、裾に向かうほど淡い色となるグラデーション仕様。凛々しい顔立ちの彼女を際立たせながらも、優しい雰囲気も醸し出していた。
しかし、はて、と私は首を傾げる。
「ウィリアム殿下もご出席されているはずだけど……どちらにいらっしゃるのかしら?」
てっきり一緒なのかと思いきや、そうではなかった。彼女をエスコートしていたのは、騎士団の部下だという。
入場する前、グローリア殿下と少し話をすることができた。私は、その内容をぼんやりと思い浮かべる。
『愚妹はやらかしてくれたよ。あれのドレスを仕立てた店を特定した。その店にオマリー絹を持ち込み、ドレスを仕立てるよう命じた人間がいたとのことだ』
『ポーリーン殿下だったのですか?』
『特定までには至っていない。が、ほぼ確定だろう』
『特定できないとは?』
『店にオマリー絹を持ち込んだのは、もちろんポーリーンではない。ならば、侍女かと思いきや、ポーリーンについている侍女ではないようでな。だが、女であったことは確かなんだ』
ポーリーン殿下の侍女ではなく、他の侍女である可能性もあるにはあるが、それは低いのだという。
何故なら、彼女はこちらの王宮でも嫌われているから。
気の毒だけれど、仕方のないところはある。
なにせ、自国から美形の護衛を五人も連れて来ているし、嫁入りしてからもやりたい放題なのは変わらない。我儘で、横暴で、自分が一番でないと気が済まない。
そんな人間に関わりたいと思う使用人はいない。彼女専属の侍女たちも、入れ替わりが激しいのだという。
なら、誰がオマリー絹を仕立て屋に持ち込んだのか?
ポーリーン殿下がそのドレスを着てこの夜会に出席するのは間違いない。
王族の入場は、もうすぐだ。
そうこうしているうちに、音楽が切り替わり、高らかにラッパの音が鳴り響いた。
いよいよ、王族の入場である。
私は息を潜め、入口の大きな扉をじっと見つめるのだった。
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