31.グランデ王国に到着
エヴァンと同じ部屋に寝泊まりすることになり、どうしようかと動揺していたけれど、何故かあっという間に眠りに落ちてしまった私。
寝かしつけまで完璧っていったい……などと思いつつ、ぐっすり眠ったおかげで次の日は快調この上ない。
グランデ王国に無事入国し、指定された宿泊所に向かってみると、とても立派で建物で、部屋も素晴らしかった。数日だけしか滞在しないのが勿体ないほどだ。
品がよく、必需品も過不足なく用意されており、とても安らげる部屋。ついテンションが上がってしまった。
「エヴァンの部屋はグリーン系の色で統一されていたけれど、こっちはクリーム色なのね。優しい感じで素敵だわ!」
「使用人の部屋も洗練されていて、とても過ごしやすそうです。中で移動できますし、何かあればすぐにお伺いできるので安心です」
ナンシーの部屋は私の部屋と繋がっていて、中で行き来ができるようになっている。簡易キッチンもあるようで、お茶の用意も楽だとナンシーが顔をほころばせていた。
エヴァンの部屋は私の逆隣りで、こちらはもちろん行き来はできない。けれど、すぐ隣なので何かあった時にはこれまた安心である。
両親の部屋は、私たちのちょうど真上になるとのことだ。
「そういえば、先ほどエヴァン様のところへ使者の方が来ていたようですが……」
「そうなの?」
「はい。お手紙のようなものを受け取っておられました」
王宮からの連絡? ううん、それなら私の方に来るはず。
エヴァンの方にということは、もしかしたら……。
「エヴァンの部屋へ行ってみましょう」
「はい」
私はナンシーとともに、エヴァンの部屋を訪ねる。
ノックをすると、すぐにエヴァンが顔を出した。
「姉上、今そちらにお伺いしようと思っていました」
「使者の方が来ていたと聞いたわ」
「はい。染色工房からの連絡でした。訪問日の調整をしようと思っていたのですが、あちらはいつでもいいとのことです」
なるほど。それなら、早い方がいいかもしれない。
王都の散策もしたいし、お父様とお母様が到着したら、またバタバタしてしまいそうだし。
「そうなのね。なら、早めに顔を出したいと思うのだけど……」
「それなら、今日行きますか?」
「え?」
私は驚いて目を丸くしてしまう。
私自身は元気だし、今日行ってもいい……ううん、行きたいとまで思ってしまったのだけれど、ついて行く皆はそうじゃない。だから、早くても明日かな、なんて思っていたから、エヴァンの言葉に驚いてしまったのだ。
エヴァンは疲れていないのかしら?
というのも、エヴァンは馬車に乗ってから、時折ぼんやりした顔を見せていたから。
なんとなく眠そうというか、疲れた様子が見えたのだ。
昨夜、ソファで寝ることになったものだから、よく眠れなかったのかと申し訳なく思っていたのだけれど、そうじゃないとエヴァンは言っていた。
私が気にしないよう、そう言ってくれていただけかもしれないけれど。
「今日というのは、突然すぎますか? 今日顔を出しておけば、明日は一日王都巡りができると思いまして。次の日には父上と母上が到着されるので、夜会の最終的な打ち合わせで時間を取られてしまいますし」
エヴァンも私と同じことを考えていた。
私はとても嬉しいしありがたいのだけれど、皆は大丈夫なのかしら……?
そう思って、エヴァンとナンシーを窺う。
すると、二人ともにっこりと微笑んで頷いてくれた。
「護衛たちも問題ないと思いますよ。声をかけてまいります」
「ありがとう、ナンシー」
ナンシーが護衛たちの部屋へ向かった後、私はエヴァンの顔を見上げる。
「エヴァン、寝不足なんでしょう? 私はゆっくり眠れたし、すごく元気だからすぐに行けるのは嬉しいけど」
「大丈夫ですよ。姉上の寝顔に見惚れてしまい、つい寝るのが遅くなってしまっただけです」
「え!? そんなにじっくりと寝顔を見てたの? もう! 恥ずかしいじゃない!」
「眼福でした」
「もう~~~~っ!」
ポカポカとエヴァンを叩くけれど、一向に気にする様子はない。むしろ、上機嫌になっている。
……なんで?
「なので、寝不足は寝不足でも、上質な寝不足なのです。だから、問題ありません」
「なにそれ……」
上質な寝不足とはいったい?
「姉上、準備はどのくらいで?」
「そうね。一時間もあれば」
「わかりました。それでは一時間後、お迎えにあがりますね」
「ええ。エヴァンはそれほど準備に時間はかからないでしょう? ……少しでも休んで」
「はい」
笑顔で答えながら、きっとそうしないのだろうなと思う。エヴァンはそういう人だ。
私は苦笑しつつエヴァンと別れ、自分の部屋へ戻ってナンシーを待った。
数分後、ついて来てくれる護衛を采配し、部屋に戻ってきたナンシーは、早速出かける用のワンピースをあれこれと選び始める。
私も口を出すことはあるけれど、大体はナンシーにお任せだ。彼女に任せておけば、間違いない。
「こちらにしましょうか」
「いいわね」
ラフすぎず、綺麗すぎずという絶妙なラインを狙ったワンピース。
あまりよそいき風にすると、工房の人たちが委縮してしまうだろうし、町娘風にするのも取引先を訪問するのに適さない。
ナンシーの選んでくれたワンピースはそれらを見事にクリアするもので、上品さは失わず、けれどあまり貴族令嬢らしくないものだ。
もちろん、あちらは私たちが貴族であることは知っている。でも、私はあまりそれを主張したくないのだ。
染色工房は、オーナーを含む全員が平民。だから、できるだけ委縮させたくないし、対等でいたかった。
「髪は、編み込んでまとめますね」
「ええ、お願いね」
工房には様々な器具があり、作業している職人も多くいる。
顔合わせは別室になるだろうけど、髪とはいえ邪魔になっては大変だ。ワンピースも、もちろんヒラヒラしたものではない。
ナンシーは、手際よく整えてくれる。
髪をまとめ、軽く化粧をし、出かける準備ができたのがちょうどいい頃合い。
「姉上、よろしいでしょうか」
ほら、エヴァンが迎えにきた。
私とナンシーは顔を見合わせ、クスリと笑みを漏らしたのだった。
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