28.旅路
エイベラル王国とグランデ王国との距離は、エイベラル王都から馬車で約半月ほどかかる。
オマリー伯爵家が用意したのは、外装は地味だが内装に凝った馬車だ。その後ろには、此度の訪問で必要な荷を積んだ荷馬車が続く。
馬車に乗っているのは、私とナンシー、それにエヴァン。そして、馬に乗った護衛たちが、周囲を警戒しつつ馬車と並行していた。
馬車と荷馬車を操る御者も、実は護衛だったりする。それに、こっそりと影もついている。
護衛が過剰すぎるとお父様には訴えたのだけれど、跡取りを守るためには、と私の意見は全然聞いてもらえなかった。
私はもちろん、エヴァンだって跡取りだ。私に何かあれば、彼が後を継ぐことになるのだから。
そんな二人が共に隣国に向かうのだから、お父様は心配でならないのだ。
一方、お母様の方はというと、肝が据わっていた。
『護衛はともかく、影は最小限の人数でいいと思うわ。だって、エヴァンがいるのでしょう? なら問題ないわ』
と言って、ころころと笑っていたのだから。
強い。というか、私もそう思う。
影は護衛ほどたくさんいないわけだし、諜報の仕事もある。私たちの護衛に多くをつぎ込んでしまうのは、あまりよろしくない。
というわけで、お父様の当初の予定人数よりはかなり絞られ、影は最少人数となった。
……それでも、他の貴族に比べてかなり過剰よね。もっと言えば、王家並みなのでは?
そんな私たちが、オマリー伯爵家を後にしたのが一週間と少し前。
私たちは順調に旅を続け、グランデ王国との国境まであと少しというところまで来ていた。
「これなら、予定よりも少し早めに着けそうね」
「天候もよかったですしね。あちらの染色工房にお邪魔したり、グランデ王都を散策する時間も十分に取れると思います」
「楽しみだわ!」
なにせ、グランデ王国は我が国よりも国力は高く、栄えている。
国土の大きさはそれほど変わらないのだが、肥沃な土地で、気候も安定しており、作物がよく育つ。畜産も盛んだ。また、魔道具作成の職人も多く、技術も発達している。
他の産業では我が国も健闘しているけれど、魔道具ばかりは敵わない。
人の生活に欠かせない魔道具は、エイベラルでも作られてはいるけれど、グランデに依存しているところが大きい。オマリー商会で扱っている魔道具も、ほとんどがグランデ産だ。
でもいつか、エイベラル産の魔道具も多く扱えるようになれたらと思っている。そうなるには、グランデ王国の魔道具職人に弟子入りさせたり、職人を我が国に招いたりする必要がある。
そういったこともあり、お隣さんとはぜひとも仲睦まじくありたい。
「グランデ王都の散策も楽しみですが、私はやはり夜会が楽しみです!」
ナンシーが目をキラキラと輝かせている。
彼女は出来上がったドレスを見て、しばらくの間大興奮状態だった。それはナンシーだけでなく、ドレスを目にした侍女やメイドたち全員に言えることだった。
それほど、素晴らしい出来だったのだ。
色は、淡いオレンジ。
華やかで可愛らしい色だけれど、その分デザインが大人っぽく落ち着いている。
上半身はコンパクトなベアトップとなっており、胸元から鎖骨あたりまでは繊細なレースがあしらわれていた。シルエットも膨らみすぎず、落ち着いた印象。それでいて、優美さも兼ね備えていた。
アクセサリーは、ネックレスとイヤリングともにエメラルドで統一。
エヴァンの衣装はというと、黒でまとめられていた。デザインもオーソドックスなもの。
あくまで自分は目立たないように、とのことだが、それはちょっと怪しいかも。
なにせ、美形だからね……。美形は何を着ても様になるし、どうしても目立ってしまうのよ……。
なので、夜会では出席者の視線をめいいっぱい集めてしまうことだろう。こればかりはどうしようもない。
「あのドレスだったら……髪はゆるく巻いてから、細かく編み込んでいきましょう。そして、サイドには後れ毛を! うんうん、そしてパールの髪飾りをこれでもかっていうほど散らして……」
指をくにくにと動かしながら、ナンシーが夢見心地になっている。
……うん、しばらく放っておいた方がよさそう。
そうこうしているうちに、最後の宿泊場所となる町に入った。
それなりに大きな町ではあったけれど、国境近くという場所柄もあるのか、あまり賑やかではなく、静かなところだった。
そして、私たちは町で一番大きな宿屋に向かう。すると、先行していた護衛の一人が、慌てた様子でこちらにやって来るのが見えた。
どうしたのかしら?
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