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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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24.王都散策

 半年前にオープンしたそのカフェは、広々とした明るい店内にテラス席も完備していて、雰囲気も硬すぎず、でも品はよく、あっという間に大繁盛となった。

 貴族、平民問わず、というところもよかったのだろう。

 さすがに公爵家や侯爵家のような高貴な方々に対しては、彼ら用の個室が用意されているけれど、それとは別に、予約すれば誰も使える個室もある。

 オーナーのこだわりと、細かな心遣いを感じる店だ。


 同世代の友人たちとの話題には必ず出てくるし、私もずっと気になっていた。

 行ってみたいけれど、一人で行くのは寂しいし、かといって、友人たちと予定をすり合わせることも難しかった。

 だから、ようやく来ることができて嬉しい!


「とても素敵ね。調度品もセンスがいいわ。それに、とってもいい匂い」


 時間的に、お茶だけというよりは食事をしている人たちがほとんどだ。

 友人同士で語らう女性たち、カップルで訪れている人たち、皆の表情が明るい。


「姉上、個室を予約しています」

「そうなの? いつの間に……」


 工房を視察しようとなったのは、ほんの二、三日前だったような気がするのだけれど。

 その時に予約を入れたとして、よく取れたものだ。個室は人気で、なかなか取れないと聞いていたから、いっそう驚いてしまった。


「実は、高貴な方用の個室なのです。オーナーがオマリーシルクの大ファンだそうで、都合してもらえたのですよ」


 他の人に聞かれないよう、こそっと耳元で囁かれる。

 その瞬間、辺りがざわめいたのがわかった。小さな悲鳴も聞こえる。


「ちょっと、エヴァン!」


 周りの人たちからすると、私たちが恋人同士で、彼が私に甘い言葉を囁いたようにでも見えたのだろう。

 ……だって、今のエヴァンからは色気が駄々洩れているから。


 店員に案内され、個室に入る。

 高貴な方用とはいえ、店の雰囲気を損なわないデザインになっていた。

 ただ、ちょっとだけ豪華な花が飾られていたり、テーブルも椅子も他より上質なもので、椅子のクッションもふかふかだったりする。


「夕食もレストランを予約していますので、ランチは軽めにしておいてくださいね」

「え? レストランを予約しているの? どんなレストラン? もしかして、この格好じゃ入れないようなところじゃ……」


 私が冷や汗をかいていると、エヴァンは軽くトンと胸を叩いた。


「問題ありません。アルヴァの近くにオマリー商会の宝石店があります。そこに衣装一式を用意していますので」

「~~~っ!」


 どこまで用意周到なのだろうか。


「準備がよすぎない?」

「これくらい当然ですよ。オマリー商会の店舗視察を兼ねての王都散策ですし、夕食の時間には邸に戻れそうもありませんでしたからね。だったら、一流レストランで食事もいいでしょう。社交以外での紳士淑女の情報収集もできますしね」


 抜け目のないエヴァンに、私は肩を竦める。

 本当にちゃっかりしている。

 しかし、次の瞬間には優しげに目を細め、小声で言った。


「というのは建前で、私はデートだと思っていますけどね」

「エ、エヴァン……!」

「揶揄ってなんかいませんからね?」


 そう言って、上目遣いで見つめてくるのは反則だと思う。

 混乱していつまでもメニューを決められないでいる私を見て、エヴァンが勝手にオーダーを済ませてしまう。でも、それが私の好みにぴったりだから、これまた困ってしまう。

 そして、極めつけはこの一言。


「ここで一番人気のフォンダンショコラも、ちゃんと頼みましたからね」

「……ありがとう」


 もう、タジタジなんですけど!


 美味しいランチとお茶を済ませた後は、オマリー商会の関連店舗を回る視察……も兼ねての王都散策。

 久しぶりにのんびり歩く王都の町は、相変わらず活気があって人も多い。

 貴族令嬢がこんな風に町を歩く時は、侍女や護衛をつけるのが普通だけれど、それだとなんだか仰々しくて、私はあまり好きではない。それに、護衛を連れていると、町の素の姿が見れない気がするのだ。


 かと言って、令嬢と令息だけというのは危険が伴う。特に、私たちは伯爵家で、オマリー商会の人間。金銭やその他諸々を狙っての誘拐などもあり得る。

 そういう訳で、オマリー伯爵家が雇っている腕利きの諜報部員を、護衛がわりに連れている。彼らは身近にいるけれど、姿は見せない、所謂「影」だ。


 王家や高位貴族家では当たり前のようにいるけれど、伯爵家では珍しいかもしれない。

 しかし、オマリー伯爵家は普通の伯爵家ではないので、かなりの数の影を雇っている。

 商会にとって、情報はまさに糧であり、命綱であり、金塊にも勝るもの。その情報を扱う我が家の諜報部員たちは、皆優秀で腕が立つので、護衛としても申し分ないのだ。

 一見、私たちは二人きりで歩いているように見える。けれど、周囲には、町の風景に溶け込んだ護衛たちがいる、というわけなのである。


 でも、エヴァンがいるだけで結構な戦力なのだから、影までは必要ない気もするんだけど……。


 華奢な貴公子に見えるが、エヴァンはこう見えて鍛えている。

 剣に槍に弓まで使えるのだからとんでもない。騎士団にだって、きっと入れると思う。

 護身のために習い始めた武術だったけれど、凝り性のエヴァンは、あれもこれもと次々にマスターしてしまったのだ。

 ……本当にとんでもない。


 そんな私たちは、オマリー商会の店はもちろん、他に気になった店をあちこち見て回り、気に入ったものをあれこれと買って、王都の散策を存分に楽しんだ。

 その後は、オマリー商会が営む宝石店の一室を借りて着替えを済ませ、高位貴族御用達の一流レストラン「アルヴァ」へと繰り出し、贅沢なディナーを堪能。

 視察と言いながら、まるで休日のような一日を過ごしたのだった。

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