20.鬱屈した感情
話は少々遡る。
エイベラル王国第二王女ポーリーンは、隣国グランデ王国の第三王子シリル=グランデに見初められ、婚姻した。
これが、両国間の共通認識である。──ただし、表側の。
裏には、様々な思惑が蠢いている。
しかし、生まれた瞬間から周囲に愛され、甘やかされてきたポーリーンに、それらを想像する力などない。
彼女には自信があった。己の美しさ、愛らしさに敵うものなどない。皆が自分を愛し、大切にする。それが当然なのだと。
「ねぇ! シリルはどうして私に会いに来ないの?」
ヒステリックなその声に、侍女たちがビクッと肩を震わせ、萎縮する。
そんな様子も気に入らない。
「私はただ、あんたたちに聞いているだけでしょう? なのに、その態度は何? 私があんたたちを虐めているとでも言いたいのかしら?」
「い、いえ、そのようなことは……」
「はあ?」
答えようとした侍女に近づき、睨めあげる。その侍女は、ヒッと小さな声をあげた。
「ここには役に立つ侍女はいないの!? もう誰でもいいわ。今すぐシリルを呼んで!」
「か、かしこまりましたっ!」
侍女たちが一斉に部屋を出て行く。その後ろ姿に、ポーリーンは鼻を鳴らした。
「どいつもこいつも使えないったら!」
祖国なら、こんなことはなかった。
皆がポーリーンの意志を尊重し、彼女が望むことを前もって察知し、動いてくれた。こんな風に不快になることなどなかったし、毎日がとても幸せだったというのに──。
「シリルもシリルよ! 結婚式まではあれほど優しかったのに、それ以降は滅多に顔を見せやしない。どういうことよ!」
「ポーリーン殿下、お気を鎮めてください」
「フランシス!」
金切声をあげるポーリーンの肩を抱くのは、祖国から連れてきた一番のお気に入りであるフランシスだ。反対側にはジェイクもいる。彼も、彼女のお気に入りの騎士である。
この二人には、婚約者がいた。それなのに、婚約者を祖国に置いてまでポーリーンについてきてくれた。つまり、婚約者よりもポーリーンを選んだということだ。
ジェイクはまだ婚約したままだが、フランシスの方は解消となったらしい。
フランシスの婚約解消の話を聞いた時は、どれほど胸が高鳴ったことか。
彼の婚約者である二コラ=オマリーを、ポーリーンは毛嫌いしている。そんな二コラが婚約解消されたとなると、これを喜ばずにいられようか。
「ねぇ、フランシス。シリルはどうして私をほったらかしにするのかしら」
「結婚したばかりの妻を放っておくなど、考えられませんね。私には信じられないことです」
「そうよね! ジェイクはどう思う?」
ジェイクは少し考え込む素振りを見せ、ポーリーンに笑顔を向けた。
「シリル殿下は女性に慣れていらっしゃらないのかもしれません。そのような噂一つなかったお方です。そんな方が、これほどまでに美しい妻を迎えられ、ご本人もどうしていいのかわからず、戸惑っていらっしゃる、と私はそう考えます」
「ジェイク、すごいわ! だとしたら、私の方から会いに行くべきよね!」
だが、フランシスがそれに待ったをかける。
「ですが、シリル殿下はポーリーン殿下でさえ執務室に入れようとはされません。お忘れですか? 数日前のことを」
二、三日前だったろうか。
シリルに会いに、彼の執務室まで足を運んだポーリーンは、その手前で追い返されたのだ。何をどう言ってもだめだった。
大いに気分を害したポーリーンだが、この日の夜にシリルからの謝罪があった。謝罪のためにポーリーンの部屋に訪れたシリルは、結婚前のように優しく、甘い言葉を嫌というほど囁いてくれた。だから、ポーリーンはシリルを許した。
なのに、彼女から会いに行くことはきつく止められている。ならば、向こうから来てくるのかというと、そうでもない。
「私、蔑ろにされているのかしら」
この問いに、二人の護衛は答えることができない。
上手い言葉が思い浮かばないのだ。
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