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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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19/22

19.頭痛の種

「そうそう、二コラの元にもグランデ王国から招待状が届いただろう?」

「はい、届きました」

「エイベラルからは、私が行くことになったんだ」

「そうなのですね! 心強いですわ」


 こちらの王家からも誰かが参加するとは思っていたけれど、グローリア殿下なら安心だ。万が一何か起こった時も、迅速に対応してくれる。それに、何かと相談しやすい。

 出席するかわからないけれど、なにせあちらには天敵がいる。顔を合わせることになれば、何か仕掛けてくるに違いない。

 そんなことを考えていると、グローリア殿下は含み笑いをした。


「二コラの懸念はよくわかるぞ。……嫁に行った愚妹も、夜会に出席するそうだ」

「……」


 心の中で「うげ」と淑女らしからぬ声をあげる。

 予想はしていたけれど、やはりか。


「くくくっ……」

「殿下?」

「いや、悪い。ちょっと思い出してな」

「何をでしょう?」


 一瞬、歪めた表情のことを笑われたのかと思ったけれど、そうではないようだ。

 よかった……。


「一番最初に贈ってくれたオマリーシルクのドレスを着て、私が夜会に出た時のことを思い出したんだ」

「あぁ……。あの時のグローリア殿下は、もう輝くばかりの美しさで、しばらくの間うっとりと見惚れてしまいましたわ。とても目が離せませんでした」

「ありがとう。……実はな、ポーリーンがあのドレスを見て、自分も手に入れたいと駄々を捏ねたんだよ」

「……そうでしたか」


 自分にふさわしくない、とか言っていたのに。


「だが、あの時はまだ数が少なすぎて無理だっただろう? そうしたら、へそを曲げてしまってな。それで、ポーリーンはあの布に手を出さなくなったんだ」


 初耳である。

 なるほど。欲しかった時に手に入らなかったものだから、拗ねていたと。

 さすがはポーリーン殿下だ。らしすぎる。

 申し訳ないけれど、心底納得してしまった。

 だったら、今回もスルーしてくれる……だろうか。


 そんな私の考えを読んだかのように、グローリア殿下は後を続けた。


「だが、他の高級布ばりに染色できるようになったとなると、話は違ってくる。また、我儘を言うだろうな。今回、あちらの王家に献上は?」

「国王ご夫妻に」

「他は?」

「ご用意できる余裕がなくて……」

「だろうな。いや、それは私もそうだろうなと思っていたから問題ない。しかし……またまた面倒臭いことになりそうだな。あいつが喚き散らす姿が目に浮かぶよ」

「……」


 私の口からは何とも言えないが、そうだろうなと思う。

 オマリーシルクがエイベラル王国優先なのはわかっているから、その国の王女だった自分は優先されて当然だ、とか言いかねない。

 普通に考えれば、第三王子妃が王太子ご夫妻を差し置いてなどありえない。でも、彼女にそんな理屈は通らないのだ。


「新生オマリーシルクのお披露目は必須だし、二コラもそれで仕立てたドレスを用意するんだろう?」

「はい。ですが……」


 グローリア殿下だってそうするだろう。いや、そうしてもらわなくては困る。

 だったら、私は遠慮した方がいいのかも。

 グローリア殿下だけなら、なんだかんだとポーリーン殿下を説得することはできるだろう。でも、私もとなると……。


 しかし、グローリア殿下は首を横に振った。


「いや、二コラもそうすべきだ。オマリーシルクは、オマリー商会の誇る商品、それを次期商会長が宣伝しなくてどうする」


 確かにそのとおりだ。

 今や、国をあげての特産となっているオマリーシルクだが、何より我が家、我が商会の商品なのだから。

 私は、覚悟を決める。


「そうですね。殿下のおっしゃるとおりです。……私も、オマリーシルクのドレスで出席いたします」

「そうか、よかった。二コラのドレス姿を楽しみにしているよ」

「私も、グローリア殿下のドレス姿を心から楽しみにしております」


 そう言って笑いあい、私たちは一級品のお茶とお菓子に舌鼓を打つのだった。

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