19.頭痛の種
「そうそう、二コラの元にもグランデ王国から招待状が届いただろう?」
「はい、届きました」
「エイベラルからは、私が行くことになったんだ」
「そうなのですね! 心強いですわ」
こちらの王家からも誰かが参加するとは思っていたけれど、グローリア殿下なら安心だ。万が一何か起こった時も、迅速に対応してくれる。それに、何かと相談しやすい。
出席するかわからないけれど、なにせあちらには天敵がいる。顔を合わせることになれば、何か仕掛けてくるに違いない。
そんなことを考えていると、グローリア殿下は含み笑いをした。
「二コラの懸念はよくわかるぞ。……嫁に行った愚妹も、夜会に出席するそうだ」
「……」
心の中で「うげ」と淑女らしからぬ声をあげる。
予想はしていたけれど、やはりか。
「くくくっ……」
「殿下?」
「いや、悪い。ちょっと思い出してな」
「何をでしょう?」
一瞬、歪めた表情のことを笑われたのかと思ったけれど、そうではないようだ。
よかった……。
「一番最初に贈ってくれたオマリー絹のドレスを着て、私が夜会に出た時のことを思い出したんだ」
「あぁ……。あの時のグローリア殿下は、もう輝くばかりの美しさで、しばらくの間うっとりと見惚れてしまいましたわ。とても目が離せませんでした」
「ありがとう。……実はな、ポーリーンがあのドレスを見て、自分も手に入れたいと駄々を捏ねたんだよ」
「……そうでしたか」
自分にふさわしくない、とか言っていたのに。
「だが、あの時はまだ数が少なすぎて無理だっただろう? そうしたら、へそを曲げてしまってな。それで、ポーリーンはあの布に手を出さなくなったんだ」
初耳である。
なるほど。欲しかった時に手に入らなかったものだから、拗ねていたと。
さすがはポーリーン殿下だ。らしすぎる。
申し訳ないけれど、心底納得してしまった。
だったら、今回もスルーしてくれる……だろうか。
そんな私の考えを読んだかのように、グローリア殿下は後を続けた。
「だが、他の高級布ばりに染色できるようになったとなると、話は違ってくる。また、我儘を言うだろうな。今回、あちらの王家に献上は?」
「国王ご夫妻に」
「他は?」
「ご用意できる余裕がなくて……」
「だろうな。いや、それは私もそうだろうなと思っていたから問題ない。しかし……またまた面倒臭いことになりそうだな。あいつが喚き散らす姿が目に浮かぶよ」
「……」
私の口からは何とも言えないが、そうだろうなと思う。
オマリー絹がエイベラル王国優先なのはわかっているから、その国の王女だった自分は優先されて当然だ、とか言いかねない。
普通に考えれば、第三王子妃が王太子ご夫妻を差し置いてなどありえない。でも、彼女にそんな理屈は通らないのだ。
「新生オマリー絹のお披露目は必須だし、二コラもそれで仕立てたドレスを用意するんだろう?」
「はい。ですが……」
グローリア殿下だってそうするだろう。いや、そうしてもらわなくては困る。
だったら、私は遠慮した方がいいのかも。
グローリア殿下だけなら、なんだかんだとポーリーン殿下を説得することはできるだろう。でも、私もとなると……。
しかし、グローリア殿下は首を横に振った。
「いや、二コラもそうすべきだ。オマリー絹は、オマリー商会の誇る商品、それを次期商会長が宣伝しなくてどうする」
確かにそのとおりだ。
今や、国をあげての特産となっているオマリー絹だが、何より我が家、我が商会の商品なのだから。
私は、覚悟を決める。
「そうですね。殿下のおっしゃるとおりです。……私も、オマリー絹のドレスで出席いたします」
「そうか、よかった。二コラのドレス姿を楽しみにしているよ」
「私も、グローリア殿下のドレス姿を心から楽しみにしております」
そう言って笑いあい、私たちは一級品のお茶とお菓子に舌鼓を打つのだった。
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