表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/22

15.第一王女、グローリア=エイベラル

 グローリア=エイベラルは、エイベラル王家の第一子の王女でありながら、王宮騎士団を統括する傑物である。

 女性でありながら騎士服に身を包み、騎士たちを率いるその姿は勇ましい。老若男女、身分もかかわらず、人気が高い。特に年頃のご令嬢たちは、その姿を見かける度に黄色い声をあげてしまうほどだ。


 そんな彼女も、いっぱしの女性。美しいものは大好きだ。といえど、ドレスで着飾ったりなどはさほど興味がない。そして、キラキラと輝く宝石なども。

 そんなものよりも、絵画や音楽の方に興味がある。それよりも心惹かれるのは、名工が丹精込めて作りあげた剣や槍、弓などの武器類。これが、彼女を武術に熱中させた原因とも言えるのだが。

 しかし、今はもう一つそういったものができた。それは──オマリー商会が生み出した「オマリーシルク」。


 偶々彼女の管理する王家直轄領に近い領地で、手に負えない魔獣が現れた。その魔獣を直轄領に追い込み、討伐。その後、近場を散策していた際に、ルアンスパイダーの群れを発見した。ここを住処としているらしい。

 ルアンスパイダーは、こちらが何もしなければ攻撃はしてこない。共存できる魔獣だ。しかも、彼らから取れる糸からは高級な布が作られる。

 ただ、その糸を上手く織れる職人の数が圧倒的に少ないので、なかなか商売にはならない。これまでも、いくつかの商会が取り扱おうとしては失敗していた。


 己の管理する領地で、そんなルアンスパイダーの住処が見つかった。

 これは、ある種チャンスではないか。

 ルアンスパイダーから織られた高級布を広めることができたなら、エイベラル王国の特産ともなり、国も潤う。

 だが、この事業はリスクが大きい。王家で扱うより、信頼があり、専門知識を持つ商会に任せた方がいい。


 そこで思い当たったのが、エイベラル王国を拠点に周辺各国に支店を展開する「オマリー商会」だった。商会を営むオマリー伯爵家の令嬢とは接することも多く、知己の仲である。

 グローリアは、彼女、二コラ=オマリーに相談を持ち掛けた。すると、二コラは目を輝かせ、ぜひ手掛けたいと言ってくれた。

 領地を持たないオマリー家に、一からの生産事業は難しい。グローリアは、領地の一部を貸与することを早々に決めた。

 その他にも様々な困難に見舞われたが、オマリー商会は、見事軌道に乗せることに成功する。


 ルアンスパイダーを飼育し、取れた糸で織られた高級布は「オマリーシルク」と名付けられ、一世を風靡した。間接的にではあるが、自分も関わったことでもあり、とても嬉しかった。

 グローリアには、オマリーシルクそのものと、それで仕立てられたドレスが献上されたのだが、ドレスに興味のないグローリアでさえもその美しさに目を見張り、身に纏えることを誇らしく思った。


 ただ、ルアンスパイダーの糸は、元の乳白色が強く、染色が難しいという欠点があった。なので、色のバリエーションが圧倒的に少ない。

 これだけが惜しいところだが、それでも他の高級布にはとても及ばない品質で、グローリアは身に着けるほとんどをオマリーシルクに変えたほどだ。


 しかしこの度、この問題点が解消されたと聞いた。その連絡を受けた瞬間、思わず喜びの声をあげてしまった。


『すごい! すごい! 素晴らしいぞ、二コラ!』


 その後、これまでにない美しい色に染められたオマリーシルクが数本届けられた。

 深紅に深緑、群青という濃い色もあれば、薄青、薄黄、薄桃と、淡い色もある。

 と同時に、これらを使用した加工品も届いた。こちらは、チーフにスカーフ、リボンにポーチ等である。どれも素晴らしく、持っているだけで、他の貴婦人たちが羨むだろう逸品だった。

 これらを目の前にして、今、グローリアは上機嫌である。

 鼻歌でも歌ってしまいそうな勢いで王宮の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「姉様、珍しくご機嫌ですね」


 振り返ると、弟二人が苦笑いを浮かべている。


「テレンスに、ウィリアム、二人してどうした?」


 第一王子で王太子のテレンスに、第三王子のウィリアム。

 王家には五人の子どもがいるが、この二人とグローリアは考え方も近く、仲がよかった。

 残り二人、第二王子のヨハンと第二王女のポーリーンとは反りが合わない。というか、ポーリーンの我儘放題に手を焼いている。

 ヨハンは、王や王妃と同様にポーリーンを甘やかすだけの存在で、これまた頭痛の種だ。

 そしてこれは、テレンスとウィリアムも賛同している。テレンスは次期王でもあり、自分が何とかしなければと考えているだけに、彼が一番頭を悩ませていることだろう。


「実は、姉様にも共有しておきたいことがありまして」


 テレンスの瞳が仄暗く瞬く。

 これを見て、グローリアはなんとなく悟った。


 どうやら、王太子が何かを画策したらしい。

 彼は、実直で品行方正な人物だが、時には非情な判断を下す冷徹さも持ち合わせている。


「……なるほど。ポーリーンの輿入れのことだな?」

「さすがは姉様ですね」

「その顔を見れば、すぐにわかる」


 テレンスは若干眉を下げ、困ったように微笑む。ウィリアムは、それとなく周囲を警戒している。

 姉弟が立ち話をしているだけなのだが、彼らは王族、誰かに見られて下手に勘繰られても困る。


「私の執務室へいらしてください。人払いは済ませています」

「わかった。少し時間をずらして向かう」

「ありがとうございます」


 テレンスとウィリアムは一礼し、この場を後にした。

 ウィリアムはテレンスの執務を手伝うことも多いので、彼らが一緒にいることは決して不自然ではない。


「……本来なら、それはヨハンの役目なのだがな」


 吐息ほどの小声でそう呟く。

 グローリアは嘆息し、一旦自分の部屋へ戻ることにした。

いつも読んでくださってありがとうございます。

いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価(☆☆☆☆☆)をいただけますととても嬉しいです。皆さまの応援が励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ