15.第一王女、グローリア=エイベラル
グローリア=エイベラルは、エイベラル王家の第一子の王女でありながら、王宮騎士団を統括する傑物である。
女性でありながら騎士服に身を包み、騎士たちを率いるその姿は勇ましい。老若男女、身分もかかわらず、人気が高い。特に年頃のご令嬢たちは、その姿を見かける度に黄色い声をあげてしまうほどだ。
そんな彼女も、いっぱしの女性。美しいものは大好きだ。といえど、ドレスで着飾ったりなどはさほど興味がない。そして、キラキラと輝く宝石なども。
そんなものよりも、絵画や音楽の方に興味がある。それよりも心惹かれるのは、名工が丹精込めて作りあげた剣や槍、弓などの武器類。これが、彼女を武術に熱中させた原因とも言えるのだが。
しかし、今はもう一つそういったものができた。それは──オマリー商会が生み出した「オマリー絹」。
偶々彼女の管理する王家直轄領に近い領地で、手に負えない魔獣が現れた。その魔獣を直轄領に追い込み、討伐。その後、近場を散策していた際に、ルアンスパイダーの群れを発見した。ここを住処としているらしい。
ルアンスパイダーは、こちらが何もしなければ攻撃はしてこない。共存できる魔獣だ。しかも、彼らから取れる糸からは高級な布が作られる。
ただ、その糸を上手く織れる職人の数が圧倒的に少ないので、なかなか商売にはならない。これまでも、いくつかの商会が取り扱おうとしては失敗していた。
己の管理する領地で、そんなルアンスパイダーの住処が見つかった。
これは、ある種チャンスではないか。
ルアンスパイダーから織られた高級布を広めることができたなら、エイベラル王国の特産ともなり、国も潤う。
だが、この事業はリスクが大きい。王家で扱うより、信頼があり、専門知識を持つ商会に任せた方がいい。
そこで思い当たったのが、エイベラル王国を拠点に周辺各国に支店を展開する「オマリー商会」だった。商会を営むオマリー伯爵家の令嬢とは接することも多く、知己の仲である。
グローリアは、彼女、二コラ=オマリーに相談を持ち掛けた。すると、二コラは目を輝かせ、ぜひ手掛けたいと言ってくれた。
領地を持たないオマリー家に、一からの生産事業は難しい。グローリアは、領地の一部を貸与することを早々に決めた。
その他にも様々な困難に見舞われたが、オマリー商会は、見事軌道に乗せることに成功する。
ルアンスパイダーを飼育し、取れた糸で織られた高級布は「オマリー絹」と名付けられ、一世を風靡した。間接的にではあるが、自分も関わったことでもあり、とても嬉しかった。
グローリアには、オマリー絹そのものと、それで仕立てられたドレスが献上されたのだが、ドレスに興味のないグローリアでさえもその美しさに目を見張り、身に纏えることを誇らしく思った。
ただ、ルアンスパイダーの糸は、元の乳白色が強く、染色が難しいという欠点があった。なので、色のバリエーションが圧倒的に少ない。
これだけが惜しいところだが、それでも他の高級布にはとても及ばない品質で、グローリアは身に着けるほとんどをオマリー絹に変えたほどだ。
しかしこの度、この問題点が解消されたと聞いた。その連絡を受けた瞬間、思わず喜びの声をあげてしまった。
『すごい! すごい! 素晴らしいぞ、二コラ!』
その後、これまでにない美しい色に染められたオマリー絹が数本届けられた。
深紅に深緑、群青という濃い色もあれば、薄青、薄黄、薄桃と、淡い色もある。
と同時に、これらを使用した加工品も届いた。こちらは、チーフにスカーフ、リボンにポーチ等である。どれも素晴らしく、持っているだけで、他の貴婦人たちが羨むだろう逸品だった。
これらを目の前にして、今、グローリアは上機嫌である。
鼻歌でも歌ってしまいそうな勢いで王宮の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「姉様、珍しくご機嫌ですね」
振り返ると、弟二人が苦笑いを浮かべている。
「テレンスに、ウィリアム、二人してどうした?」
第一王子で王太子のテレンスに、第三王子のウィリアム。
王家には五人の子どもがいるが、この二人とグローリアは考え方も近く、仲がよかった。
残り二人、第二王子のヨハンと第二王女のポーリーンとは反りが合わない。というか、ポーリーンの我儘放題に手を焼いている。
ヨハンは、王や王妃と同様にポーリーンを甘やかすだけの存在で、これまた頭痛の種だ。
そしてこれは、テレンスとウィリアムも賛同している。テレンスは次期王でもあり、自分が何とかしなければと考えているだけに、彼が一番頭を悩ませていることだろう。
「実は、姉様にも共有しておきたいことがありまして」
テレンスの瞳が仄暗く瞬く。
これを見て、グローリアはなんとなく悟った。
どうやら、王太子が何かを画策したらしい。
彼は、実直で品行方正な人物だが、時には非情な判断を下す冷徹さも持ち合わせている。
「……なるほど。ポーリーンの輿入れのことだな?」
「さすがは姉様ですね」
「その顔を見れば、すぐにわかる」
テレンスは若干眉を下げ、困ったように微笑む。ウィリアムは、それとなく周囲を警戒している。
姉弟が立ち話をしているだけなのだが、彼らは王族、誰かに見られて下手に勘繰られても困る。
「私の執務室へいらしてください。人払いは済ませています」
「わかった。少し時間をずらして向かう」
「ありがとうございます」
テレンスとウィリアムは一礼し、この場を後にした。
ウィリアムはテレンスの執務を手伝うことも多いので、彼らが一緒にいることは決して不自然ではない。
「……本来なら、それはヨハンの役目なのだがな」
吐息ほどの小声でそう呟く。
グローリアは嘆息し、一旦自分の部屋へ戻ることにした。
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