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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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11/22

11.婚約解消

 そんなことを思い出してほっこりしていた私だけれど、お父様の怒鳴り声で現実に引き戻された。


「なんて奴だ!」

「すでに婚姻を遅らせているのよ? なのに、これ以上なんて!」

「彼は、ポーリーン殿下の輿入れに同行するのだろう? そして、いつ戻るとも知れない。……領地なしとはいえ、格上の我が家を馬鹿にしているのか!」

「オマリー伯爵家もですが、なにより二コラを下に見ているのですわ! もう我慢なりません!」


 両親は怒り狂っている。


 それも当然である。

 フランシスの家は子爵家、うちは伯爵家。おまけに、彼は婿入り予定だったのだから。

 婿入り先の稼業にもつかず、己の道を優先し、婚約者を蔑ろにして婚姻をも遅らせる。


 ……改めて考えると、とんでもなくひどい。

 それを許したのは、私なのだけれど。


「彼は、まだ姉上が自分を愛していると勘違いしています。愛する自分の言うことなら、姉上はなんだかんだ言っていても、最終的には受け入れてくれると……そう思っているのです。…………頭わいてんのか」


 こらこら、エヴァン。両親にも毒を吐き出しているわよ?


「二コラ、お前の気持ちはわかった。向こうが何と言おうとも、この婚約は解消する」

「旦那様、私も同席させてくださいませ」

「わかった。オークウッド子爵とは旧知の仲だからな……情に訴えてくるだろう。流されるつもりはないが、君がいた方が確実だろう。頼む」

「もちろんですわ!」


 二人の目がメラメラと燃えている。

 エヴァンも同席したいと申し出たけれど、さすがにそれは断られていた。


「残念」

「エヴァンが同席するのはおかしくない?」

「散々あちらを責め立ててやろうと思ったのですが」


 想像して、ぶるりと震えた。

 フランシス個人にやるのならいいけれど、子爵夫妻にそれは気の毒すぎる。

 オークウッド子爵夫妻には、よくしてもらったのだ。とても可愛がってもらった。

 だから、あのお二人との縁が切れてしまうのは、私としても残念なのだ。私でそう思うのだから、仲の良かった父親同士は、さらに残念なことだろう。


 *


 オークウッド子爵家に手紙を出し、子爵夫妻とフランシスがオマリー伯爵家にやってきて、二家間で話し合いが持たれた。


 こんな事態になっても、フランシスは私に言ったことを繰り返し、なかなか解消に応じようとしなかった。

 これまでポーリーン殿下を優先し続け、私を蔑ろにしてきたことを突かれると、激昂する。言い訳を喚きたてるが、その度に私は反論し、彼の言葉を封じる。


 いくら仕事とはいえ、度が過ぎていたのだ。それに、私はポーリーン殿下に幾度となくマウントを取られ、フランシスはそれを知っているにもかかわらず、私を庇おうとしなかった。それどころか、一緒になって貶めていたのだから始末に負えない。

 それらを筋道を立てて子爵夫妻に説明すると、彼らは青くなって平身低頭で謝罪した。そして、おとなしく契約書にサインをする。


「フランシス、お前もサインするんだ」

「父上、どうして私がっ……」

「フランシス! 二コラさんに申し訳ないと思わないの? 二コラさんはずっとあなたを応援し、支えてくれていたというのに、あなたは……」


 怒りを露わにする父親、泣き崩れる母親に抗えず、フランシスは情けない顔で私を見つめた。

 私は、フイと視線を逸らす。


 今更縋ってこられても困るわ。


 自分の両親と私たちに追い詰められた彼は、どうすることもできない。

 フランシスは小さく唸りながら、渋々婚約解消の書類にサインをしたのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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