11.婚約解消
そんなことを思い出してほっこりしていた私だけれど、お父様の怒鳴り声で現実に引き戻された。
「なんて奴だ!」
「すでに婚姻を遅らせているのよ? なのに、これ以上なんて!」
「彼は、ポーリーン殿下の輿入れに同行するのだろう? そして、いつ戻るとも知れない。……領地なしとはいえ、格上の我が家を馬鹿にしているのか!」
「オマリー伯爵家もですが、なにより二コラを下に見ているのですわ! もう我慢なりません!」
両親は怒り狂っている。
それも当然である。
フランシスの家は子爵家、うちは伯爵家。おまけに、彼は婿入り予定だったのだから。
婿入り先の稼業にもつかず、己の道を優先し、婚約者を蔑ろにして婚姻をも遅らせる。
……改めて考えると、とんでもなくひどい。
それを許したのは、私なのだけれど。
「彼は、まだ姉上が自分を愛していると勘違いしています。愛する自分の言うことなら、姉上はなんだかんだ言っていても、最終的には受け入れてくれると……そう思っているのです。…………頭わいてんのか」
こらこら、エヴァン。両親にも毒を吐き出しているわよ?
「二コラ、お前の気持ちはわかった。向こうが何と言おうとも、この婚約は解消する」
「旦那様、私も同席させてくださいませ」
「わかった。オークウッド子爵とは旧知の仲だからな……情に訴えてくるだろう。流されるつもりはないが、君がいた方が確実だろう。頼む」
「もちろんですわ!」
二人の目がメラメラと燃えている。
エヴァンも同席したいと申し出たけれど、さすがにそれは断られていた。
「残念」
「エヴァンが同席するのはおかしくない?」
「散々あちらを責め立ててやろうと思ったのですが」
想像して、ぶるりと震えた。
フランシス個人にやるのならいいけれど、子爵夫妻にそれは気の毒すぎる。
オークウッド子爵夫妻には、よくしてもらったのだ。とても可愛がってもらった。
だから、あのお二人との縁が切れてしまうのは、私としても残念なのだ。私でそう思うのだから、仲の良かった父親同士は、さらに残念なことだろう。
*
オークウッド子爵家に手紙を出し、子爵夫妻とフランシスがオマリー伯爵家にやってきて、二家間で話し合いが持たれた。
こんな事態になっても、フランシスは私に言ったことを繰り返し、なかなか解消に応じようとしなかった。
これまでポーリーン殿下を優先し続け、私を蔑ろにしてきたことを突かれると、激昂する。言い訳を喚きたてるが、その度に私は反論し、彼の言葉を封じる。
いくら仕事とはいえ、度が過ぎていたのだ。それに、私はポーリーン殿下に幾度となくマウントを取られ、フランシスはそれを知っているにもかかわらず、私を庇おうとしなかった。それどころか、一緒になって貶めていたのだから始末に負えない。
それらを筋道を立てて子爵夫妻に説明すると、彼らは青くなって平身低頭で謝罪した。そして、おとなしく契約書にサインをする。
「フランシス、お前もサインするんだ」
「父上、どうして私がっ……」
「フランシス! 二コラさんに申し訳ないと思わないの? 二コラさんはずっとあなたを応援し、支えてくれていたというのに、あなたは……」
怒りを露わにする父親、泣き崩れる母親に抗えず、フランシスは情けない顔で私を見つめた。
私は、フイと視線を逸らす。
今更縋ってこられても困るわ。
自分の両親と私たちに追い詰められた彼は、どうすることもできない。
フランシスは小さく唸りながら、渋々婚約解消の書類にサインをしたのだった。
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