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未練なんてありませんが?  作者: 九条 睦月


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01.不適切な距離

完結済みの作品となりますので、毎日18:00に更新いたします!

「こちらでございます」


 王宮の女官に連れてこられたのは、商品の買い付けなどを行う際に使われる小さめの謁見室。

 私が部屋に入ると、後ろから我がオマリー商会の従業員たちも、大量の荷物を抱えて次々に入ってくる。そして、彼らはすぐさま荷物を広げ、商品を綺麗に陳列していった。


 私は、それらに不備がないかチェックしていく。

 うん、問題ない。うちの商品は、どれも最高級に素晴らしいものだ。なにせ、王族御用達。こんな風に王宮に呼ばれ、王族の方々が買い物をされるというのは、商会としてこれ以上ない誉だろう。


 呼んだのが()()以外なら、もっと心は浮き立つだろうに。


 私は、こっそり吐息する。


「オマリー伯爵令嬢、ポーリーン殿下がいらっしゃいました」

「承知いたしました」


 私たちは一列に並び、謁見室に入ったきた人物に向かって、丁寧に頭を下げる。

 衣擦れの音とともに近づく、きつい香水の匂い。眉を顰めそうになるけれど、必死に堪える。


「面を上げなさい」


 私たちは、ゆっくりと顔を上げる。

 今日も、これでもかと着飾った姿を見せる彼女──エイベラル王国第二王女、ポーリーン殿下が目の前で微笑んでいた。

 キラキラと輝く金の髪を結い上げ、そこから覗く形のいい耳にはサファイアのイヤリング。ネックレスもお揃いだ。ふと見ると、指にもサファイアのリングがはめられている。

 そして、彼女を守るようにつき従うのは、専属の護衛騎士。


「久しぶりね、二コラ。こうでもしないとなかなか会えないと思って。ほら、フランシス」


 ポーリーン殿下は、護衛騎士の腕をトントンと叩く。まるで、じゃれるみたいに。

 護衛騎士は彼女に優しく微笑み、私の方を向いた。


「久しぶりだな、二コラ」

「ええ……そうね」

「元気そうでなによりだ」

「おかげさまで。……あなたもお元気そうで」

「ああ。ポーリーン殿下をお守りするため、日々精進を重ねている」


 すると、王女殿下はフランシスの腕に自分の腕を絡ませ、彼をうっとりと見つめる。


「フランシスは、私のためにとても努力しているの! 彼はいつだって私の側で私を守ってくれる、頼もしい存在よ。もう今じゃ、フランシスが側にいてくれないと不安になってしまうくらい。だから、なかなかあなたの元に帰してあげられなくてごめんなさいね」

「いえ……」

「とんでもないことですよ。光栄です、ポーリーン殿下」


 フランシスも、彼女に甘い視線を向ける。


 ……私はいったい、何を見せられているのかしら?

 ポーリーン殿下と仲睦まじく微笑み合う護衛騎士……彼、フランシス=オークウッドは、私、二コラ=オマリーの婚約者だというのに。


 彼らはその後、私の存在などないかのように一緒になって商品を吟味し、楽しげに買い物をする。その間、王女殿下はずっとフランシスの腕にぶら下がったままだった。


「ねぇ、フランシス、この髪飾りはどうかしら?」

「とてもお似合いですよ、殿下」

「本当? 普段使いに素敵よね」

「ポーリーン殿下、もしよろしければ、そちらを私にプレゼントさせていただけませんか?」

「え? 本当に……? 私、別に催促したわけじゃないのよ?」

「いえ、私があなた様に贈りたいのです」

「ありがとう、フランシス。嬉しい!」


 ポーリーン殿下は、ますます強くフランシスの腕にしがみつく。

 フランシスは、嬉しそうに鼻の下を伸ばしていた。


 だーかーらぁ! 私は何を見せられているのよ!?

 それに、さっきからしきりに王女殿下が私の方をチラチラ見てくるし。時折、勝ったと言わんばかりに口角を上げて。

 いや、それだけじゃない。マウントまで取ってくる。


「嬉しいけれど、二コラの前で悪いわ」

「いいのですよ。彼女にはまた別の機会に」

「そう? それじゃあ遠慮なくいただくわね! 二コラ、ごめんなさいね。フランシスはあなたの婚約者だというのに」


 それがわかっているなら、どうしてこういうことができるの?

 婚約者なのにおざなりにされている私と、主でありながら大切に慈しまれているあなた。

 比べているの? それで勝ったって?


 ……そのとおりよ!


 いくら専属騎士でも、この距離感はない。おまけに、婚約者の目の前で主とはいえ他の女性に贈り物をするなんて。

 ──王女が相手であっても、到底ありえないこと。


 ねぇ、いつからだったかしら? 私たちがこんな風になってしまったのは。

 婚約した当時は、周りが照れてしまうくらい親密な関係だったというのに。

 これが、ずっとずっと続くものだと信じていたの。それなのに、今はこんなに近くにいるのに、その存在が遠い。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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